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【短編】

女子高生とヘッドフォン


夕暮れ。



少女は制服を着ていた。


淡い紫の長い髪を赤いリボンで真ん中に束ねている。





田舎の緑道で、彼女はゆったりと、ゆったりと歩いていた。


下を向いて、足元を十分すぎるほど確認している。


前を向いて歩きなさいと、先生や、近所のおばさんに怒られるかもしれない。




年頃は10台半ばといったところで、両手を耳に当てている




――正確には、すっぽりと耳に覆い被さったヘッドフォンへ手を当てていた。





驚いたことに、そのヘッドフォンから延びるコードの先には何も無かった。


入力端子が少女の来ている制服のスカートの辺りをプラプラとしている。




それにも関わらず、彼女は首をリズムに乗せて、縦に振ったり、鼻歌を歌ったりしている。



――彼女には、何も聴いていないのに。





でも、確かに彼女は、音楽を聴いている。





彼女が聞いているのは、先日都会へ1人で出かけたときに流れていた曲。



男性ボーカルが、等身大な歌詞を爆音のギターサウンドに乗せて歌い上げていた。





彼女は、その時聞いた”それ”が頭から離れなくなってしまった。





――ふん、ふん ―――ふふーん




それまで音楽に興味の無かった彼女には、音楽を再生する機器を持ち合わせていなかった。


携帯電話もまだ、持たせて貰えない。



田舎だから。友達も別にいないから。



彼女は、それを必要と感じたことはなかった。






だから、彼女はヘッドフォンを買った。







後ろから、同級生達が自転車で彼女を追い越していく



――なんだ、あれ 変なの



――あはは、あの子有名人だよ 変な子だって皆言ってる





安いヘッドフォンは同級生たちの嘲笑から、彼女を守ってくれやしない。




でも彼女には、聞こえなかった。


彼女の頭の中には、あの時の音楽が爆音で流れていた。






彼女はよく、変な気を起こした。



造形の面白い虫を捕まえて、学校に持っていく。



授業をすっぽかして、屋上で雲をずっと見ている。



同級生の持っていた、匂いの強い香水を窓から投げ捨てる。





一度、両親に心配されて、メンタルヘルスに通ったこともあるが、

そこはひどく退屈で、彼女はすぐにそこへ足を運ぶことを放棄した。





私は人とは違うんだ ――そういう感覚はどんどんと年を経るごとに強まっていく。






次第に彼女は、少しずつ傷つくようになった。




同級生達は周りに合わせるように、笑ったり、怒ったりしてその関係を上手く成り立たせていた。


彼女には、それが納得できなかったし、そうできない自分に腹を立てた。





(私のことを、誰か認めて)





彼女は誰も気づかないところで、瀬戸際に立たされていた。


頭の中が、一日中もやもやとして、学校の授業だって耳にはいってこない。


家に帰って、何かをしようとする気もおきず、ぐだぐだとした日々を過ごしていた。





そんな彼女が気分転換に田舎を出て、都会に行ってみようと考えたのだ。






そして、そこで出会った音楽は、 ――彼女のことを受け入れてくれた気がした。





学校の帰り道



脳内で爆音を鳴らしていた。



ステップを踏んだり、くるりとその場で一回転してみせたり



胸の中のもやもやをすべて、でっかい掃除機が吸い上げてくれたような解放感





――― 周りの奴らなんて、気にするな。

――― お前には、俺が付いているだろ?



彼女の頭の中で、誰かがそう 確かに 言った。






彼女はロックミュージックを聴いている



















女子校生とヘッドフォン  -終-




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