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9.それは、逃れられぬ運命

前回は久々にリアル多目でしたが、今回はまたLoU多目で。

 帰宅してすぐに、サーバーのバックアップ構造を構築する。といっても、定期的にHDDにバックアップをするだけなんだけど。単純だけど、これが一番重要だ。

 その後、実稼動時のLoU関係資料を色々漁っていると、郵送で停電対策用の電源パーツが届いた。それを使って今度は強固な無停電電源装置を構築。

 これでかなり安心してインできるようになった。


 ふと時間を見るともう、すっかり夜も遅くなっている。

 今朝方にミズキと会話してすぐログアウトしたから、向こうはまだ朝になったばかりだ。今からインしちゃうとちょっと体が悲鳴を上げそうだ。

 なので……ちょっとだけミズキの顔をみるつもりでインをした。






 LoU側の自分の部屋に出た。そういえば、ミズキがふらふらしながら部屋を出て行ったんだったな。

 なら廊下か部屋にいるだろう。部屋を出てみると、丁度自分の部屋に入ろうとしているミズキがいた。


「ミズキ」

「んー……、なーにー……?」


 あれま、何か元気ない? ……ああ、そうか。ミズキにとってはまだほんの少し前のことか。

 俺は今から寝て、リアル側の時間を朝に合わて、それからギルドに報告に行く予定なんだが……ミズキがちょっと覇気なさすぎだな。

 仕方ない、寝る前に一仕事だ。なんとか元気付けておこう。今やらずに寝ると忘れそうだしな。


「……ミズキ」

「え、な、なに?」


 立ち止まりこちらを見るミズキの頭にそっと手をのせて、やさしくなでる。


「俺も、ミズキのこと大好きだぞ」

「ファッ!!??」


 ……いかん。どうやら、俺が眠気で倒れそうだ。そういや日中はずっとウロウロしてたみたいなものだったからな。仕方ない、部屋にもどって確実にログアウトしよう。


「んじゃ後でなー」


 撫でる手を外して、そのまま回れ右して部屋に戻る。ドアを閉めてミズキが側に居ないのを確認して、メニューからログアウトを実行する。

 薄れ行く意識フェードの中、どこかから『なああああーーーん!』という不思議な叫びが聞こえたような気がした。






 リアルに戻った俺は、そのまま即ベッドに横になった。

 本当にもう眠気の限界だ。にしても何故こんなにも眠いのだろう。今日は確かにいろいろと歩き回ったけれど、LoUにインしてる時の方がよっぽど動き回っているような気がするんだが。

 ……もしかして、LoUの“カズキ”はステータスも高いし、HPとかMPという概念はあっても“疲労”に該当するパラメータはないのか。

 じゃああっちで筋トレしても無意味ってことなのか。なんだ、クエストうければ結構いい運動になるとか思ったのになぁ……。

 ああ、限界か。本格的に意識が……。

 風呂は明日の朝で、いい……か…………。






「ユリナさん、おはようございます」

「おはようございます……」

「おはよう、カズキくんにミズキちゃん……って、どうしたのミズキちゃん?」


 翌日──正確には、リアルの俺にとっての翌日であり、LoUではあの後、俺とミズキは冒険者ギルドへ顔を出した。無論、昨日受けたクエストの報告だ。

 だが、ミズキは未だなにか意気消沈したような、どこか弱った雰囲気を纏っていた。


「……ねえ、カズキくん。ミズキちゃんどうしたの? まさか、クエスト失敗?」

「あ、いや。クエストは無事完遂したんだけど……。ほら、とりあえず報告しとけ」


 俺の言葉を聞き、ようやくクエスト結果報告がはじまった。横で聞いていた俺は、ユリナさんから魔石の確認をするといわれてカウンターの上でならべた。収納から出てきた魔石は、ざっとみても100個前後ある。これだけの数を、すべてミズキが倒したと聞き、さすがにユリナさんも少し驚いた。

 そして、本来クエストには含まれてないオークロードも討伐したと報告すると、流石に受付嬢であるユリナさんでは判断できない区分になり、ギルドマスターに呼ばれ奥の部屋へ通された。




「久しぶりだなカズキ。あと、そっちが確か……」

「は、はい! ミズキです。昨日冒険者登録しました」


 俺達の前にいるこの人は、冒険者ギルドのギルドマスターのグランツ。この人もLoUにいるキャラなのでおおまかな設定は同じなのだろう。それなら年齢は45歳の既婚者だ。

 今後も冒険者ギルドにお世話になりそうだから、今度リアルに戻ったらギルドマスターや受付嬢のユリナさん以外の職員たちのデータも見直しておくか。


「それで……ふむ。これが完了報告に来たクエスト内容と、その実成果か」


 先程ユリナさんが報告に目を通しているが、途中から少しばかり眉間にしわを寄せている。おそらくは登録したばかりの新米が、オーク種100体以上にオークロードまで倒した報告に驚いてるのだろう。

 じっくりと2度ほど報告を見て、ゆっくりと視線をまずミズキ、そしてカズキに向ける。


「カズキ。ここにある報告は本当なんだな?」

「その報告を読んでないけど、オーク種100以上とオークロードを討伐したってのは本当だ」


 俺の言葉を聞いて「そうか……」と呟くと、グランツはこっちを向いて姿勢を正した。


「まずは礼を言わせてもらう。ありがとう」

「え?」

「は? いや、なんでグランツさんが……」


 今度はミズキと俺が驚く。まあ、確かに依頼に比べ成果がはっちゃけた感はあるけど。

 だが、話を聞いて納得。どうやらオークが住み着いた周囲の村で、色々と被害が出始めていたそうだ。今のところ主に家畜が被害にあっていたが、中には怪我をした村人もいるらしい。

 そこでギルドに付近に住み着いたオーク達を討伐してもらう依頼が寄せられたのだが、実態はオーク種が100体以上いてオークロードまでいる群れだったと。


「本来ならBランク級のクエストとして、複数パーティーで乗り込む案件だった。カズキが居てくれたおかげで助かった」

「あー……、そのことなんだけど……」

「ん、なんだ?」


 少し歯切れの悪い俺を見て、不思議そうな顔をするグランツ。まあ、次の言葉をきたらその表情が一変するのは目に見えてるんだけどね。


「今回オーク種を100体以上倒したのも、オークロードを討伐したのも、全部ミズキ一人でやった」

「……………………は?」


 まあ、そうなるよな。俺も今更だけどミズキのステータスに関しては、やっちゃった感あるもん。でもまあ、今更調整するのも不安だし、面白そうだしいいかなって思ってる。


「えっと、確認をお願いします」


 ミズキが自分のギルドカードを提示する。それをグランツは、横においてあるボードに乗せる。ギルドカードが丁度はまるへこみがあり、その下にあれは……水晶板? なにかタブレットみたいな装置だな。

 ギルドカードをはめると水晶板が輝き、そして何か文字が表示される。ひょっとしてこの世界では、ああやってカードの記録とか見れるのか。

 俺は自分のカードを手にとって見る。カードの表面にも薄い銀板みたいなものがついてるけど、これってたしかミズキとパーティー組むときに触ってた部分だよな。簡単な操作だけはカードでも出来るのか。

 とりあえずカードを視認してみたら、アイコンのようなものがポップしてきた。それをタッチすると、カードに記録されているであろう情報が表示された。

 そこにあるのは、この世界ではなくリアルの方で遊んだMMOのLoUプレイ記録。何をどれだけ倒したとか、どんな魔法やスキルを持ってるとか。

 もしや同じものが表示されてるのか? そう思って水晶板を見てみるが、どうやら受けたクエストや討伐記録くらいしか見えないようだった。ここが冒険者ギルドだから、それに関連する内容しか表示されないのかもしれないな。プライバシー筒抜けじゃないのは良かった。


「……信じられん。機器の故障でもなけれこんな数値は、と思うが……」


 驚きを顕にしたまま俺を見るグランツ。


「さすがはあの(・・)カズキの妹、という事か」

「おう、自慢の妹だぜ」

「お、お兄ちゃん……」


 何となく誇らしげに思ったので、ちょっとばかり優越感に浸ってみた。それが恥かしいのか、ミズキが顔をあからめてしまった。


「そうなると、お前の妹さんは……いや、こんな呼び方は失礼だな。冒険者ミズキはさっさとランク昇格させんとな」

「いいのか? 昨日登録したばっかりの新人なんだぞ」

「いいも悪いも、初陣でこれだけの成果を出しながら、Fランクなんかにしておけるか。さっきも言ったが本来ならBランク……まして、ソロ討伐ならAランク近い難易度の依頼を無事に完遂したんだ。さっさと昇格して、どんどん活躍して欲しいくらいだ」

「や、やったーッ!」


 他でもない、ギルドマスターであるグランツの言葉に、ミズキは喜びを隠し切れない笑顔を浮かべる。

 そんなミズキをみてグランツは、なぜか温かい目で俺達を見る。


「そうかそうか。そんなにカズキと一緒に冒険してたいのか」

「え? や、ちが、そういうんじゃ、えっと」


 途端笑顔を引きつらせて、あわあわと弁明するも、まともな言葉がでてこないミズキ。話の流れはなんとなくわかるが、聞いてみるか。


「えっと、どういう意味だ?」

「ああ。ユリナから聞いたんだ。お前の妹のミズキが念願の冒険者登録を済ませると、それはもう浮かれ顔でお前とパーティーを組んで幸せそうだったと」

「~~~~~っ!」


 なるほど、またユリナさんか。ユリナさんはてっきりほんわかお姉さんキャラだと思ってたけど、こんな性格設定だったかなあ。それともギルドの受付ってストレス溜まる?




「ミズキちゃん、Dランク昇格おめでと~!」


 わー、ぱちぱちぱちーとミズキを祝福してくれるのは、一足先に受付業務にもどっていたユリナさん。その声にまわりの冒険者からも「あの子、昨日登録したばかりじゃないか」「いやでもさっきオークの群れを討伐したとか」「あれってあのカズキの妹だぜ」「んじゃあの子もやっぱり強いのか」と、ミズキの話題一色になってるのが漏れ聞こえてくる。

 更新したギルドカードがユリナさんから差し出されるが、それを受け取る前にミズキが口を開く。


「あ、ありがとうございます。そ、それで、ですね……」

「どうしたの?」


 そうなのだ。クエスト完了報告のほかに、ミズキにはもう一つやることがあった。それは……


「その、武器をその……個人登録したいので……」

「ミズキちゃん専用武器作ったの? あ! もしかして、カズキくんからの?」

「あー、うん。まあね」


 たしかに俺が誕生日プレゼントに贈ったものだが、この後の事を考えて曖昧に返事をした。それを見てユリナさんは「もう照れちゃって」と誤解してくれたが、まあその方がいいかも。


「それじゃあギルドカードに登録するから、ここにカードを置いてね」

「えっ!? カードに登録するの?」

「そうよ。というか、カードにしなければどこにするの?」


 ミズキの顔が赤くなったり青くなったりする。今後ギルドカードの提示をするたびに、アレを見られるというわけだ。


「あー……ミズキ。そんなにイヤならその武器を使うのをやめても……」

「イヤッ! 絶対、ずっと使うんだから!」


 食い気味に反対された。……うん、実はかなり嬉しい。あ、怒られて嬉しいんじゃないよ? そういう趣味はないよ?

 先程グランツがカード情報を見るときに使ったのと同じ水晶板のボードに、ミズキのギルドカードを置く。情報が表示された水晶板をユリナさんが操作する。


「はい。後はここに触れながら、武器の名前を音声で登録してね」

「…… お ん せ い ……」


 ミズキの、抑揚のない、感情のまるで感じられない、例えるなら灰色の霞のような声が聞こえた。

 まずい。これは、俺もまずい。なにがまずいって、とにかくまずい。

 目の前には顔を真っ赤にして、ぷるぷる震えている妹様(ミズキ)。すまん。お兄ちゃんは、今のお前に何もしれやれない。

 意を決したミズキが、そっと水晶板に触れる。


「……ちゃん………き」

「ちょっと声が小さいわね。ミズキちゃん、もう少し大きな声でね」


 あわよくばと呟くように読んだ剣の名だが、小さくてダメだった。おそらく水晶板が声を受け取るマイクデバイス的な役割で、音声を拾えなかったのだろう。

 一度息をはいて、気持ちを改めたミズキ。そして──




「お兄ちゃん大好き!」




──瞬間。全ての喧騒が消え、音一つしない静寂が冒険者ギルドを支配した。




 俺はこの時を、一生忘れないだろう。

 あと(ミズキ)よ……お疲れさま。


二度あることは……?

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