30話
ベッドに横になって、久しぶりにゆっくりできると思っていたが、それどころではなかった。
寝ていたネストが、しばらくしてうなされ始めたのだ。
急激な環境の変化があったりトラウマがあったりすると悪夢を見やすい、っていうのを前に何かで見た覚えがあるけど、前世から人とのかかわりが少なかった僕には、うなされている人に何をしたらいいかなんてわからない。
あまりにも苦しそうだから体を揺さぶってみても起きる様子はないし、落ち着かせるために背中をさすってみたり、とにかくどうしたものかと焦っているうちに夜が明けてしまった。
朝になるころにはネストも落ち着いてたのだが、それに気が付かずに慌てふためいていて、起きてきたネストに、心配そうに「な、何かあったのですか?」と言われてしまった。
まったく、人の気も知らないで...と思わなくもないが、悪い夢は覚えていないならその方が良いし、何もないならそれに越したことは無い。
とりあえずネストに「心配しなくても大丈夫だよ」と告げて、宿屋の一階に降りる。
この宿は二階建てになっていて、一階が受付兼食堂、二階が宿泊部屋になっている。
食堂に行くと、少しして2人分の朝食として、パンと謎の干し肉、野菜のスープが出てくる。
現代日本程ではないが、食事においても思ったよりも高い技術力を持っているらしい。
パンは柔らかそうだし、干し肉があるってことは肉もそれなりに普及している様だ。
「あ、あの、私も食べていいんですか?」
ネストの問いかけで、意識が思考の世界から現実へと引き戻される。
「うん、大丈夫だよ」
そう言ってネストの分の朝食を差し出すと、パンを少しちぎって口に運ぶ。
食べ物が居の中に入ってきたからか、体が空腹を自覚したのだろう。
パンをすぐに食べきり、干し肉を口に押し込んで、スープを流し込む様に食べ、あっという間に食べ終わってしまう。
ただ、まだ満腹ではない様で、料理が無くなった皿を残念そうに見つめている。
「僕の分も食べる?」
「い、いえ、そんな、いただくわけには!」
僕の問いかけに、ネストが慌てて答えるが、僕には食事は体積を増やす以上の意味は無い。
暴食で記憶や技能を奪うにしても、対象が一定以上の知能があることが前提だから、この肉には暴食の効果は期待できないだろう。
それに対してネストは空腹を感じるのだから、ネストにあげるべきだろう。
「まあまあ、僕は要らないから食べなよ」
「本当に、よろしいのですか?」
「僕は食べなくても問題ないし、どうせ食べても味を感じないしね」
「で、では、頂きます」
僕の分の朝食を受け取ったネストは、最初は申し訳なさそうにしていたが、すぐに食べ終わってしまう。
しっかし、本当によく食べるな。この細い体のどこにそんなに入るんだろうか?
まあ、そんな事を考えても仕方ないか。
ネストが食べ終わったのを確認したら、受付に行って鍵を返して、宿を出る。
行先は勿論、冒険者ギルドだ。
ちゃんと金を稼がないと、街では生きていけないしね。
それに、ネストの冒険者登録もする必要があるし。
冒険者ギルドに行く途中、ネストはどんな事ができるのか、という話になった。
「そういえば、ネストは魔力量が多いけど、何か魔術は使えるの?」
「そうですね、負魔術使えます」
そう言って、手の中に黒い魔方陣を浮かべて、見せてくれる。
ん?これはおかしい。僕の記憶が正しければ、モンスターや魔人は魔術が使えないはずだ。
それとも、キメラの、素材にした生物の特徴を引き継ぐ、っていう特性で、魔術も引き継いだのかな?
まあ、使えるものは使えるのだ。どうせ考えても分からないんだし、深く考えても仕方ないだろう。
それに、これなら冒険者登録の時にも魔術師として登録すればいいし、この方が都合がいい。
もし人前で使える技能がなかったら、冒険者登録するために、少しめんどくさいことになったしね。
そんな事を考えているうちに、冒険者ギルドに着く。
そして受付に、僕の後ろに隠れるようにして付いてきていたネストを前に出して、話しかける。
「この子を冒険者登録したいんですけど、いいですか?」
「はい。こちらの紙の項目を埋めて、提出してください」
こうして僕が登録する時と同じ紙を受け取った。
「ネストは、字は書ける?」
「簡単な物なら少し書けますが...自信はありません...」
「そうか...じゃあこれは僕が書こう」
「すいません...」
名前はネスト、役割は後衛魔術師、使用武器は魔術、技能は空欄、コレで完成っと。
書類を提出すると、やっぱり僕の時と同じように、試験を行う事になった。
なんとか上手く、ネストが人間じゃないのをばれないようにできればいいんだけど...まあ、試験の内容にもよるけど、ネストに上手くやってもらう他ないだろうな...




