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1、悪役令嬢に生まれ変わりました。


 目が覚めたら、悪役令嬢だった。

 これ以上の絶望が他にあるだろうか?

 全てを理解した私は、ベッドの上で激しく頭を抱えていた。

 私の名前はイーリス・ピュリファイング、この世界において、いわゆる悪役令嬢と呼ばれる役どころのキャラだった。

 この世界はネット小説「エクサヴィエンス」の中、いわゆる剣と魔法と中世をイメージした貴族達が織り成すファンタジー世界だった。

 私は生まれる前、そう、前世ではただの日本のOLだった。

 名前は新名未琴、31歳、独身。通勤時間にこの小説をじっくりと読んではときめいていた、ただの一読者だった。

 どうして死んでしまったのかは、正直あまり覚えていない。

 確かブラック企業での過労が祟って、年末の通勤時に誤ってホームから線路に転落したかもしれない。

 ただ、とにかく私は何かの拍子に死んでしまって、死ぬ間際まで読んでいたこの小説の中に転生してしまったらしい。

 しかし、まさかよりにもよって悪役令嬢のキャラに生まれ変わるなんて、神様はなんて意地が悪いのだろうかと思う。

 何しろこの悪役令嬢イーリスは、今から三年後に婚約者である隣国の皇太子の腹心に殺され、更に両親始め兄弟も皆殺される羽目になるのだ。

「落ち着いて、私、まずは落ち着いて現状を確認するのよ。」

グラグラする頭を抱えて、私はひとまずベッドから降りた。水を一杯飲みたかった。

 サイドテーブルには冷たい水の入った水差しとコップ、それを持とうとする私の手は、白く綺麗で、美しいレースの袖口のネグリジェを着ているのが分かった。

「私、こんな寝間着着てたんだ…、」

どうも記憶が混在している。自分が未琴なのか、イーリスなのか、よく分からなくなっていた。

「私って、どんな顔だったっけ…?」

鏡台の前に立つと、鏡の中には驚くほど透き通るような綺麗な肌をした、金髪の美少女が映っていた。

 そう、私、イーリス・ピュリファイングは、この王国ピュレルの第三王女であり、現在15歳。

 隣国であるバイエル王国の皇太子、ゼフィール・ユーピテル・バイオアクトの婚約者だった。

 この世界であるエクサヴィエンスは、いくつかの王国に分かれ、王国同士は国境を巡っての戦を繰り返していた。

 戦による世界の衰退を憂えたピュレル王国とバイエル王国は、王女を皇太子に嫁がせることで、戦を納めようと考えたのだ。

 完全なる政略結婚。

 イーリスのことを溺愛していた両親は、自らが決めたことではありながら、敵国と言っても差し支えのないバイエル王国に嫁ぐ娘のことを心から心配していた。

 けれど私イーリスは、決してこの結婚を嫌だと思ってはいなかった。民のためになるのであれば、この身を役立てられることを誇りにすら思っていたのだ。

 ここまでが、この身体の持ち主であるイーリス・ピュリファイングの記憶。

 ここから先は、前世である未琴が、小説で読んだ物語の記憶だった。

 

 

婚約式と同時に、イーリス・ピュリファイングはバイエル王国に住まいを移した。次期皇太子妃として、バイエル王室に早く慣れるためだった。

 政略結婚と分かっていながらも、イーリスは容姿端麗なゼフィール皇太子のことを好ましく思っていた。

 事件が起きたのは、その一年後のことだった。

 突然王宮の噴水の上に、異世界から来た聖女が現れたのだ。

 黒髪に黒い瞳という、変わった容姿をした聖女は、世界を浄化する力を持っていた。

 ゼフィール皇太子はその聖女に強く惹かれた。けれどすでに婚約者のいる身である皇太子は、決して聖女に対して節度を越えた振る舞いはしなかった。

 しかし、聖女と皇太子がお互いに惹かれ合っているのは、誰から見ても明らかであり、その事実は、婚約者であるイーリスの嫉妬心を大いに煽った。

 イーリスは数々の嫌がらせを聖女に向かって行った。

 更に皇太子の不貞を疑ったイーリスの両親は、娘可愛さのあまり、皇太子の暗殺を企てた。

 暗殺は聖女の機転により失敗に終わり、イーリスは婚約を破棄された。

 本来であればその場で切られるか、処刑されてもおかしくない立場のイーリスであったけれど、ゼフィール皇太子はイーリスに剣を向けながらも、決してその身体に剣を突き立てようとはしなかった。

 仮初めでも婚約者であったことの、せめてもの憐みの情だった。

 その場から逃れたイーリスは、けれど恩を仇で返した。

 バイエル王国から逃げる時に、皇后だけが継承できる、魔力の籠った国譲りの王冠を盗んで逃げようとしたのだ。

 イーリスは追いかけてきた皇太子の側近に殺され、王冠は奪い返された。

 最愛の娘が殺されたことに怒ったピュレル王室は、バイエル王国に戦争を仕掛けた。

 しかし武力において勝るバイエル王国に敵うはずもなく、ピュレル王国は敗戦、ピュレル王家は捕縛され、処刑された。

 ピュレル王国は滅亡し、バイエル王国に吸収された。

 心ならずも元婚約者の故郷を滅亡させてしまったことに、ゼフィール皇太子はしばらく思い悩んでいたものの、聖女の優しい献身的な愛により、次第に立ち直り、やがて二人は真実の愛で結ばれ、世界を統一し、戦のない世の中を実現するのだった。


 それが、小説「エクサヴィエンス」の、未琴が読んでいたストーリーである。

 もちろん主役は聖女であり、物語は聖女が噴水の上に降り立つ所から始まる。ちなみに聖女は元は日本の平凡な女子高校生である。

 読者であった頃は、主人公であった聖女に感情移入し、ライバルである婚約者イーリスを心底邪魔に思い、皇太子のイケメン振りにときめいていた。

 けれど今、自分はあれほど嫌いであった悪役令嬢、邪魔な婚約者イーリス王女になってしまっているのだ。

 このままいけば、私は殺され、ピュレル王国は滅亡、父も母も兄弟達も、戦死か処刑の、真っ暗過ぎる未来しか待っていない。

 いったいどうしたら良いのか、考えているうちに、夜もだいぶ明けてきてしまっていた。



  

 

読んだ悪役令嬢転生物語がどれも面白かったので、真似して書きたくなりました。

小説家になろう、初投稿です。少し続けて投稿できたら良いなと思います。

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