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91.そして、帰るはわが街わが国へ

 翌日、俺達はミスフェア公国にて朝食をとっていた。

 昨日はあの後ミスフェアへの帰り際、両国の中間位置に流れる川を確認した。随分と大きな川で、これであれば用途には十分だろう。もしこの川がミスフェア付近まで流れていれば、運河としての使用も考えれたのだが、残念ながらそれは出来そうになかった。


「カズキくん、それにミズキさん。昨晩はよく眠れたかね」

「はい、とても快適でした」

「私もです。枕が少し不思議な感触でしたが、あれはなんですか?」

「あれは“そばがら”の枕だよ。彩和からエレリナが取り寄せてくれたものだ」

「そばがら枕ですか。懐かしいですね」

「ほぉ。カズキくんは過去に使ったことがあるのかね」

「え、ええ、少しだけですけど……」


 ついうっかり反応してしまったが、当然それは現実(あっち)での実家の話だ。親の同級生が大きな農場を経営しており、そこで幾つか穀物をそだてており、その中にそばもある。そのそばがらを枕に入れていたので、実家の枕は毎年シーズンになると新鮮なそばの香りがしていたものだ。


「しかし申し訳なかったね。私が用事で出かけていたため、ろくに相手も出来ず……。もう今日の午後には出発するのだろう?」

「あ、それなんですが……」

「うむ? どうかしたのかね」

「昨日設置の許可を頂いた【ワープポータル】ありますよね。あれがありますので……」

「おお、そうか。君は高位魔法である転移が使えるのであったな」


 驚きと感心の顔を向ける伯爵だが、LoUの中では初歩的な転移魔法である。あちらの場合は記録場所が最大5箇所までだったが、こちらでは制限なく登録が出来ている。


「まあ、そんな訳で今後は都合があえば瞬時に行き来できますから」

「そうかそうか。そうなると、人間というのは贅沢だな。離れていても意思疎通が可能な連絡手段が欲しいと思えてきてしまったな、ははは」

「そ、そうですね、あはは」


 夢の発想を笑う男爵の声にあわせ、思わず俺も乾いた笑いを漏らす。幸いにもこの場にゆきがいないため、電話という連絡手段を口にする者はいなかった。だが、他の皆もこれからは何度も現実(あちら)へ行くようになるのだろう。そのうち電話という存在を知り、同じようなことが出来ないかと聞いてくることもあるのだろう。

 いっそ時計の仕組みも組み込んで、一定時間以上の通話を制限するとか。そうでもしないと夜の彼女達の寝室から、延々と話し声が聞こえてくる……なんて事態もありうる。便利なものと迷惑なものってのは表裏一体紙一重だな。




 その後は、先日見て来た彩和の事なんかを話したりした。

 公爵夫妻も実際に行ったことは無いとの事で、転移で簡単にいけるのであれば一度行って見たいと言われた。なので都合が会えば是非という事となった。

 そんな感じでアルンセム公爵家とは、親娘共々良好な関係を築けたと思う。

 公爵と夫人は退室し、また仲間内だけでの状態になったとき、ふとフローリアが聞いてきた。


「そういえば、ゆきさんはどうしましょうか?」

「ゆき?」


 主語が不明なので俺はそのまま疑問で返す。ミレーヌの側にいたエレリナも、一瞬ちらりとこちらを見た。


「はい。二つの世界の事ですが、ゆきさんが知っているとはいえ、『私達がその事を知った』という事実は、まだご存知ないのですよね」

「ああ、そういうことか。そうだな、それについても言っておいたほうがいいかも」

「どうしますか? いっそこの後、行くというのもアリだとは思いますが」

「まあ全員居る今、都合がいいの確かだが……」


 ざっと見渡す。心なしかミレーヌが嬉しそうだ。お別れが寂しかったのかな。


「だがここと彩和では時差があるから、今向こうは丁度真夜中だぞ」

「大丈夫です。ゆきなら何時奇襲をかけても対処してきます」

「なんで奇襲。あと、ゆき以外の人に迷惑でしょ」

「……そうですか、残念です」

「何が残念なの!?」


 そんな事を話しながら、結果的に行くことは無しとなった。もっと正確なことを言えば、一度グランティルへ帰国した後、俺が一人で話しに行くこととなった。

 この決定には、みな不満そうな顔をみせたものの、最終的には受けtれてくれた。


 そして夕方になり、徐々に日が傾き始めた頃。

 俺達は公爵家の庭に出ていた。ポータルが設置してある場所の近くだ。


「フローリア王女、この度は時間も取れず申し訳ありませんでした」

「いいえ、頭を上げてくださいアルンセム公爵。今回私はお忍びで、大切な友達と遊びにきただけです」

「……わかりました。ご存分に楽しめましたでしょうか?」

「はい! それれはもう!」

「そうですか。それは大変喜ばしいことです」


 フローリアが公爵から別れの挨拶をされていた。その隣で、ミズキがミレーヌと公爵夫人につかまっている。


「ミズキさん、また遊びに来てくださいね」

「私は嬉しいけど、いいの?」

「もちろんです! そうですよね、お母様」

「ええ、勿論ですとも。今後もミレーヌを、お願いしますね」

「はいっ」


 そして俺のところにはエレリナさんが来た。となれば、話題は一つだろう。


「カズキ様、ゆきの事を是非ともお願いします」

「わかりました。エレリナさんも、お元気で」

「はい。カズキ様も」


 そう言って頭を下げる。初めてここへ来たときから何度もみた日本風のお辞儀だ。武道ではないのに、礼に始まり礼に終わるって言葉を思い出した。


「それでは皆さん、ありがとうございました。さようならー!」


 そう言って俺は【ワープポータル】を出す。行き先はグランティル王国王城前。

 フローリア、ミズキと入っていき、最後に俺がポータルに乗る。

 転送される俺はその姿が消えるまでずっと手を振り続けていた。


 こうして、俺達の少し不思議な──でも有意義な旅は終わった。


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