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90.そして、繋がりは盟友へ

 バフォメットの子供を連れ去ったゴブリン達を一掃し、一息ついた感じだがもう一つだけやることがあった。助けだしたその子供が、疲労やショック等の影響か眠ってしまっているのだ。

 普通であれば自然起床を待つのだが、今回は万が一のために一度起きてもらったほうがいい。


「フローリア、頼めるか」

「わかりました」


 バフォメットの許可をもらいフローリアの神聖魔法をかける。簡単なコンディション回復魔法だが、その効果はあったようですぐさまバフォメットの子は目を覚ます。


「……アレ? ココハ……、ア、パパ!」

「オオ、ヨカッタ……」


 目を覚ましたバフォメットの子は、バフォメットを見るなり『パパ』と呼んだ。さっき雌雄同体って言ってたけど、気持ちとしてはオスなのかな?

 ともあれこれで、ようやく最初の目的でるバフォメットとの話ができそうだ。そう思って皆を見ると、なぜかフローリアとエレリナ以外は、ちょっと不思議そうな視線を向けてきた。


「えっと、どうしたんだ?」

「その……お兄ちゃん、だよね?」

「やはりカズキさん、なんですよね?」

「何を言ってるんだ。他に何に見えるん……あ」


 ここでようやく思い出した。今のおれの姿──というか、キャラを。ショートカットコマンドで即入れ替わったため、今までのように気持ちの切り替えがあまりできてなかったのだ。


「そうか、二人にはこちらの姿を見せたこと無かったな」

「二人ってことは……フローリアは見たことあるの?」

「ええ。というより私は、初めて出会ったカズキはこちらの姿でした」

「エレリナも知ってたの?」

「はい。というか私は以前初めて会った日の模擬戦で、このカズキ様に負けたのです」


 ミズキとミレーヌからは驚きのほか、少しばかりずるいよっていう雰囲気が伝わった。そういえば以前色々と話した時、GMの話はしたつもりだったが実際の姿を見せてはいなかったな。

 だがまあ、これで本当にかなりの隠し事はなくなったと思う。なのでとりあえずキャラは戻しておく。


『//cc』


 さっと呟いてキャラを切り替える。内部処理としては以前用意した『//singleout』の拡張版で、ログアウトしてキャラ別のテンポラリメモリを破棄し、ログイン対象キャラ番号をインクリメントして、ログイン処理へ跳びなおしてるだけだ。

 ただこれだとほんの一瞬も現実(むこう)に戻らないので、いまいちキャラ切り替えをしたという実感がわかない。


「あっ……カズキが戻ってしまいました」

「えー、初めてみたからもっと見たかったのにー」

「いや別に見せるようなもんじゃないし」


 他人から見た場合、これって変身みたいなものなんだろうか。もしかして、テッカテカなメタリックな装甲に変身とかしてヒーローごっことか出来るのかも。……いやまあ、やらないよ。


「今回ハ世話ニナッタ。感謝スル」

「エット、アリガトウ……」


 むこうの方も落ち着いたのか、子供を抱きかかえたバフォメットが側に来て礼を言った。まあ、こちらも話があったし、このバフォメットの事はいい印象を持ってたからな。


「こちらこそ、お役に立てたのであれば何よりです」


 フローリアが笑顔で返事をすると、抱えられたバフォメットの子が嬉しそうに笑う。なんか子供のバフォメットというのが、可愛らしい子山羊なイメージが強い。親は重厚な死神の鎌みたいな装備があるが、子供のほうは小さな鎌みたいなものを持っている。なんか、ぬいぐるみみたいだな。


「ソレデ、話シトハナンダ?」

「話? ああ、そうだった。実は……」




 俺はバフォメットに、今度グランティルとミスフェアの中間位置に中継街を兼ねた新領地を設け、そこの領主に俺がなることが濃厚だと話した。少しばかりその辺りの森林を開拓することになるので、それに関してと可能であれば周辺の守護を改めてお願いしたい旨を伝える。


「我ハ此度ノ件デ、借リガデキタ。ナラバソレヲ返スノミ」

「では……」

「アア、カマワヌ。オ主ガ納メル土地ノ周囲ノ森林、全テ我ガ責任ヲ持ッテ守護シヨウ」

「そうか、ありがとう!」

「ふふ。これで新領地の領主はカズキしか考えられませんわ」


 嬉しそうにフローリアが告げる。まあそうかもしれないが、なんとも気の早い話ではある。


「しかし王様も驚くんじゃないのか? まだ構想段階とかって話しだろ。なのにもう領主候補が内定して、地固めをしてるんだから」

「構いませんわ。自己保身を優先する貴族達にまかせてたら、何も決まらない無駄な会議を延々と開催しながら、自家の自慢話ばかりして何も進みませんもの。こういう意義のあることは、さっさと決めて進めるに限ります」


 そう言って胸をはる。まあ、たしかに第一王女であるフローリアが言えば、鶴の一声ならぬ神の一声とでも言うべき指導力がありそうだ。

 あと……うん、アレだアレ。そう、成長期。


「……なんですか」

「イヤ、ナンデモ」


 フローリアに睨まれた。ついうっかりだ、油断したよ。

 話題逸らしのためにと近くで会話をしていたフローリアとバフォメット以外の者を見る。少し話すということで、予めバフォメットの子供……子バフォでいいか。子バフォはミズキ達にまかせていた。毛触りがよいのか、ミズキとミレーヌがさわさわと撫でている。ちなみにその子バフォがいる場所は、正座したエレリナさんの膝の上。ちょこんとすわっている姿は、エレリナさんがぬいぐるみでも抱いてるようで、これはこれでなんか微笑ましい。


「……しかし、あのゴブリンどもは何だ? 何故あの子を攫ったんだ」

「アノごぶりんノ群レハ、最近急激ニ生息範囲ヲ広ゲテキタ。ツイニハ、我ガ守護スル森マデ及ンダ。アノヨウナ下劣ナヨソ者ヲ我ガ守護地域ニ入レルワケニハイカヌ。ヨッテ幾度カ追イ返シテイタノダガ、マサカコノヨウナ手段ニデルトハ……」

「推測するに、この森のもっと東にある地域に生息するゴブリンが、自分達の陣地拡大を目論んで進出してきた……ということか」

「オソラクハ」


 わかってしまえば単純な話。さらった子バフォで脅迫しようというわけか。考えが安直ではあるが、卑しい感じがしてしまう。そう思えるのも俺がこの世界の人間ではなく、現実(あっち)の住人だからってのもあるだろう。モンスター討伐には大分慣れたが、駆け引きや思惑が絡むとやや苦手だ。


「ならばもう少しだけあの子の周辺を警戒しててくれ。領地を起こして街が出来上がれば、俺達もそこへ移り住むことになる。その場合領地を囲む範囲に、外部の魔物を遮断する特殊な結界とかを張る予定だ。当然その結界の効果は、あんた達親子には適応しないようにする。その範囲で基本過ごしてもらえば、たとえあの子が一人でいても襲われたり攫われたりすることは無いはずだ」

「……ナルホド。カヨウナ事ガ出来ルト申スカ。ナラバ此方モ、守護者トシテノ責務ヲ存分ニ全ウスルトシヨウ」

「ああ、よろしく頼む」


 これで一応最初の目的は完了だ。それならばと離れたところにいるミズキ達を呼ぶ。

 子バフォはそのままエレリナさんが抱きかかえるようにして、こちらへ連れてきた。そのままバフォメットの前へいき子を差し出す。


「暫し貴方様のお子様をお借りしておりました。ありがとうございます」

「ウム、我ガ子ガ世話ニナッタ」


 手渡された子をバフォメットは軽々と肩に乗せる。そしてバフォメットが此方を見たところで話を切り出す。


「改めて紹介する。って、ミズキは知ってるか」

「お久しぶりです」

「そしてこちらはミスフェア公国領主の娘ミレーヌ」

「はじめまして。アルンセム公爵が娘、ミレーヌ・エイル・アルンセムと申します」

「最後にこちらは、ミレーヌ専属メイドのエレリナさん」

「はじめまして。エレリナと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


 こちらの紹介と挨拶をすると、バフォメットはその顔をしっかりと見て頷く。


「フム。我ハコノ森林ノ守護者ばふぉめっとダ。我ガ子共々ヨロシク頼ム」


 その言葉に皆が笑顔で返す。

 こうして種族を超えた、不思議な関係性の仲間関係が誕生したのだった。


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