第一話「幽霊ちゃんは、記憶がない。」
——ある日、僕が歩いていると、一人の少女に話しかけられた。
華奢な体躯なのに、胸はかなりのボリュームで、黒髪のストレートロング、サファイアように綺麗な碧眼という、国宝級の超絶美少女だった。
「——お兄さん!私とエッチしませんか?」
少女が唐突に言い出した言葉に、僕は反応もせずに立ち去る。
すると、少女はしょんぼりした顔で俯きながらその場に立っていた。
普通なら願っても無い事なのだが、この少女は普通じゃない。
普通じゃないといっても、淫乱と言う訳では無くて、存在自体がという意味だ。
——何故なら、彼女は人間では無いからだ。
死んでなお魂だけが世を徘徊し、未練を果たそうと飛び回る……俗に言う”霊”と言うやつだ。
普通は人間には見えないが、霊から受ける傷……
"霊障”を受け、霊の障気を身体の中に取り込んだ人間だけが、霊を見ることが出来る。
なので、霊感などは全くの嘘。自身の幻想が生む産物だ。
三年前に霊に重症を負わされた僕は、霊を見る事、触る事が可能になった。
「話は、聞いてやるよ。其処の路地に入れ。」
一度は見捨てようと思った僕だったが、街中で性行為をせがむ少女に少し興味が湧いたので、話だけでも聞いてやる事にした。
それで、その願いが僕みたいななんの力も持たない人間に叶えられんような、大層な未練なら、見捨てるしか無いが、どうせいつも、家に帰っても何もする事が無い暇人なので、困っている霊がいれば、未練を晴らす為手伝ってやっている。
「お、お兄さん…私が見えるんですか!?」
「いいから。」
少女はコクリと頷くと、僕の後ろを浮遊しながらついてくる。
「で、なんであんな事してたんだ?」
「あんな事とは?」
「街中で性行為をせがむなんて、エンコーJK顔負けの淫乱っぷりだぞ?お前の未練に関係あるのか?」
僕の言葉に、少女は顔を真っ赤に染め、指と指をくっつけたり離したりして、羞恥心に悶えていた。
「私の…未練は…」
「うんうん。」
俯き気味に話し出す少女に、相槌をつきながら聞く。
「お嫁さんになる事なんですっ!!」
少女は、自身の胸の前で握り拳を作り、目を瞑りながら言った。
「は?もう一度いいか?」
「え、ええと……誰かのお嫁さんになりたいと言うのが、私の未練…だと思うんです。」
「思う?随分と曖昧だな?」
霊と言うのは明確な目的の元で、この世に滞在するか、あの世に行くか決めるらしい。
そして、その目的が果たされた瞬間に天国or地獄に強制送還されるらしい。
最も、自分自身が行ったわけでは無いので、真偽は付かんが……
「すみません。」
少女はしょんぼりした顔で俯く。
「別に、謝ってほしいわけじゃないんだ。ただ、どうして自身の未練が正確に分からないのかを聞きたいだけだ。」
「そうですね……ごめんなさい。」
この子はどうしても負け腰らしい。
だが、こればっかりはどうしようもないな。
「実は…私、生前の記憶…霊になる前の記憶が無いんです。」
「き、記憶が無い!?」
「ひゃうっ……」
僕が思わず声を上げると、少女びっくりしたように仰け反る。
「悪い。つい……。だが、記憶が無いと言うのは…」
「嘘じゃ……無いですよ!」
少女は僕の瞳を覗き込んで、真剣な面持ちで言った。
「別に疑っているわけじゃ無くて、特殊だなって。覚えている中で一番の古い記憶っていつだ?」
「えっと…一週間ほど前、気づいたら、ここにいました。」
「一週間前か……、誰かに助けを求めたりしなかったのか?」
「しましたけど、皆さん私の事が見えないらしくて……」
「それで、人に声を掛けていたと言うわけか……だが、性行為をしようと人に話しかけるのは、如何なものかと思うぞ。」
僕が溜息を吐きながら説教すると、少女は顔を真っ赤に染め、自身の胸を手で押さえながら言う。
「あれは…お兄さんだけにですっ!」
「そりゃ光栄だが、何故?」
「えっと、お兄さんを見た瞬間……」
「ムラムラしたと。」
僕の言葉に、少女は頬を膨らませ近づいてくる。
「違いますぅっ!!私は、運命を感じただけですっ!それで、既成事実を作れば、この人のお嫁さんになれると思ったんですっ!」
「なるほど……」
つまり、少女は僕に一目惚れして、性行為すれば、結婚して未練を果たせると思ったわけだ。
幽霊でも、女の子に好かれるというのは悪い気はしないな。
「単刀直入に言うと、君とは結婚出来ないし、僕にはどうする事も出来ない。」
「そう…ですよね……ごめんなさい…貴重なお時間を…」
少女は、へこへこと頭を下げる。
目尻には、大粒の涙が溜まっていた。
「でも、宿くらいなら提供してやるよ。」
「え?」
少女は顔を上げ、不思議そうな顔をする。
「俺の家を拠点にして協力者を探すか、旦那さんになってくれる人を探すんだ。記憶を取り戻す協力ぐらいなら出来るからな。」
僕は少し臭いセリフを吐いてしまったことに羞恥心を覚え、頬を少し赤らめ、自身の後頭部を掻く。
「い、いいんですか?」
「いいよ。霊の一人や二人"増えた"ところで、負担が大きくなるわけでもないし。」
それに、この子を放っておくと、駆け出し霊媒師のカモにされたり、霊に恨みがある人にどんな目に遭わされるか分からないし、放って置けないしな。
「お言葉に甘えて…良いんでしょうか?」
「甘えとけ甘えとけ。家に来るのが、君にとっての最善かどうかは分からないが、ここにいるよりはマシだと思うが?」
僕は少女の頭を優しくポンポンと叩く。
すると、少女は少し頬を赤くして嬉しそうに笑った。
「そうだ、名前を言ってなかったな。僕は、如月妖助。妖怪の”妖”に助けるの”助”。不気味な名前だろ?」
僕がちょっとした自虐ネタを披露すると、少女はそんな事ないと、笑ってくれた。
「君は?」
「私の名前は……分かりません。如月さんがつけてくれませんか?」
「ぼ、僕が!?」
少女はコクコクと二度頷くと、期待の眼差しでこちらを見てくる。
名前を付けてくれといきなり言われても、無理があるのだが……
仕方ない。マジカルバナナ方式で決めるか。
幽霊の少女……美少女…可愛い…花
「ゆう…か…」
「ゆうか?」
「そう、幽花と言うのはどうだ?幽霊の”幽”に花の“花”。気に入らなければ、考え直すが……」
「幽花…幽花!気に入りました!ありがとうございますっ!」
幽花は、僕の手を握ると眩しい程の笑顔で言う。
「そうか、それは良かったよ。じゃ、行こうか。」
「はいっ!」
——そうして、僕と幽花と言う一人の幽霊との物語が幕を上げた。
初めまして、如月 否 と申します。
主に、絵を描いて過ごしていますが、たまには小説を書いてみようと思い、投稿してみました。
文章力や語彙力、構成力が乏しいので、御見苦しい所も多々あると思いますが、これから気まぐれ投稿していきたいと思いますので、是非温かい目でご閲覧ください。




