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22、皇太子に告白しました。

「ゼフィール皇太子殿下、先ほどは配慮に欠ける物言いをしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」

部屋に入ることを許された私は、開口一番まずは謝ることから始めた。

「いや…、こちらこそ失礼な態度を取って申し訳なかった。自分でもどうして不機嫌になってしまったのか、よくわからないのだ。イーリス姫は正しい見解を話していただけだ。何も非はない。」

「何故不快なお気持ちになられたのか、分かっていらっしゃらないのですね…。」

ゼフィール皇太子の様子に、私は気付いた。皇太子も私も、まだ恋に無自覚であったと。

 つまりこれは、まだ恋と呼ぶには早すぎる感情だったのかもしれない。

 お互い、国のために、政略結婚のための婚約をした。

 その上で仲良くやって行きたいとは思っていたけれど、こと恋愛に関しては、あまりにも無知であったのだ。

 それでも、と思う。

「私は、ゼフィール皇太子殿下をお慕いしておりますわ。」

「イーリス姫…?」

突然の告白に、ゼフィール皇太子の顔がみるみると赤くなった。

 破滅フラグを回避するためには、好きになってはいけない人だと思っていた。

 いずれは聖女様と恋仲になってしまう人かもしれない、という不安はいまだにある。

 それでも、と思う。

 私は、この人をもう、好きになってしまっていたのだと。

「私は、この世界を、王国を、国民を何より大切に思っております。それは皇太子殿下も同じであると感じております。その上で、私は皇太子殿下のお優しさに大変心惹かれておりました。」

「イーリス姫…、」

ゼフィール皇太子は、席を立つと、私の方へと近づいてきてくれた。

「私も、貴女を、イーリス姫を一目お会いした時から、好ましく思っておりました。」

「ゼフィール皇太子殿下……、」

皇太子の手が、優しくイーリスを抱き寄せた。

「お慕いしております…、」

皇太子の腕の温かさに、イーリスの瞳からは自然と涙が溢れた。

 もしかしたら、来年には失う温もりかもしれない。

 それでも、たった今この瞬間だけでしかなかったとしても、お互いに思いを通じ合えたのが嬉しかった。

 永遠を信じられないのは寂しいことだったけれど、瞬間だけでも真実があるなら、私にはそれだけで充分だった。


「ところで皇太子殿下、先ほどの話を未央様にもしたのですが、未央様としては、元の世界に帰りたいので、結婚には賛成しかねるとのお返事でした。」

椅子に、座り直し、私は今後のことを皇太子ときちんと話し合うことにした。

「確かに、彼女は王族の生まれではない。望みもしない者に、無理に王族となる責任を負わせるのは酷というものだろう。」

「未央様は、元の世界とこちらを行き来されることを望んでいらっしゃいます。それが実現できることかどうかは分かりません、けれど私としましては、未央様の願いを最大限叶えて差し上げたいと感じております。」

未央を無理にこちらに呼んだ者の責任として、そのくらいはするべきだという思いが、私にはあった。

「聖女様を一度もとの世界に返し、また呼び出すと言うのか?それはそんなにも自在にできるものなのだろうか?」

「正直難しいかもしれません。もしも上手く帰すことができても、再びの降臨がどうなるかは未知数です。」

「もしも、聖女様を返すことだけしかできなかった場合、聖女様を我が国が永遠に失った場合、聖女を求める人達により、貴女は非難を受けてしまうかもしれません。」

「その時は甘んじて批判を受けましょう。それでも中途半端な立場で、聖女様が他国に奪われたり、戦の種になるよりかは良いかもしれません。」

「中途半端な立場…、」

私の言葉に、皇太子殿下は何かを思い付いたようだった。

「そう、中途半端な立場にあることが、議論の元となっているのだ。聖女様にしっかりとした役職を与えられれば、それで良い話であろう。」

「しっかりとした役職、でございますか?」

「そうだ、彼女の身を教会預りにすれば良い。バイエル正教会の大司教に次ぐ役職として、聖座を設け、聖女様にその役職に就いていただこう。」

ゼフィール皇太子は立ち上がると、部屋を歩きながら、持論を展開した。

「特例として聖女様には、元の世界との行き来は許可する。教会の預りとなれば、神の名の元、奪い合いなどの争いを避けることもできるし、聖座のみ特例とすれば、教会特有の教義に縛られることもない。……ということで、いかがですかな、聖女様?」

ゼフィール皇太子が扉を開けると、その向こうから、未央が体勢を崩して転がり来んできた。

「未央!?そこにいらしたの!?」

「やれやれ、扉にへばりついて聞き耳を立てるとは、あまり良い趣味とは言えませんな、聖女様。」

ゼフィール皇太子は、そんな未央の姿に笑いを堪えていた。

「いやー、不器用な二人が、ちゃあんと気持ちを伝えられるんか、うち心配になってもてな、」

未央は起き上がると、恥ずかしそうに頭を掻きながら言い訳をした。

「でも、上手くいったみたいやん。皇太子はん、イリィはホンマにエエ子や、絶対幸せにしたらなあかんで。」

「言われるまでもありません。」

二人の会話から、心から大切に思って貰えているこどか伝わってきて、イーリスは再び涙ぐみそうになる程嬉しかった。

「で、さっきの話やけど、聖座とやら?うちに実家との行き来とか、商売とか許してくれるんやったら、なってもエエよ。」

「商売…ですか?」

「せや、向こうの世界の美味しいもん、こっちに持ってきて売り捌いたる。絶対儲かるで。」

「分かりました。聖座は商売にも特化した、特別な役職といたしましょう。」

「さすが皇太子はん、話が分かるわ、ほな商談成立や。」

悪びれもせず笑う未央を見て、イーリスはこの世界に産まれて、この人達と関われたことを、本当に幸せなことだと改めて思っていた。

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