31話
ネストの試験の準備だけど、これはそこまで時間のかかる事じゃない。
と、言うのも、今から新しい装備を準備するのは難しいからだ。
所持金は少ないし、自作するにしても、素材集めが必要になる。
て事で、ネストには、僕が今装備している魔力防壁のネックレスと、僕の中で死蔵されていたワンドを渡した。
「そうそう、他人の前で蠅は見せちゃダメだよ」
「わかりました。でも、なんでですか?」
そう言いながら、ネストが不思議そうに首を傾げる。
最初に比べて、表情も少しずつ豊かになってきた様に思える。
ただ、じっと顔を見ていたせいか、ネストが少し顔を赤らめて問いかけてくる。
「あ、あの、私が何か?」
「いや、何でもないよ。それと、虫は人前で使うと、人間じゃないのがバレるから、人前での使用は禁止だ」
「わかりました。人前では気を付けますね」
「それじゃあ、試験を受けに行こうじゃないか」
「はいっ!」
僕の問いかけに、試験で緊張しているのか、少しトーンが高くなった声でネストが答える。
そしてやってきたのは、勿論冒険者ギルドだ。
僕の時と同じ様に訓練場に通される。勿論僕もついてきた。
少しすると僕の時と同じように、試験官と見届け人がやってくる。
今回の試験官は、ねじくれた木の杖を持ち、黒いローブで身を包んだ、白髪の老人だった。
魔力量はなかなかのもので、この世界の一般的な魔術師の魔力量を200とすれば、この老人は350程ある。
ちなみにネストはだいたい500程で、僕はその10倍くらいあるのだが。
僕はダンジョンコアを取り込んだおかげでここまで魔力量が増えたのだから、ダンジョンコア様様と言ったところだろう。
というか、ダンジョンコアの凄さがよくわかるね。
まあ、とりあえず、僕は魔力を隠しておくか。
僕もやっているが、魔力を持った生き物の先天的技能で、相手の魔力量を察知するものがある。
僕の魔力量は、ダンジョンコアを取り込んだおかげで、高位のドラゴンと同レベルの魔力量がある。
バレたら絶対に面倒になるだろう。
ただ、ネストは魔力を隠蔽していないから、その魔力量を見た老人は、驚いた様子で呟く。
「ほほぉ...凄い魔力量じゃの」
まあ、500あれば、物語に出てくるような英雄を除けば、人間ではトップクラスだから、当然と言えば当然か。
そして合図とともに、試験が始まる。
先手を取ったのはネストだ。
ワンドを持った右手を掲げて、黒い魔法陣を展開する。
「来い」
ネストが呟くと、その声に合わせ、ネストと老人の間の空間から這い出る様にして、2体の白骨が姿をあらわす。
スケルトン、特別な能力も持たず、肉体能力に優れる訳でもない、アンデッドの中でも最下級の存在だ。
まあ、今出てきたのは、本物のスケルトンじゃなくて、スケルトンの見た目と特性を持った魔力の塊だけど。
「行け」
ネストの命令を受けたスケルトンは、老人に向かって走り出す。
ただ、老人も、大人しくスケルトンに殴られてくれるわけがない。
高速で詠唱を熟し、赤い魔法陣を展開すると、スケルトンの足下から炎が吹き上がり、脆い骨の体を灰に変える。
灰になった骨は、黒い靄に姿を変えて、まるで幻の様に姿が搔き消える。
与えられた形を維持できなくなったから、魔力に戻ったのだろう。
別にこのスケルトンが特別という訳じゃなくて、魔術で作ったものはこうなるのだ。
そして老人が詠唱を終え、反撃に炎の矢を放つ。
しかし、ネストもそんな見え見えの攻撃は喰らわない。
炎の矢との間に、骨の壁を発生させる。
炎の矢と骨の壁がぶつかり、炎の矢は弾けて消え、骨の壁はスケルトンと同様に消える。
攻撃を防がれたのを見た老人は、再び攻撃を仕掛けるために詠唱を開始するが、戦闘がヒートアップしてきたのを感じ取ったのだろう。
2人に対して制止をかける。
試験が終わると、老人がネストに話しかける。
「お嬢ちゃん、凄いのう。魔力量も多い様じゃし、その歳で無詠唱まで使えておる」
どうやら褒められてるみたいだけど、ネストはそれを無視してこっちに駆け寄ってくる。
「どうでしょうか?私、役に立ちそうですか?」
この質問の意味は、なんとなく分かる。
大方、役に立たないと判断されれば、捨てられると思っているのだろう。
役に立たなければ捨てられる、これが奴隷だからだ。
「どうも何も、凄いじゃないか!」
だから僕は、安心させるためにこの回答をする。
僕の返答を聞いたネストは、安どの表情を見せた後、少し嬉しそうな表情を浮かべる。
本当に客観的な判断を下すなら、使いどころが少なく、扱いの難しい魔術と言ったところか。
この世界の魔術、魔法の属性は、下位属性7種類と上位属性6種類の計13種類あるが、その中でも下位だと闇、上位だと負は微妙な部類だ。
基本的に戦闘以外には使えないのに直接的な攻撃力が乏しいからね。
まあ、その分、効果的な場面ではとことん効果的とも言える。
そもそも、下位属性は魔力持ちなら練習すれば誰でも使うこと自体は可能だが、上位属性は適性がないと使えず、適正持ちは魔術師の中でも少ないから、使えること自体が凄いとも言えるが。
とりあえず、ギルドの依頼掲示板でも見に行くか。
街に滞在するには、どうせ金が必要だから、依頼を受ける必要があるしね。




