96.そして、皆にもお裾分け
偶然の産物的な結果、ミズキのペットになったクリンことクリーンスライム。
たまたま討伐したウルフが汚染されていたため、それを本能で浄化しようとした結果、何の効果もない魔石が青く澄んだ浄化の魔石に変化した。
予想もつかない展開だったが、結果としては大満足な結果におちついた。現状で手元にある浄化の魔石は全部で5個。先程のウルフの魔石は、全部クリンが能力付与をしてくれていた。
「ねえお兄ちゃん。何でもいいから使ってない魔石ある?」
「魔石? それなら何個か……」
そう言ってストレージから魔石を数個取り出す。彩和でうけたクエストで討伐したワイバーンから入手した魔石だ。50個ほどあるが、特に用途もなくストレージの肥やしになっていた。
ミズキは魔石を受け取ると、それをしゃがんでクリンの方へ差し出す。
「クリンちゃん。この魔石もさっきみたいに浄化の魔石に出来る?」
そう話しかけると、魔石がのったミズキの両手を広がって包み込んだ。そして、ぷるぷると震え始めると、中に見える魔石の色合いが少し変化してるのが見えた。最初は濁ったような緑色だったが、今は青くなって透明度も上がっているように見える。
そして先程のようにクリンがどくと、そこに会った魔石は澄んだ青色の魔石へと変化していた。効果はまだ確かめてないが、おそらく浄化の魔石になったのだろう。
「やっぱりこの子、魔石に浄化能力を付けることができるんだ」
「……そうみたいだな」
ウルフなどの低級モンスターの魔石は、内包されている能力が無い場合も多く、そうなると使い捨ての召喚石にするくらいしか用途はなかった。だが、こんな感じで自信のユニーク能力を付与できるモンスターがいるのなら、その用途は大幅に広がる。とりあえずストレージにある魔石は、出番あるまでは肥やしにしておこう。
「ミズキ、俺も触って大丈夫かな?」
「大丈夫だと思うけど……いい?」
ミズキが聞くと、小さくぷるぷると震えた。それを見てミズキは「うん、ありがと」と返事をしたが、俺にはさっぱりわからん。ペットと主には意思疎通ができてたのかな。
「大丈夫だって」
「そうか。それじゃあ……お、なんか面白い手触りだな」
柔らかな感触を少しばかり堪能させてもらってから、俺は話しかけた。たぶん横でミズキも聞いてるから、こちらの発言もちゃんとつたわるんじゃないかと。
「浄化の魔石、ありがとうな。それで、将来新しい領地ができたら、そこに綺麗な水を流す道を造りたいから、その時また沢山浄化の魔石を作ってもらうかもしれん。お願いしてもいいかな?」
「私からもお願い」
俺の言葉と、ミズキの願いを聞き、クリンはかるくぽんっと跳ねた。それを見てミズキは「いいよって言ってる」と代弁する。なんとも不思議な経緯だが、これで後々の構想がスムーズに実現できそうだなと思った。
王都へ戻ってきた。元々の予定は完了したが、予想に反して早々に終わってしまった。
この浄化の魔石というのは、聞いた話では随分と希少性の高いものらしいが、俺達の場合はとある事情でそこまでレアな物という感じではなくなっている。だが便利なことには違いない。なら仲間内にでも分けておくか。
「そういう訳でフローリアも1個どうぞ」
「……何と言いますか、相変わらずカズキ達は面白いですね」
手渡された魔石を眺めながら、忌憚のない意見を述べるのはこの国の第一王女。俺とミズキは既に何度か城に来ており、話も通してあるのですぐにフローリアの部屋に案内された。
「それで、ミズキの新しいお友達は紹介してくれないのですか?」
「お友達って、クリンちゃんのこと? もちろんするよー」
ミズキがストレージにしまってある『クリンの心』と名前のついたアイテムを取り出す。そうか、あのクリーンスライムに名前を付けたから、アイテム名にもそれが反映されたのか。
「わぁ、なんか可愛らしいですね」
「でしょ? クリンちゃん、こちらこの国の王女様のフローリアよ。私の大切な親友」
「ふふっ、はじめましてクリンさん。フローリア・アイネス・グランティルです、よろしくね」
挨拶をしながらそっと撫でる。その不思議な感触に少し目を見開いて、優しく押し込んだりこねるように撫でてみたりしている。やはり皆やることは同じだなーと感じた。
とりわけ、そんな様子なのでもうしばらく二人は談笑しながら過ごすのだろう。ならば、
「ミズキ、フローリア。俺はちょっとミスフェアの方にも浄化の魔石を届けてこようと思う」
「それなら……」
「届けてくるだけだ。だからお前はもう少しフローリアと話でもしてていいぞ」
「あ、ええっと……」
「……わかりました。ミズキお願いできますか?」
「うん、もちろんだよ。それじゃあお兄ちゃん、いってらっしゃい」
「ミレーヌたちによろしくとお伝え下さい」
二人に挨拶をして部屋をでる。そして外へ出てからミスフェへのポータルを開く。
切り替わった視線の先は、先日設置許可を頂いたアルンセム公爵家の庭。さて、ミレーヌとエレリナさんを呼びにいかないと……と思ったのだが。
「カズキさんっ!」
「うおっと!」
正面から豪快なダイブをしてきたミレーヌに、芝生の上で押し倒された。ミレーヌだけなら耐えられたのだが、ホルケにまたがった状態で突進してダイブしてきたのでさすがに威力を相殺できなかった。
「カズキさん、どうなされましたか!? 私と離れて淋しくなってしまったんですね、わかります。しかたないのでしばらくこのままでいいですよ!」
そう言って俺にのったままぎゅっと抱き付いてくるミレーヌ。うーん、可愛いのは間違いないけど、この子かなり賢いよね。どこかフローリアすら及ばない末恐ろしさを感じてしまう。
「こんにちはカズキ様、突然どうなされたのですか?」
「あ、うん。えっと……」
とりあえずはがれそうにないミレーヌを付けたまま起き上がる。それでも離れてくれそうにないので、だっこをするようにして抱えて立ち上がる。
「実は浄化の魔石が何個か手に入ってね。今後も入手は可能だと思うから、今ある分を少しおすそ分け」
「浄化の魔石ですか……! それは、ありがとうございます。でも、よろしいのでしょうか?」
「うん。ミズキがクリン……クリーンスライムをペットにしてね、そのスライムが魔石を浄化の魔石に変化させることができるんだ。ミズキは今フローリアの所にいて、そっちにも浄化の魔石を渡してる」
「なんと、そのようなことが……。わかりました、ではこの魔石は有り難く使わせて頂きます」
「ちなみにどうやって使うの?」
「そうですね。この公爵家では飲料水は大瓶に入れておりますので、そちらに入れて浄化をしようかと思っております」
「なるほど。今度彩和のゆきにも渡しに行きます。そうだ、ゆきにあの話をしておきました」
「そうですか、お気遣いありがとうございます。……何か困らせるような事しませんでしたか?」
ゆきの名前をだすと嬉しそうな顔をして礼を述べる。ここで何かゆきが迷惑をかけてたりしても、きっと妹の為に謝罪することすら嬉しいと感じるんだろうな。
「その、寂しいから三日に一度くらいは顔を見せてと言われました」
「そうですか、あの子が……。すみません、カズキ様。ゆきをよろしくお願いします」
丁寧にしっかりと頭をさげるエレリナさん。
……ほら、やっぱり嬉しそうに笑ってるじゃないか。




