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進学塾のトシ先生

作者: 倉本保志

みなさん、お元気ですか? くらもんこと倉本保志です。

新しいモチーフが、見つかったので、ちょっと小説にしてみました。

これは、バーチャルなんかではなく、ほぼほぼ、現実世界の投影的なものであるのかな・・?と予想するのですが、倉本の実際の体験ではないので、ある人にとってはリアルガチ、ではあるけれども、私にとっては、やはりバーチャルな世界の一つになってしまう訳です。

私、倉本と笑いのセンスの合う人にぜひ楽しんでもらいたい、ちょっと高級感の溢れる・・?作品です

ぜひ、リラックマな気分で、お楽しみくださいませ。

 進学塾のトシ先生


「行ってきます」

学校から帰るなり、ヒロシは、ランドセルを背負ったまま、カズヤの家に向かった。

学校(小学校)の宿題を教えてもらう約束をしている、友達のカズヤは、クラスきっての超秀才で、僕の苦手な算数なんか、居眠りをしながらでも、解いちゃうくらい・・

めっちゃ勉強ができる子なんだ。

もしかしたら、うちのクラスの担任・ホエザル(みんながそう呼んでいる)なんかよりずっと頭いいかも?

だって、カズヤの説明、ホエザルなんかより、ずっと解りやすいんだ。おかげで、僕も、ちょっとは、解るようになってきたんだよ・・・算数・・

(さ、着いた。大きな家、きっとお金持ちなんだろうな・・・)

ピンポーン

「はい、どなた・・?」

「あ、僕、ヒロシ」

「ああ、どうぞ」

僕は、玄関に入った。階段から、カズヤが、トントントン・・・って小気味の良い音をさせて降りてきた。

「ごめん、ヒロシくん・・・」

「えっ、どうしたの・・?」  

「今日、塾だったんだ、先週の祝日の振替、忘れてた。」

「あ、そうなんだ。じゃ、今日は無理だね・・」

「えっ・・・ああ、うん・・・」

(仕方がない、帰るとしよう・・)

僕は玄関のドアを開けた。

「あっ、まってヒロシくん・・」

「なに・・・?」

「もし、良かったらだけど・・・一緒に行かない・・?」

「行くって・・どこへ・・?」

「ぼくの通う塾に・・・?」

「ええっ・・・」

僕はかなり気が動顛してしまっていた。

「いいの・・・?  行っても」

「うん、大丈夫、塾のトシ先生、めちゃ、話がわかるんだ」

「僕、お金ないよ」

「はははは、気にしないで」

「お金なんかいらないよ、つまり、見学っていうことで・」

(そんなこと、子供同士で決めていいのかな・)

僕はちょっと不安だったけど、あの、カズヤが言うんだから、大丈夫かな・・?

ま、暇だし、ダメもとで行ってみるか。

僕はカズヤの通う塾に一緒に行くことにした。踏切を渡って駅前のビル、3階の奥のほうにその塾はあるらしかった。

始業よりも、少し早く着いたようで、生徒は4,5人しかいなかった。

教室のまん中、一番前に、女の子が一人、耳にヘッドフォンを当てて聴き入っていた。たぶん、英会話の、教材かなにかだろう・・・

カズヤは、そそくさとその子の隣に座ると、入口で、もじもじしているぼくを手招きで呼び寄せる。

「ここ、早くおいで、ヒロシくん」

言われるままに、僕はカズヤのすぐ後ろに座った。

(くーっ、なんだろう? 久しぶりの緊張感)

僕は周囲に向けて きょろきょろと、落ち着かない視線を、滑らせた。

そんな僕のことなんか、お構いなしに、和也は、目の前のパソコンを開いて、なにやらごそごそと始めた。どうやらゲームらしい、僕がそっと乗り出すと 

「あ、ゲーム・・ヒロシくんもやりなよ、始業まであとちょっとあるから・・」

そう言ってまた、自分のゲームに夢中になっている。

(どんなに秀才に見えてもこんな所はやはり子供だ)

暫くして、開いていた席が、どんどん埋まっていき、始業の時間、午後5時になった。

先ほどまでの空気が一変して、教室内には、タダならぬ緊張感が、漂っている。

女の子も耳からヘッドフォンを外し、カズヤもパソコンをしっかりと閉じていた。

ガラッ・・・

教室に先生らしき人物が入ってきた。

「あれが、トシ先生、坊主頭で、似ているだろ・・ほら、お笑いの・・」

そういってカズヤは、クスクスっと小声で笑った。

「カズヤさん・・・笑ってないでみんなに紹介して」

トシ先生は、カズヤを見て小声で言った。

その声はとても小さく、殆ど聞き取れないほどだった。担任のホエザルとは対照的だ。すんごく大人らしい・・

「あ、すいません紹介します、後ろにいるのは、学校の友達でヒロシさん」

「今日は、見学でこの塾に来ています」

カズヤが、立ちあがって僕を紹介する、クラスのみんなは一斉に席を立って、ひとりずつ自己紹介をしてくれた。

・・・・・・・・・・・・・・

(あぜん・・・なんだろう・・この世界)

学校のあの雰囲気とは全く違う、なんていうか、こう、すごく洗練されているというか、その・・・

住む世界の違う人達・・・一言で言うとそんな感じ。

自己紹介が終って、 トシ先生は、僕に・・・

「ま、遊びにきたつもりで、リラックマ・・・」

周囲がどっと笑う。特にカズヤのとなりの子、(サヤカさん)は、下をむいたまま

必死で笑いをこらえているようだった。

すぐさま授業が始まった。一体どんな勉強をするんだろう、できるかな、僕に・

(緊張と不安で、今度は顔が真っ赤になっていく、わあ、目眩がしてきた・・)

「あ、ヒロシさんは、自分の課題やってていいので、ただし、静かにね」

トシ先生は、やさしく僕にこう言った。

(すごい、まるで僕の心の中が、全部見えているようだ。)

(あの、ホエザルの、何百・・いや、何千倍も大人らしくて、立派・・)

僕は、たまたま持ってきていた、ランドセルから、今日の宿題のドリルを取り出して、徐に、それに取組み始める。

(鉛筆がすこし震えてうまく書けない・・・)

カズヤをはじめ、他のみんなは、パソコンを開けて、勉強の準備を始めていた。

「はい、では、前回の復讐問題、5分で・・・」

トシ先生が言うと、みんなは、一斉にパソコンのキーを叩きだした。

静まり返った教室に、トトト、トン、トン・タン・・・小気味の良い音が響く。

自分の宿題に身が入らないことをすぐに悟った僕は、横眼でちらりと隣の子のパソコンを覗いてみた。

「えっ・?  なに・・・? 英語? 算数じゃないの・・・?」

アルファベットが、いくつも並んでいる。シン・・?コシン・・? えっ・・・

・・・・・・・・・・

暫くしてトシ先生が・・

「はい、じゃ解答を出すから、採点して」

呟くように、みんなに言った。

僕を除いた全員が、一斉に採点を始める。その間、およそ・・1分ぐらい・・?

「ええと、100点は・・・」

「ミノルさん、シズカさん、あと、サヤカさん・・」

おそらく、呼ばれた人達だろう、3人が、席を素早く立つと、一斉に拍手が起こる。

「80点以上・・・さん、・・・さん、カズヤさん。・・・さん」

9名が、席を立った。その中には、カズヤがいた。

(100点じゃないのか・・・カズヤ)

またもや拍手が沸き起こる、しかし、先ほどのそれとは、その質が少し違うのが、僕にも判った。

「50点以下、起立」

少し気の張った、大きな声で、トシ先生が言うと、ぞろぞろ、椅子の音をさせて10人ほどが席を立った。

「うるさい・・・やり直し・・」

淡々とした口調で、トシ先生・・・

先ほどの10人は、すごすごと、今度は静かに、席を立った。

「最初からやらなくちゃ、できるなら・・」

トシ先生が、たたみかける。しかし、その口調はとても静かで、まるで禅僧の発する言葉のようであった。10人は、震えながら、顔を真っ赤にして俯いている。

「端から一人ずつ、間違ったところを、説明して・・」

このトシ先生の言葉に、ぼくはちょっと違和感を覚えた。

(自分の間違いが、説明できるかな・・?解った問題ならできるだろうけど・・)

案の定、生徒たちは、言葉がなかなか見つからない。じっと、立ちん棒になっていたりする。トシ先生は、その子らの顔をじっと見て、ただ、黙っていた。

「・・・コサインの意味を取り違えていました。」

ようやく、一人が口にすると、すかさず・・

「じゃ、解る人は・・?」

数人が手をあげる。ひとりを指名すると、その子が説明をする。

「うん、70点かな」

トシ先生の、言葉に次の子が、説明を、加える。

「うーん、50点」

教室に笑いが起こる、しかしそれは、決してその子を嘲笑したものではないことが僕には、すぐさま感じ取れた。

「えっと、つまり・・・」

そういってトシ先生は、説明をした。

「あっ・・」

先ほどの、コサインの意味が分からないといっていた子が、小さく息をついた。どうやら、何かをつかんだらしい、ま、僕には何のことだかさっぱり解らないのだけれども・・

・・・・・・・・・・

こうして、問題の答え合わせ、考え方を一通り終えたころ、トシ先生は、黒板に、細長い突起物のようなものを描いた。

「これなんだ・・?」

トシ先生の問いかけに、あのさやかさんが、囁いた。

「あ、オチンぽ・・」

教室にどっと笑いが起きた。えっ・・? なに・・? まさか・・ 僕は風呂上りの時のように、顔が真っ赤になって心臓が、バクバクいいだした。そして、すぐさま、トシ先生の顔色を伺った。

(だいじょぶなの・・?こんなこと言って・・?)

さすがに、あのトシ先生も。少し顔を赤らめて、苦笑いをしていたが、黙って、絵の続きを描き始めた。

「これは、天狗の鼻です・・」

そういって、後から、顔の輪郭をその突起物に加えていく。

「なんだよ」

「ずるい~、分からないよ、そんなの」

「最初に顔を描いてよ、このハゲ~」

「だれがハゲだ、コラッ」

また、みんながどっと笑う。

物静かな口調、それでも、教室は大爆笑なのだ。

このときはっきりと僕は知った。

大声を張り上げて、笑いを取ろうする、大人(芸人)どもの、その醜態、なんとも無芸なことか

笑いというものは、それを発する人と、受け手との信頼関係で、ほぼ成り立つものなんだ。その、テンション、大きさ、それをやたらと誇張する芸人は、よっぽど自分の芸に自信がない(信頼を得られていないと思っている)に違いない。

そのあと、その天狗の顔を使って、トシ先生は、みごとに、コサイン(三角関数)の説明をした。飛び入りの僕でさえも、その説明は、なんとなく、わかった。

(天狗の頭、頂点から少しずつ鼻が伸びることによって、その鼻のてっぺんと顔の面との間の角度は少しづつ大きくなる。その頭の頂点から、鼻先までの長さと、顔の長さ(この場合、一定、との割合を、コサインというのらしい・・)

・・・・・・・・

塾での帰り道、カズヤが、僕に訊いてきた。

ねえ、どうだった・・? 面白かったでしょう・? トシ先生・・

・・・・・・・

「うん」

僕は大きな声で、そうカズヤに応えたかった。でも、・・・・なんだろう・・・

塾に行けない僕は、カズヤにこのとき変な嫉妬心を芽生えさせていて、自分の気持ちを素直に言い表せなかったみたい・・

「うん、・・・でも、ちょっと僕とは、合わないかな・・?」

・・・・・・・・・

「そう・・・」

カズヤはちょっと残念そうな返事をした。僕たちは、もう既に暗くなっている塾からの帰り道を急いだ。                       

                  おわり


      


倉本は、小学校の先生の印象がことさらに悪く、いやなイメージしか残っていないので、こんなトシ先生のようなひとに出会っていたら、また違う人生を歩めていたのではないかと思ったりします。

ま、人の人生は、出会いに左右されてしまうことが多いです。でも、その出会いを作るのも、実は自分の

生き方だったりするのです。運命・・一言で簡単にかたずけられるものでは断じてないと、倉本は思います。

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