表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴食の粘魔  作者: お猫様
25/41

24話(クシフォス視点)

俺がいつも通り酒場で酒を飲んでいると、受付嬢から声がかけられた。

なんでも、新しく冒険者登録する奴の試験官をしろ、との事らしい。


冒険者登録をする時には、Bランク以上の冒険者を試験官として、適性テストが行われる。

俺的には正直メンドクサイのだが、コレには大事な意味がある意味がある。


ギルドに来る依頼は冒険者と同じ様にランク付けされていて、冒険者は自分のランク以下のランクの仕事しか受ける事が出来ない。

まあ冒険者の仕事は基本命がけで、場合によっては自分以外の人間の命がかかっている物もある。


だが、実力者をEランクから始めさせていては、非効率的すぎる。

そこで出てくるのが適性テストだ。

このテストで実力者だと判断されれば、最初からある程度のランクを付ける事で、即戦力にしようって訳だ。


まあ今俺以外のBランク以上の冒険者は出払っているか、居ても適性テストなんぞ任せられない難ありしか居ないらしい。

そんで仕方なく俺がテストする事になったんだが、その相手がなかなかに不思議な奴だった。


何よりも目を引くのは、手に持った漆黒の大鎌だ。

禍々しくも美しく、武器と言うよりは芸術品の様に感じられる。

服装もそれに合わせた様な、奇妙な黒いローブだ。

こっちもかなり上質な物だろう。


上質な黒いローブを身に纏い、禍々しい漆黒の大鎌を持つその姿は、物語に登場する死神を彷彿とさせる。


本人の方は、容姿は平凡なものであるが、この辺りでは見る事が無い黒髪黒目だ。聖王国には少数だが居るので、そこの出身だろう。

体格はと言えばローブのせいで分かり難いが、逆にそれでも分かる程に、小柄で細身に見える。手も武器を振るう戦士の手ではない。


ローブや体格などを見る限り魔術師に見えるが、立派な大鎌を持っているので、大鎌が魔術媒体でなければだが、魔力で肉体能力を強化して戦う魔剣士と言ったところだ。


そしてお互いに相手の観察を終えると、開始の合図とともに戦闘が始まる。


初手を取ったのはグラだ。一息で大鎌の間合いまで跳躍し、大きく横薙ぎに振るう。

光の反射を残しながら高速で首へと大鎌が迫る。


その瞬間、俺は長年の冒険者としての経験から、瞬時に判断する。

この薙ぎ払いは無造作なもので、戦士のものではない。

しかし、材質は不明だが、あの大鎌は大きさや装飾の量からして、かなりの重さがあるはずだ。

それを軽々と振り回す相手の肉体能力は桁違いの筈だ。

受けるのは危険、ならばとる行動は一つ、回避だ。


姿勢を低くして大鎌を避けるが、風圧で髪が数本毟られる。


標的を失った大鎌は、むなしく空を切る。

通常なら大振りの攻撃が外れれば体勢が崩れ、反撃のチャンスになる筈だ。

しかし、グラの大勢は崩れない。直ぐに姿勢を立て直し、流れるような動きで二撃目を繰り出す。


二撃目は大上段からの振り下ろし。

先程と同じ無造作な一撃だが、相手の肉体能力を考えれば、それは必殺の一撃だ。


先程の肉体能力を考えれば、受けるのは危険すぎる。

ギリギリのところで横に転がり、大鎌を回避する事に成功する。


再び標的を失った大鎌は地面にぶつかり、大きな砂埃を巻き上げる。


しかし、防戦一方というのは不味い。まだ本気は出していないし切り札もあるが、それは相手も同じだろう。相手の余裕の表情を見ればそれぐらい想像つく。

まあこれは命のかかった戦いでもないし、勝ちにこだわる必要はないんだが、問題はそこじゃない。

このままだと俺の実力が疑われ、なめられる事になる。それは不味い。


これは何も俺のプライドの問題とかではなく、実力が疑われるのは冒険者として致命的なのだ。

実力が低いと思われて依頼受注を断られるだけならまだいい。最悪、安い金で命を懸けるような仕事を受ける様な事になりかねない。


この新人には悪いが、ここは俺が攻勢に出て、名誉挽回するしかないだろう。


振り下ろされた大鎌の横をすり抜け、武器を振りぬいて無防備な横っ腹に、峰内だが、剣を叩きつける。

すると、相手が小柄なことを考慮しても、異様に軽々と吹き飛ぶ。

それに、剣がぶつかった時の感覚もおかしかった。肉を殴るような感覚ではなく、もっと硬質な物を殴りつけたような。


位置的に大鎌での防御は不可能、大鎌以外に盾などを持っていた様子はなかった。

ならば思いつく防御方法は一つ、魔力防壁だろう。


ただ、見届け人はそれを見てやりすぎだと思ったのか、制止が入る。

吹き飛んだ張本人、グラはと言えば、何の痛痒を感じている様子もなく、それどころか悠々とローブの裾を払っていやがる。


それを見ながら、俺は思考を巡らせる。

大鎌は内側に刃が付いている関係上、単に標的を切るだけでもかなりの技術が必要になる。

一歩間違えれば命が失われる戦闘では、必要になる技術や精神力は想像を絶するものだ。


相手であるグラは、その扱い難い武器である大鎌を、まるで自分の手足の様に使いこなしている様に見える。

しかし立ち方や踏み込み方から、戦士としての技術がある様には見えない。


おそらくは、天性の才能を持って使いこなしているのだろう。


更には、魔術師としても優秀だろう。身体強化をあの精度で行えるのだ、かなりの高精度の魔力操作ができるのだろう。


天性の武器の才、高精度の魔力操作、片方のみなら持っている者も、少ないながら存在するだろう。

しかしその両方が揃ったのは、まさに奇跡と言えるだろう。


身体強化から来るであろう驚くべき肉体能力、

現実離れした鋭利さを持つ大鎌、

大鎌という扱いにくい武器を使いこなす才能、

戦士としてほしいものはすべて持っているといっていい。


今のままでもBランク冒険者と同程度の戦闘能力があるだろう。

これで更に戦士としての技術を身に付ければ、Aランクにも届きうるだろう。


しかし、いったいなんでこんな英雄級の才を持った人間が、噂にもなっていなかったのか。

聖王国とは国交は無いとはいえ、冒険者や行商人は行き来しているから、噂ぐらいあってもおかしくないと思うんだがな...


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ