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17、聖女様と空を飛びます。


「高い!高い!ホンマに飛んどるんか!?」

慌てる未央を、私は落ちないようにしっかりと抱き締めながら、ホバリングした。

「何や、イリィは空飛べるんやな、つーか、ごっつい翼持っといたんやなー。」

「はい、まさかこんな風に役に立つとは思っておりませんでしたけど、ハルピュイアになっていて本当に良かったですわ。」

「あー、そういえばそんな設定あったなぁ。」

話している間にも、地上では皇太子と騎士達はイノシシの戦いが行われていた。

 走れば時速50kmにもなると言われているイノシシは、あれだけの大きさもあれば、重戦車も同じだった。

 けれど、皇太子と騎士達が束になれば、決して敵わない相手ではなかった。

 程なくして、巨大なイノシシは無事に退治され、皇太子達の足元に倒れた。

「もう、大丈夫そうですわね……、」

誰も怪我なくイノシシを倒せたことに安心して、私はゆっくり羽ばたき、皇太子の近くに降り立った。

「申し訳ございません、皇太子殿下、咄嗟に聖女様だけを連れて避難をしてしまいました。お怪我はございませんか?」

あれだけの相手と戦ったのだ。見えない所に怪我があってもおかしくない、と、イーリスは今さらながらに怖くなった。

「大事ない。まともに戦えば、イノシシごとき我らの敵にはならない。だが、不意を突かれていれば危なかっただろう。バルトに感謝をしなくてはな。」

途中から近くの枝に止まって、事態を見守っていたらしいバルトは、皇太子の言葉を聞いて、イーリスの元へと羽ばたいてきた。そしてゆっくりとイーリスの肩へと止まる。

「いつの間にか守ってくれていたのね、本当にありがとう。」

イーリスのお礼に、嬉しそうにイーリスの頬に顔を擦り寄せてから、耳を甘噛みした。

「ふふ、くすぐったいわ、バルト、」

思わず身をすくめそうになり、イーリスは慌てて、抱き上げていた未央を下に優しく降ろした。

「おおきに…、」

イーリスに手を支えて貰いながら、未央はイーリスの白い大きな翼を凝視していた。

 美しい白い翼を背中に生やし、肩には大きな黒い梟を止まらせたイーリスの姿は、さながら宗教画のようだった。

「綺麗や……、」

金の豪奢な髪に、白い肌、大きな白い翼に包まれたイーリスの姿は、まさに大天使の荘厳さを彷彿させた。

「うちを助けてくれて、ホンマにありがとう、イリィはうちの命の恩人や。」

未央はキラキラとした瞳で、イリィの手を握りながらお礼を言った。

「うち、この世界が…ていうより、イリィのことがホンマに好きになったわ、今ならこの世界のために…ていうより、イリィのために『力』を使えそうな気ぃするわ!」

「本当ですか!?」

「ほな、早速試してみよか?早い方がええんやろ?」

いきなりトントン拍子に進んだ話に、イーリスは少し驚いたものの、現在もディパル王国に閉じ込められている国民達のことを思えば、一刻でも早い方が良いことは確かだった。

「それはそうでございますが、今すぐでいらっしゃいますか?」

「そうや、善は急げや!確か小説では塔の上で祈っとったやろ?つまり、高い所で祈った方がええっちゅうことかいな?」

「確かにそうかもしれませんが…、」

「つまり聖女様におかれましては、今ここで『浄化する力』をお使いになってくださる、と、そうおっしゃっておられるのですか?」

隣で私達の話を聞いていた、ゼフィール皇太子が間に入ってくれた。

「そのようですわ、では、今から城の塔に場所を移動いたしましょうか?」

いきなりの展開に戸惑いながらも、私はゼフィール皇太子にそう伺ってみた。

「いや、塔とやらに戻る必要はないで、高い所やったら、すぐ近くにあるやん。」

未央はイーリスの翼を見ながら、ニカッと笑った。

「まさか……」

「せや、今みたいにまたうちを抱えて、飛んでくれたら良いやん。」

つまり抱えて飛んで貰えるのが楽しいのだと、未央は子供のように無邪気に希望してきた。

「うーん…、」

正直、人を抱えた状態で、その人に魔法を使わせた経験はないので、まったく危険がないと言えば嘘になる。けれど今抱えて飛んだ感じでは、未央が祈っている時間くらいは、何とかなりそうだった。

「な、ええやろ?うち、イリィに抱えられながらの方が上手くいきそうな気がするねん。」

「仕方がありませんわね、命綱を付けてなら、してみても良いかもしれませんわ。」

幸い周りには魔法も使える騎士も沢山控えている。もしも未央に万一のことがあったとしても、きっと助けられるだろうと思えた。

「やったー!ほな、よろしく頼むで!」

小躍りしている未央を見て、やれやれと思いながらも、可愛いと思う。

 同時に、何があっても未央を危険に晒さないようにしようと、気を引き締めた。

「ようはアレやろ、ディパル国に、強情張らせんのやめさせたらええんやろ?」

「まあ、そういうことになりますわね。」

未央は命綱を腰に付けると、ディパル王国の位置を確認した。

「あっちの方角やな、準備OKや!」

ディパル王国の方角を向いた未央を、イーリスは後ろから抱き締める。

「気をつけて、」

そんな二人を、ゼフィール皇太子は心配そうに見守っていた。

 周りは騎士がぐるりと守ってくれている。

 きっと大丈夫だ。

 私はそう確信すると、未央をしっかりと抱き締めて、再び大空へと舞い上がった。




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