3話
とりあえず何かを捕食すると体積が増えることが分かったから、雑草でも捕食しつつ移動するとしよう。
ちなみに石は捕食しようとしても溶かせなかった。
移動してみて気が付いたんだけど、雑草を捕食していって少しずつ体積も増えて少しずつ速くはなっているけど、やっぱりスライムの体ってさ、動くのめっちゃ遅いんだよね。仕方ない、地道に移動するか...
色々な移動方法を試した結果、それなりに速い移動方法を覚えた。
地面との接地面を速く細かく躍動することでそれなりに速く移動できることが分かった。イメージ的には百足とかの多足類みたいな移動方法だな。
少し進んだところで面白い物を見つけた。子供程度の身長に緑の肌、猿と人間を混ぜたような醜悪な顔、汚い腰ミノをまいて棍棒を持ったその姿は、まさにファンタジーに出てくるゴブリンだ。
ゴブリンは僕を見つけると、棍棒を振り上げ、汚い叫び声を上げながら襲い掛かってくる。
「ギギッ!」
動きの遅いスライムでは避けられず、振り下ろされた棍棒をもろに受け、粘液の体に棍棒が突き刺さる。
いたっ...くない。ああ、物理無効の効果か。相手の攻撃が効かないことは分かったし、あいつと仲良くできないことも。それじゃあ、ここから反撃といこうじゃないか。
「ギッ!?」
棍棒が効いていないのを見て、ゴブリンが驚いたように飛びのこうとするが、遅い。スライムは動きこそ遅い物の、触腕はそれなりの速度で動かすことが出来る。
棍棒が刺さっている部分を硬化させて、引こうとするのを妨害すると、ゴブリンが驚愕の表情を浮かべる。それと同時にゴブリンの顔に触腕を伸ばし、そのまま顔にとりつく。このまま捕食を使い溶かしてやろうと思ったが、溶け始める気配が無い。まだ溶かせないか...まあいいや、このまま呼吸をふさいでやろ。
呼吸が封じられたゴブリンはもがき、必死に顔から剥がそうとするが、流体のスライムの体だ。そんな簡単に剥がれはしない。
そのまましばらくするとゴブリンもがくのを止め、体は力なく倒れ込む。倒れた体はしばらくビクンビクンと痙攣していたが、それも直ぐに止まる。
というか、殺したんだよな、僕が。いくら相手が気持ち悪い化け物だったとしても、生き物を殺しても何も感じないか...体だけじゃなく、心も人間をやめたんだなあ...
僕が感傷に浸っていると、ウィンドが開き、メッセージが出てくる。
《経験値が一定に達しました。Lv1⊳Lv2に上昇しました。》
お!? 目線が少し高くなり、体の体積が少し増えたのが分かる。というかレベルアップ!?レベルアップなのか!?そんな僕の驚きをよそに、ウィンドが追加で表示される。
《熟練度が一定に達しました。捕食がLv1⊳Lv2に上昇しました。》
《一定条件を満たしたため、称号:悪食 を取得しました。》
ん?捕食がレベルアップした?よし、ゴブリンの死体が捕食できるか試してみるか。
ちなみに、食べるのに禁忌感は無いし、拒絶感もない。
おお!ゴブリンの死体に覆いかぶさるようにして捕食を使うと、少しずつジュワ―ッと溶けていくのが分かる。
ただ、味がしない。スライムって味覚ないのかぁ...なんかちょっと悲しいな。
まあ、味がしたら血抜きもしてない、こんな得体のしれない生物の生肉なんて食えたもんじゃないし、味覚がなくてよかったとも言えるのだが。
というかスルーしそうになったけど、称号ゲットしたよな?とりあえず、説明見とくか。
~称号:悪食~
毒などの本来食用としない物を好んで喰らう者に送られる称号。
毒なんていつ...いや、本来食用としないってだけで毒とも限らないよな。たぶん雑草か、それともゴブリンか、はたまた両方か...
それはともかく数分後、骨だけを残してきれいさっぱり消化された。しっかし遅いな。まだ戦闘では使えそうにだ...
ゴブリンを溶かし終わると、体積が少し増えたのが分かる。時間をかけただけあって、雑草なんかとは比べ物にならない程体積が増える。たぶん捕食した物の三分の二くらい体積が増えているんだと思う。
他の生き物を殺すと経験値が入るのは分かったし、何かを捕食すると体積が増えるのも分かった。
まあ間違いなく小さいより大きいほうが強いし、レベルも間違いなく高いほうが強いだろう。
僕には物理無効と高速再生が有るし今のところ危険はないけど、こんなファンタジーな世界だ、魔法を使える奴がいたっておかしくないだろう。それに今の僕はスライム、スライムってことは火に弱いことは明白だろう。いや、火に限らず、高温なら体の殆どが水分で出来ているスライムボディには致命的だし、逆に低温でも体が凍る可能性も有るだろう。
もしかしたら僕が知らないだけで他にも弱点はあるかもしれない。
というかステータスウィンドから調べればいいじゃん。
~スライム~
最弱種族の1つ。大抵の場合は生まれてすぐに他の種族に殺されるため生き残ることは困難だが、稀に生き残った個体が力を付ける場合がある。
弱点とかの記載は無しかぁ...まあ、せっかく異世界に来たんだ。まさか転生先がスライムとは思っても居なかったけど、つまらない現代社会を捨てて剣と魔法のファンタジーの世界に行く、ゲームやラノベで何度も見た光景で、夢にまで見た光景だ。
せっかく異世界に来たんだ。この状況を全力で楽しもうじゃないか。その為にもやっぱり力は必要になるだろう。
僕に殺される奴には悪いけど、僕が強くなるための糧になってもらおうじゃないか。
まあ、今はまだゴブリンくらいしか倒せないから、ゴブリンでも倒しながらレベルを上げて地道に強くなっていくしかないけど、それでもいつかは敵がいないぐらい強くなって見せようじゃないか。それじゃあ、次の獲物でも探しに行きますかね。もっと効率の良い狩りの方法を考える必要が有るよなあ...