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24、聖女様とパレードします。

 バイエル正教会における聖女の聖座就任式には、各国の要人にも招待状が送られた。

 そして、ピュレル王国からは、イーリスの二人の兄が国賓として招かれることとなった。

 イーリスにとっては、数ヶ月振りの家族との再会であった。

「アレロー兄様、オーキュティー兄様、お久し振りです!」

久々の再会に、私は嬉しくなって、二人の兄に駆け寄った。

「久しぶりだねイリィ、ちょっと見ない間に、また綺麗になったね。」

「大丈夫か?苛められてたりなんかしないか?何かあったら遠慮なく俺達に言うんだぞ!」

久しぶりの家族との会話は、やはり胸が温かくなるものだった。

「ご心配いりませんわ、オーキュティーお兄様、皇太子殿下には大変良くしていただいておりますし、聖女様とも、とても親しくさせていただいております。」

イーリスは心から、今幸せであることを二人の兄に伝えた。

 今の私には、故国が二つある状態だった。バイエル王国のことも、ピュレル王国のことも、どちらも等しく大切で愛しい。

 そう思わせてくれるバイエル王室にも、そしてピュレル王室の家族の皆にも、ただ感謝しかなかった。

「お前が始めた、スイートビーツの栽培は、軌道に乗っている。今ではかなりの量の紅糖が生産できているぞ。」

「何よりです、今バイエル王国は聖女様効果で潤沢ですので、ぜひ紅糖をバイエル王国に売ってください。高値で取引できますわ。」

一緒にスイートビーツを作った孤児院の皆は元気だろうかと思う。

 頑張って飛べば行けない距離ではないのに、やはり他国の王室にいては、気軽に出国はできなかった。

「皆は元気でいらっしゃいますか?」

「ああ、もちろん元気だ。父も母も、あと孤児院の皆からは、手紙を預かっている。」

「まあ…!」

アレロー兄様から渡された手紙には、『虹のお姫様、また遊びに来てね』という文字と共に、お姫様と虹の可愛い絵が描いてあった。

 一生懸命描いてあるのが伝わってきて、胸に愛しさが広がる。

「戦が始まりそうになった時は、どうなることかと思ったけれど、こうしてスイートビーツが順調に育っているのも、イリィが聖女様を降臨させ、戦を未然に防いでくれたおかげだ。皆に代わってお礼を言いたい。」

「本当に、他国に行ってすぐに、こんな形で世界を守るなんて、俺達も鼻が高いぜ。最高の妹だ!」

「そんな、褒めすぎですわ、お兄様方、私ではなく聖女様の功績です。」

「謙遜するな、お前の努力が実を結んだのだと、誰もが知っている。今日は聖女様と一緒に、遠慮なく胸を張って、儀式に参加していれば良い。」

「お兄様……、」

バイエル王国に来てずっと、家族のため、国民のために頑張ってきたけれど、その結果をこうして、誰よりも大事に思っている家族に、手放しで褒めて貰えるなんて、本当に全ての苦労が報われる気持ちだった。

「本当に、今日はご参列ありがとうございます。ぜひ最後までいらしてください。儀式が終わりましたら、宴席でまたお話いたしましょう。」

まだまだ話は尽きなかったが、もうすぐ時間なので、私はバイエル大聖堂の王族の席の方へと移動した。

 まだ籍こそは入れていないものの、婚約者として、私にはゼフィール皇太子の隣の席が用意されていた。

 やがて聖堂に讃美歌が流れ、祭壇に大司教が登り、聖書の一説を唱え、最高位の聖職である、聖座の設立が宣言される。

 その初代聖座である、未央が大聖堂に姿を現し、聖堂内は静かなざわめきに包まれた。

(未央、とても綺麗だわ…)

清楚な白いドレスに身を包んだ未央は、どこから見ても素晴らしい聖女様だった。

 そして私は知っていた。未央がその見た目以上に、心根が真に聖女と呼ぶに相応しい、本当に素晴らしい人であることを。

 聖杖を肩に充てられ、未央が聖座への就任が宣言されるのを、私は誇らしい気持ちで見つめていた。

 そして、初代聖座として聖杖を与えられた未央は、祭壇で短く『聖なる祈り』を捧げた。

 ごく小範囲の『浄化する力』であったけれど、この祈りによって、聖堂内と、半径1㎞辺りにいる人や動植物は皆浄化され、身体の疲れも怪我も癒え、心も穏やかになり、同時に聖女の力を実感することとなった。


 儀式の後に続くのは、聖女による市内のパレードだった。

 今日のために作った、フルオープンの白い馬車に未央は乗り込むことになった。

 二人乗りのこの馬車には、何故か未央の隣に、聖女を降臨させた立役者として、私が乗り込むこととなり、ゼフィール皇太子や騎手達は、騎馬で周りを囲むこととなった。

 沿道には、初代聖座となった聖女様を一目見ようと、実に沢山の人達が詰めかけていた。

 皆口々に祝福の言葉や、感謝の言葉を口にしており、中には感極まって泣いている人達もいた。

 誰もが幸せそうに笑っており、その顔を見るだけで、イーリスはやはり自分のしたことは正しかったのだと嬉しい気持ちになっていた。

 馬車はゆっくりと街の外周近くまで行き、そこからぐるりと道を回って、また大聖堂に戻る予定だった。

 パレードの周りには厳戒態勢が、敷かれており、今回はバルトも人間の姿で騎馬し、イーリスを守っていた。

 そこにいる人達は皆、先ほどの未央による『聖なる祈り』の恩恵を受けており、誰もが心穏やかになっていた。

 だからこそ、心配ないと思いながらも、イーリスの胸には、言い知れぬ不安が先ほどから頭をもたげていた。

 決して安心してはいけない、危険は常に、安心の裏にある、と。


 この時私は、けれどもあんなにも恐ろしい事態が私の身に待ち受けているとは、まだ分かっていなかった。


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