↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/265

その4 元勇者vs魔族vs異端審問官


 レーデルたちが飛び込んだ時には、既に四、五人ほど斬り倒され、床を鮮血で塗らしていた。

 残るは異端審問官三人に、ブレネール一党が四人。それぞれ室内を駆け回り、流れに応じて斬り合う相手を変えている。

 レーデルはまず、二対一になりかけているところへ割り込んだ。

 魔族の男を後方から襲い、一刀のもとに斬り捨てる。


「なに……!?」


 突然仲間を斬り倒され、もう一人の魔族の男は動転した。

 その隙をつかれ、異端審問官の一撃を額に受けてしまう。顔面を引き裂かれ、魔族は昏倒した。

 異端審問官は礼を言おうとして、レーデルの顔を見やり――はっと気づく。


「レーデル・クラインハイト!?」


 ためらったのは一瞬。異端審問官はすぐさまレーデルに挑みかかった。

 白刃を閃かせ、レーデルの首を狙う。


「せっかく助けてやったのに、冷たくないかね!?」


 迫る刃を思い切り跳ね返し、レーデルは逃げた。

 代わりにセレナが横から割り込んで、


「あんたらは引っ込んでろ!」


 脇腹にガントレットの一撃をねじ込んだ。

 異端審問官は身体を折り、その場にぐにゃりと崩れ落ちる。

 セレナが一息ついたところに、別の異端審問官の斬撃が飛んできて――


「……やらせませんよ!」


 アレクトが剣を掲げて割り込む。


「助かる!」


 セレナはすぐさま反転し、視界に入った魔族をターゲットに捉え、挑みかかった。

 その間にレーデルはブレネールのもとへ駆け寄り、異端審問官との一騎打ちの間に割り込んだ。


「その剣よこしな!」


 大上段から打ちかかると、ブレネールは不意をつかれながらも反応し、剣で受け止めた。

 その隙をつき、異端審問官が駆け抜けざまの横薙ぎ一閃。

 これにはたまらず、ブレネールは大きく飛びすさり、避けた。

 レーデルも一歩退き、三人の剣士がほぼ正三角形状に並ぶ状況となる。


「おまえ……レーデル・クラインハイトだな!?」


 異端審問官が気づいた途端、ブレネールにぶつけていた殺気をレーデルにも向けてきた。


「レーデル……? てめえか、ジベルとカリストをやったのは……!」


 ブレネールも奇妙な形をした瞳孔を動かして、レーデルに露骨な殺意を向けてくる。


(しくじった……不意打ち一発で倒せれば良かったんだが、そううまくはいかないしな)


 内心で後悔しつつ、レーデルは両者に等しく注意を向ける。

 非常に動きづらい状況になってしまった。誰かが誰かに仕掛ければ、三人目が漁夫の利を得ることになる。

 じりじりと歩を進め、あるいは引き、敵の動きを促してみるが、にらみ合いのまま動かない。

 事態を打開したのは、突然滑り込んできた、大きな氷塊だった。

 ブレネールの背後から勢いよく滑ってきた氷塊は、ブレネールの足を薙ぐはずが――


「……!?」


 勘が働いたか、ブレネールは背後を見ぬまま飛び、氷塊を避けた。

 そのまま氷塊はまっすぐ異端審問官に突っ込んでいき、


「なにぃ!?」


 逃げようとしたところに命中。足を取られて姿勢を崩す。

 ブレネールは一気に突入し、すり抜けざまに一閃を放った。

 一拍遅れ、鮮血が宙に弧を描く。

 異端審問官が倒れたその横を駆け抜けたブレネールの背に、


「はい――ッ」


 レーデルは鋭い突きを放った。

 ブレネールは反転して突きを受け流し、そのまま下からすくい上げる反撃。

 咄嗟にレーデルは身をそらす。刃はわずかにショールをかすめた。

 ブレネールは引き下がり、室内を見渡す。

 仲間は打ち倒され、異端審問官達も沈黙し、立っているのはレーデルたちと、アレクトが喚び出した氷の精霊。

 不利を悟った途端、踵を返し、サッシもない窓を一息に飛び越えた。


「あっ、待ちやがれ!」


 レーデルは扉に回り込んで外に出て、ブレネールを追った。

 が、狼の毛皮に覆われたその背中は、あっという間にスラムの小路に消えてしまった。

 むやみに追いかければ道に迷い、他のスラムの住人に襲われる羽目になりかねない。

 レーデルは追跡をすぐに諦め、剣をしまった。

 廃屋に戻り、壁にぶつかっている巨大氷塊を見やる。

 その中には、魔族の男が氷漬けにされていた。


「それでブレネールと異端審問官の方と、まとめてストライクを取るつもりだったんですけどねえ。ブレネールときたら、なかなか勘がいいようで」

「ボウリングのピンは普通ジャンプしないからな」


 と応じつつ、レーデルは室内を見やる。

 ブレネールのお仲間も、異端審問官達も、全員死んでいた。


「いいニュースと悪いニュースって奴だな。いいニュースとして、ブレネールの力を削ぐことができたのは良かったけど……異端審問官が出てきたのは、猛烈に悪いニュース」

「教会の方々も、隠し財宝の噂狙いで出てきたってことですかねえ?」

「どうなんだろう。トラップ発動狙いだとしても不思議じゃないな。教会は都市同盟を敵だと思ってるし。どちらに転んでも、教会側としては損はない」

「お宝の可能性を考えると、むしろ積極的に絡んだ方が得……というところですかね」


 レーデルは死体をざっと調べる。ブレネールに斬られた男の頬に、双月のマークが浮かび上がっていた。

 懐のネックレスを探る。やはり、欠けた円に十字のサイナーヴァの印が、ペンダントの先についていた。


「こいつらのお仲間があとどれだけいるのか、大いに知りたいところだが……」

「死人に口なし。どうしようもないね」


 ルーティが感想を口にした。


「ところで、遺体の後片付けはどうするんだい? 衛兵がこんなスラムの真ん中に来てくれるかな?」

「ほっとけばいい」


 そう答えて、レーデルは窓の外を見やった。騒ぎの音を聞きつけたスラム在住の貧民達が集まり、廃屋をじっと見つめている。


「スラムの人間が死体から何もかもはぎ取って片付けてくれるだろ。というかそうしないと、俺たちが身ぐるみ剥がれるぞ」

「ま、私は関係ないですけどね」


 アレクトは壁にゲートを発生させ、そのまま立ち去ろうとした。

 レーデルは呼び止めた。


「あ、行っちゃう? 張り込み用に用意した食料が余ってるから、プレゼントしようと思ったんだけど」

「なんですって! そういうことは早く言って下さいよ」


 アレクトはゲートを消滅させ、好物を目にした犬のようにレーデルにすり寄った。




「……振り出しに戻ってしまったような気がする」


 ギルド併設のコーヒーハウスでコーヒーをすすりながら、レーデルは呟いた。

 同じテーブルをセレナ、そしてアレクトが囲んでいる。食料を山分けした後、アレクトは特に何の意図もなく、流れでここまで同行していた。


「異端審問官の参入を知れたのは、大きな一歩ではありませんかねえ」


 アレクトはそう語り、オレンジジュースを飲む。コーヒーは苦手なのだという。


「大きな一歩? ゴールが遠のいたんじゃないのかな。このタイミングで邪魔な奴らが出てきたってことは」


 ルーティの指摘はもっともだった。セレナは呆れ気味に天を仰ぐ。


「話が面倒になる一方じゃねーか。なあアレクト、ブレネールの連れはあれで全部なのか?」

「まだ何人かいるはずですよ。油断はできませんねえ」

「そっちもまだ、あきらめるわけねーだろーしな。おいレーデル、どうする?」

「まずはアルケナルに報告する」


 レーデルは即答した。


「ブレネールの現在位置を割り出せるか頼んでみよう。ま、アルケナルが確実に捕まるまで、もうちょい待たないと」


 窓の外の太陽は西の空に傾きつつあった。が、夕刻にはまだ一時間以上ある。

 さしあたり、コーヒーを楽しみながらしばらくぼーっとしているつもりでいたが――


「……あっ。噂をすれば、ってやつかな」


 ルーティの言葉に、レーデルの目論見は儚く崩れ去った。


「向こうから来たのか。アルケナルが積極的にアプローチしてくるなんて――」


 と冗談を言いかけて、レーデルは驚く。

 アルケナルがエビンを伴ってやって来たからである。


「エビンさん!? どうしたんですか、こんなところまでわざわざ……」


 セレナもアレクトも、そしてルーティも目を見張った。

 エビンが恐ろしく憔悴した顔つきで現れたからである。

 レーデルたちの姿を見つけると、エビンは素早く駆け寄って、いきなり土下座した。


「頼む! 君達の力を貸してくれ!」


 あまりのことに声を失うレーデル達。

 エビンは額を床につけたまま、必死に言いつのった。


「孫をさらわれたんだ! 敵は竜騎士の武具一式を引き渡せと言ってきた! この通り伏して頼む! 竜騎士の兜を取り戻してくれ……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。