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97.それは、思い出す約束と新しい願い

 ふとした事から浄化の魔石を10個ほど入手できた。とりあえず今の所、必須用途がないので知り合いにお裾分けすることにした。フローリアと、ミレーヌおよびエレリナには渡したので、後はゆきにも渡しておこうと思う。

 入手した二日後、そろそろ彩和へ行こうかと思う。時差を考慮してこちらで朝日が昇ったくらいで訪問する。時間は朝8時頃なので、彩和では午後6時あたりか。

 家の庭にポータルを設置して、そこから彩和へ。向こうの時刻がもう夜になるので、ミズキは誘わず一人で行くことにした。




 出た先は、段々見慣れた景色になってきた彩和の大衆食堂の庭。丁度日が落ちた後という感じなのか、少しばかり地平の向こう側が明るいような気がする。

 さて、じゃあ狩野の家に向かおうか……と思ったのだが。


「あーっ! やっと来たああぁッ!」


 建物から飛び出してくる人影ひとつ。まあ声でわかるが、それ以前に行動で一目瞭然。


「よう、来たぞ」

「来たぞ、じゃないでしょ。なんでもっと早く来てくれないの」

「何がだ? 三日くらいの間隔でって言っただろ」

「違うわよ。長くても三日って約束。だから、毎日来て来たっていいのよ?」

「無茶言うなよ……」


 さほど手間ではないかもしれないが、毎日必ず彩和へ顔を出すのは無理だ。というか、三日に1度というのも結構な頻度だと思う。だからよほどの用事がなければ、ちょっと話をして帰るつもりだ。


「そんな訳で今日の用件だが……」

「ちょ、早いよ。もうちょっと、こうゆっくりとさぁ」

「別にいいけど……でも、もう夜だろ。あまり邪魔するのも悪いだろ」

「そんな事ないよ。元の世界と違ってこの世界、曜日感覚とかないからね」


 確かにそうかも。曜日ってのは明治になってから入ってきたものだし、まだここ彩和では曜日みたいな認識はしてないのだろうな。それじゃブラック企業万々歳か? 怖い怖い。


「でもまあ、今日はちゃんと用件があるから。これなんだが……」


 ストレージから浄化の魔石を取り出しゆきに手渡す。


「これは魔石? 何の? でも、すごく綺麗だね」

「これは浄化の魔石って呼ばれてるもので、一番使われる用途は飲料水とかの浄化だそうだ」

「へー……」


 ゆきに簡単な浄化の魔石の説明と、どうやって入手したかの話をした。そしてミズキがクリーンスライムをなぜかテイムして、新たにペットにした事を話すとかなり興味を持ったようだ。


「でもLoUって、モンスターのテイムって無かったよね? 私結構やりこんでたけど、そんな話もアイテムも見たことなかったけど」

「フィールドモンスターのテイムってのは、開発スタッフ内では実装しようかって話はあったんだ。でもまあ、知っての通りあんな感じで終焉しちゃったから、本当に仕様案しかない。だからテイムアイテム自体も存在しないから、なんでミズキがテイムできたのかも不明だ」

「そうなんだ。まあ、とりあえず今はルーナがいるから大満足だけどね」


 そう言って左手にはめた指輪にそっと触れる。呼び出しはしなかったが、おそらく想いはちゃんと届いているのだろう。


「まあ、そんな訳でこの魔石。フローリアやミレーヌたちにも渡したから、ゆきにもと想って」

「わかった、ありがとうね。これは家の女中さんに話て設置しておこうかな」

「それがいい。ただ世間的には、かなり希少価値があるらしいから、教える相手は選ぶように」


 これで用件は終わった。特になにもなければ戻ろうかと想ったのだが。


「そうだ、忘れてた。お父さんから今度カズキが来たら話があるって言ってたんだ」

「え? お、俺に?」

「うん、カズキにって言ってた」


 何だろう。今になって「やはり家の娘は嫁にはやらん!」とか言い出したのか? なんか、あんまりそういう事を言う人じゃないと思うけど。

 そんな事を考えている俺に、ゆきが言葉を続ける。


「なんか君主との面会日程がどうとか言ってた気がするけど」

「ああっ! そういえば、そんな話もしてたかも」


 すっかり忘れていた。ミスフェアの洞窟奥で見つけた正宗と添えてあった手紙。それに関しての報告や話をする機会を設けるって言われてたんだった。

 元々この彩和に来た理由の一番大きな事項だったけど、なんか色々ありすぎてすっかり忘却の彼方だったよ。こういうのってばれたら不敬罪になるのかな。


「えっと、どうすればいいかな? とりあえず十兵衛さんに会えばいいの?」

「そうだね。今なら家にいると思うから一緒に行こっ」


 そう言ってすっと腕を組んでくる。なんか以前もこんなことあった気がするけど。でもまあ、ゆきとはどうしても会える時間も少ないし、好きなようにさせてあげよう。




 そして狩野の家へ到着。以前にも来たことがあるし、ゆきも一緒なので当然迷うことはない。


「おお、待っておったぞカズキ殿」


 玄関先で出迎えてくれたのは、ゆきとゆらさんの父親であり狩野一族の長でもある十兵衛さんだ。

 ちなみに毎回ゆきやゆらさんと顔を合わせるとまず一合していたが、俺がいる時は控えてくださいとお願いしたので今回は無しだ。なんか暑苦しくてイヤだって事は内緒だ。


 出迎えてくれた十兵衛さんと共に、奥の座敷へ。うーん、現実(あっち)にある俺の部屋の畳よりも、断然良いイグサを使ってるよね。足ざわりがすごく気持ちいいんだよなこれ。フローリアじゃなくても畳部屋が欲しくなるな。

 案内された部屋に、俺と十兵衛さん、それにゆきの三人だけになる。出された緑茶をひとすすりして落ち着いてから十兵衛さんが口を開いた。


「当主より、明日から数日は予定を入れても構わないとの事。どこかその当たりで、都合のつく時間はないかな」

「明日から数日……。俺は何時でも構いませんが、出来れば皆が居たほうがいいと思うので、その事を皆に相談してきたいと思いますが」

「ふむ。ならば返答はいつになるか?」

「明日の午前に。今日中に皆に話して日程を決めます」

「うむ、それなら問題なかろう。ではその様にしていただきたい」

「わかりました」


 ……うん。なんかあっさりと会話終了。まあ、実際に会うための段取りをよろしく、って事だから長々と話すことじゃないんだけど。

 だが目の前の十兵衛さんは、用件は終わったのだがまだ何か話したいような雰囲気を出している。


「……まだ何か話したいことがあるんじゃないですか」

「あー、そうだな。えっと、その……」


 何故か先ほどと違い、急にしどろもどろになる十兵衛さん、俺もゆきも「?」となってしまう。


「ごほんっ。そのだな、カズキ殿は将来ゆきをその……アレだ」


 ああ、なるほど。そっちの話か。そりゃ男親から切り出すのはなかなか、気恥ずかしいと思うような内容だな。でもそれの何を話たいのだろう。まさか本当に「嫁にはやらん!」ってヤツか?

 ともかく俺はそれに関してはしっかり決心したんだ。なので言いにくそうにしている十兵衛さんの替わりにいう事にする。


「ゆきを嫁に貰うという話ですね。ちゃんと自覚しています」

「お、おお。そう断言してもらえると、こちらも助かるというか、なんというか……」


 娘の事になると親は皆同じか。まあ、良いことだからよしとしよう。

 だが今の発言かたすると、どうも俺の予想とは違うようだ。十兵衛さんはしっかり応援してくれる姿勢のようだ。


「それで、なんの話ですか? ゆきの事ですか?」

「え、私の?」


 空気を呼んで黙っていたゆきだが、思わず声を出してしまう。まあ、退室を言い渡されてないんだから、別にしゃべってもいいと思うんだけどね。


「……いや、ゆきではない。実は……ゆらについてだ」

「ゆらさんですか?」

「お姉ちゃん?」


 驚いて再び俺とゆきが声をあげる。すると十兵衛さんは、座ったまま半歩ほどさがり、その状態でがばっと頭をさげ畳に額をつける。




「カズキ殿! よければゆらも、ゆらも一緒に貰ってくれぬか!」


「「えええぇぇぇ~~~っ!?」」




 月が半身を隠す新月の夜、静かな風そよぐ中に二人の叫び声が響き渡った。


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