21話
記憶や技術、持ち物の確認は終わったし、街に行こうと思ったけど、その前にある程度決めておかなければいけないことがある。
一つ目は、設定だ。出身や職業、またそれを証明できるものが何もない男が街に入れるとは思えないし、僕だったら絶対入れたりしない。
そこで必要になってくるのが、矛盾点がなく疑問を持たれない設定なのだ。
先ずは出身。どうやらさっき捕食した男の記憶によれば、この世界では王都などの大きな町でもない限りは、戸籍の様な物は管理されていないらしい。
なので、出身地は辺境を言えば、疑われることはあってもそうでない証明は出来ないはずだ。
その辺境の中でも、男の知識からウイユという村を選ぼうと思う。
この村はこの男の出身地の村で、男の記憶を使えば、多少のことではバレないはずだ。
次に職業。これは、これから冒険者になる予定。よし、これで行こう。
冒険者はファンタジー小説とかの設定まんまって感じで、身分が証明できなかったり、身分を持たないものでもギルドに登録できるらしい。
役割は、魔法なんか使ったら人間じゃないのが一瞬でバレるし、隠密や鍵開けや偵察なんかもできる自信は無い。
だから必然的に前衛の戦士だろう。幸い僕の肉体能力は、かなり高い。もっとも、この世界でどの程度通用するかは分からないけど、今までに見てきた冒険者と思わしき者たちよりは、格段に高い。
試しに近くの木を力を込めて殴ってみると、結構太い木だったけと、一撃で倒れた。
うん、こんだけ力があるなら、そうそう力負けする事は無いだろう。
最後に名前。これは前世の名前を使え...ば...なんでだ!?前世の名前が全く思い出せない。
なんでだ?確かにもうこの世界に来て結構な時間がたったはずだし、多少は忘れていることがあってもおかしくはないはずだ。
しかし名前だけは、まるでノイズでもかかったように一文字も思い出せない。
しかも、そのことに対して何の違和感も感じない。名前がないのが当然だとすら思える。そのことが酷くおぞましい。
とにかく、この事は考えないようにして、新しい名前を考えようじゃないか。
男の記憶によれば、この世界の名前はファンタジーとかでよく見るタイプの名前らしいし、それっぽいのを考えようじゃないか。
そうだな...せっかく七大罪のうちの一つである暴食を持ってるんだし、そこからもじってみるか。
英語のgluttonyだと長いし、ラテン語のguraでいいだろう。
《名前が なし⊳グラ へと変化しました。》
あ...ほんとに名前がグラになった。まあ、設定はこんな感じでいいだろう。
二つ目は、服装だ。
まあコレについては、この男の着ていた服はこの世界の市民なら一般的なものらしいし、男の着ていた服を着ればいいだろう。
しかし、つい最近行方不明になった人物と全く同じ格好の男が現れたら、どう考えても怪しい。
ここで活躍するのが魔化だ。なんでも、魔化を行うと能力を付与するだけでなく、見た目も変わるらしい。
そんで、その魔化にも二種類ある。
1つ目が、武具に魔術を封じ込める方法。
この方法のメリットは、武具さえあれば錬金術師の魔力が続く限り幾らでも作り出せる点だ。
逆に、付与される能力は錬金術師の力量に大きく左右される上に、複雑な魔術は付与できないというデメリットもある。
二つ目は、モンスターの死体の一部、例えばドラゴンなら牙や爪など、にはそのモンスターが持っていた魔力が籠っている事があり、それを使う方法だ。
この方法のメリットは、前者と違い特殊な能力を武具に付与出来るという点だ。
逆に、付与される能力は素材にしたモンスターの生前持っていた能力の中からランダムに選ばれ、付与する能力を選べないというデメリットがある。
ちなみに見た目が変わるのはこっちの方法だ。
1つ目の方法は手軽に出来るけど、付与される能力は弱い。
2つ目の方法は強い能力が付与されるかもしれないけど運要素が大きく、そもそも強力な能力を持ったモンスターの素材は高額だ。
この中で今回僕が行うのは、2つ目の方法だ。
今回は見た目を変えなきゃいけないわけだから、一つ目の方法は使えないからね。
モンスターの素材は...僕の体の一部をちぎって使えばいいだろう。少なくとも、僕から逃げ出すような狼などよりは、いい素材になるだろう。
それじゃあ、魔化を始めますか。
一度魔化された物は魔化し直す事は出来ないらしいので、服の方を魔化しよう。
先ずは服の上に、闇魔法を使って魔方陣を描く。
男の知識によれば、本来この時描く魔方陣は魔力のこもっているインクで描くらしいが、問題なのは魔本陣の形と込められた魔力らしいので、これで問題ないだろう。
次に魔方陣の上に、僕の体の一部をちぎって乗せる。
この際にちぎった部分魔力を5%ほど込めておく。本来とは違って僕の体で素材を代用しているから、しっかりと魔力を籠めておかないといけない。
最後に魔方陣に魔力を流す。
すると魔方陣が光を放ち、素材が吸い込まれていく。
そして完成したのは、黒一色の服だった。
デザインとしては前世のパーカーに近いが、ファンタジー風に魔改造されている。袖口や裾は広くなっていて、これなら体を動かすのにも邪魔にはならないだろう。
品質としては、前世でも結構いい部類に入るんじゃないだろうか?
この後ズボンと靴にも同じ様に魔化を行うと、さっきの服に合わせたようなデザインになった。
着てみるとどの様な効果があるのかという情報が頭に入ってくる。どういう原理かは分からないけど、ファンタジー様様だね。
それで効果はどれも同じで、自己修復らしい。
そこまで凄い効果じゃないけど、まあ便利なんじゃないかな?
それじゃあ、次は武器でも作ろうかな?




