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19、黒梟の正体

 

 聖女の存在は、あっという間に世界中の知る所となった。

 バイエル王国には、連日聖女様を一目見たいという人達が押し掛けるようになったのだった。

 そしてその人々は王宮の庭を埋め尽くすまでになっていた。

 そのため、聖女の顔出しは日に数回、一回十数分ほどで、十数分ほどで、次に待機の人々に変わる、という方式が取られた。

 聖女が顔を出すたびに、広間を埋め尽くしている人々が歓声を上げる。

「まるで一般参賀みたいや…、」

あまりの反響に、未央は驚きながらも、数時間に一回バルコニーから顔を出しては、国民達の歓声に応えていた。

 国民には、ひたすら笑顔で優しく手を振っていた未央だったが、イーリスと皇太子の前では、不安も正直に口にしていた。


「うちのさっきの力は、恒久的なモノやない。一時的なモノや。たぶん、持って半年ってトコロやろ、せやからその間に、根本的な解決しとかんと、また開戦の危機に陥るなんて、すぐのことやで?」

「確かにその通りだ。国交が開いている今の内に、ディパル王国の思惑をできる限り突き止めなくてはな。」

未央の言葉に、ゼフィール皇太子が答える。ここ数日一緒にいたおかげで、未央の言葉のクセがだいぶ分かったらしく、もう通訳はほとんど必要なくなっていた。


 そんな中、イーリスにはもう1つ気がかりなことがあった。

 あの、未央が力を行使した直後から、黒梟のバルトの姿が見えなくなっているのだ。

 あれだけの大きく真っ黒な梟だ。どこかにいたら、それなりに存在感があるはずなのに、まったく見当たらない。

 一応花鳥園にも確認したけれど、もちろん帰ってはいなかった。

「バルトー、バルトー!」

一般人は入れない区域の庭に出て、空に向かって呼んでみても、こちらに飛んでくる気配はない。

「いったいどこにいっちゃったのかしら…?」

ため息を吐いて庭を後にしようとした時、後ろの茂みがガサガサと音を立てた。

「バルト!?」

一瞬喜んで後ろを振り返ってみたけれど、そこにいたのは黒梟のバルトではなかった。

 全身黒の服に黒のマントを付け、髪の毛まで真っ暗なのに、瞳だけ金色に輝かせた成人男性が、そこには立っていた。


「あなたは誰ですの?一般人は、ここは立ち入り禁止でしてよ。」

聖女を見に来て迷った一般人かと思い、イーリスは注意しながらも、警戒は怠らずに、一歩後ろに下がった。

「イーリス姫、ご警戒なさらないでください。私です、バルトです。」

そう告げると、黒づくめの青年は、イーリスの目の前で、見慣れた黒梟の姿に変身した。

「まあ、バルト!あなた本当にバルトなの?」

黒梟のバルトは、返事をするように一声鳴くと、再び黒服の青年の姿へと戻った。

「私は間違いなくバルトです、イーリス姫、私は元々黒梟に変身する力と、鳥を操る力を持った、魔法使いだったんです。……ディパル王国に住む。」

バルトと分かり、一瞬警戒を解こうとしたイーリスだったけれど、バルトの最後のセリフに、再び身体を硬くした。

「信じて貰えないかもしれません、でも、私は騙されたのです。」

バルトは苦しそうな顔で告白を始めた。

「辺境の一魔法使いであった私は、ディパル王室付きの魔法使いにして貰えるという甘言に、まんまと乗り、騙されて、精神を取り込まれる魔術を施されてしまいました。」

バルトは本当に悲しそうに踞り、言葉を続けた。

「後はイーリス様もご存知の通り、操られたままピュレル王国の皆様を襲いました。更に私が仲良くしていた、国境の鳥達まで、私は操り、貴殿方を襲いました。何度お詫びしても許されてはいけない悪行でありました。」

バルトの瞳には涙が浮かんでいた。操った鳥達にも、ピュレル王室の皆にも、心から申し訳なかったと感じているのが伝わってきた。

「けれど貴女は、私が犠牲にした鳥達を、皆助けてくださった。その上、この私の命までも、皇太子殿下のお力を借りて、助けてくださったのです。」

「そうだったの…、」

バルトの告白に、イーリスはただただ驚いていた。まさかバルトが人間だったなんて、思いもよらなかったのだ。

「意識を取り戻した私は、せめて何かご恩返しがしたいと思いました。けれど、ディパル王国で掛けられた魔術の後遺症か、人間の姿に戻れなくなっており、せめて何か、と、梟の姿のままお側近くにいさせていただいたのです。」

「今戻れたのは、もしかして聖女様のおかげなのかしら?」

「はい、私もあの白き光を間近で浴び、身体に残っていた悪しき魔術が、完全に抜けていくのを感じました。全てにおいて、まさに皆様方にお助けいただいたのです。」

長い語りを終わる頃、バルトは完全に庭の芝生の上に平伏していた。

「お信じいただけるとは思っておりません、けれど私は、助けていただいたこの命、残りは全て貴女様にお捧げしたいと考えております。どうか、どうかこの命、貴女様のお役に立たせてください!」

地面に額を擦り付けながら、そう懇願するバルトに、イーリスは優しく近付いた。

「どうか頭を上げて、バルト。貴方の過去がどうであれ、貴方はもう、私の大切なバルトよ。大イノシシから、私や聖女様、皇太子殿下を守ってくださった英雄よ。これからも私達と共にいてくれると言うのなら、こんなに嬉しいことはないわ。」

優しくバルトの頭を撫でるイーリスに、バルトは大粒の涙を溢した。

「イーリス様…!ご温情、心より感謝致しますっ…!!」

大泣きをする青年バルトの背中を優しく撫でていると、確かに黒梟のバルトと同じ手触りがするように感じた。

 イーリスは大切なバルトが帰ってきてくれたことに、ほっと安心していた。

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