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89.それは、森の守護者と世界の守護者

 久しぶりに会ったバフォメットの言葉に、俺は普通に驚いた。

 バフォメットの子供が(さら)われた? バフォメットの子供? いたの? っていうか、バフォメット相手にそんな事するモンスターいんの? 色んな疑問が瞬時に湧き上がる。


「えっと、バフォメットさんはお子さんがいらっしゃるのでしょうか?」

「……アア、イル」


 俺がもっていた疑問をフローリアが投げかけ、それに応えてくれた。……えっと、そんな設定あったかな。いや、バフォメットの子供なんていうモンスターは、少なくとも俺は知らない。知らないモンスターがいるってのは今となっては十分ありうることだが、バフォメットの子供ともなると。まずどうやって生まれたのか気になる。卵? それとも何か(つがい)みたいな存在? ……まさかと思うが、魔族の子供を産ませる為に……。

 そんな事を考え少しばかり危機感を募らせていると、それとは関係なしにフローリアが話を続ける。


「バフォメットさんは、どうやってお子さんを生まれたのですか? もしかして女性でしたか?」


 ……怖いモノ知らずというべきか。気になった部分を直球で投げる聖女さんかっこええ。まあ、俺もかなり気になるけど。


「我ニ雌雄ノ区別ハ無イ。故ニ我ガ子ハ、コノ森林ヲ守護シタ恩恵ニヨッテ生マレタ」

「えっと……ちょっと分かりかねますね……」

「多分こういう事だと思う」


 バフォメットの言葉は真実なのだろうが、いかんせんこの世界の概念感覚では想像の域にすら達しない内容なのだろう。なによりこの設定も、元をたどればLoU開発スタッフの中でも設定マニアな人の仕業なのだと思う。ならばそういった小説ファンタジー系思想で考察すればたどり着きやすい。


「おそらくバフォメットは、雌雄同体の存在なんだろう。とはいえ一人で子供ができる訳じゃない。その元になる部分……核となるモノ、おそらくはバフォメットの素体になる魔石が必要なんだろう。その魔石は親であるバフォメットから生じたと考えるべきか。増殖か分裂かしらないが、ともかくそうしてまずは核となるべき物ができあがった。そして次はその核になった魔石を、バフォメットの子供へと成すこと。この作用に先程言っていた“森林を守護下恩恵”というのが影響したんじゃないかな。違うかな?」

「……難シイコトハ我ニハ分カラヌ。ダガ我ニトッテ大事ナノハ、大切ナ我ガ子ヲ授カッタトイウコト。ソシテ、ソノ我ガ子ヲ攫ッタ不届キ者物ガイルト言ウ事ダ!」


 再びバフォメットの感情が高まる。そうだ、今はバフォメットの生態に対する興味を向けている場合じゃない。


「バフォメット、提案だ! 俺達もお前の子供を探す手伝いをしたい!」

「ドウイウツモリダ?」

「実は俺達、お前に少し相談事があってきたんだ。だからこの件が収まらないと、まともに話を聞いてもらえないだろ?」

「……ナルホド。イイダロウ、モシ何カ役ニ立ッテクレタナラバ、話クライハ聞イテヤル」

「よし約束したぞ。スレイニプニル! 探査領域を最大にまで広げて探せ! 対象はバフォメットに類似した魔力源だ!」


 俺のマップ表示とスレイプニルの探査能力を合わせて発動する。現在値を中心にグランティル北側の森林のほぼ全域を覆うほどの広大なサーチの発動だ。あるゆる箇所に小さなマーカーが点在している。大半がモンスターで、一部冒険者や旅人だろう。

 そんな中、ここより東の方にあるマーカーに不審な動きがみられた。不可解に思いそちらの状況をマップへ拡大表示する。表示されたマーカー郡の中に、一つだけ白く明滅するマーカーがある。周りはすべて赤いマーカーで覆い尽くされており、一目で孤立した状態なのがわかる。赤いマーカーがモンスター一体だとすると、これは100近くいることになる。

 そして、その赤いマーカー全体が移動すると、一緒に白いマーカーも移動する。つまり……


「バフォメット、ここから東側の森で、モンスターの大群が移動している。だが、その中心に一つだけ別の存在が紛れ込んでいるようだ。無理矢理移動させられているのかもしれない」

「ナンダト!? マサカソレハ……」

「ああ、おそらくお前さんの大事な子供だ」

「東ノ森林……モシヤ、アノごぶりん共ガアアアアアァッ!!」


 バフォメットは絶叫とともに全力で走り始めた。俺もすぐ追いかけようと思ったが、その前に言うべきことがあった。


「すまない皆、緊急事態だったため皆をバフォメットに紹介することもままならない。とりあえずバフォメットの子供を助けて落ち着かせるまでは、少し離れてついてきてくれ。すみませんエレリナさん、ミレーヌ。フローリアとミズキをそちらにお願いできますか」

「大丈夫です」

「了解です」


 スレイプニルに騎乗していたミズキとフローリアを、それぞれホルケとダイアナへ騎乗させる。

 それを確認して俺はすぐさまバフォメットの後を追う。目指すは東にいるモンスターの大群だ。マップでは魚群レーダーでも見ているように、沢山のマーカーが表示されて移動している。そこへ、一際大きなマーカーがどんどん近づいている。


「スレイプニル、全力でバフォメットの後を追え!」


 広大な森林に、力強い(いななき)きが響き渡った。




 バフォメットに追いついたとき、そこには既に何体かのゴブリンが倒れていた。やはりバフォメットの予想通りゴブリンだったようだ。

 だがバフォメットは何故か苛立たしくゴブリンの指揮官らしき相手を睨むだけで、そこへ踏み込んでいこうとはしない。

 スレイプニルから降りて送還させると、俺はバフォメットの隣へいく。


「バフォメット、あれがこのゴブリンの指揮官か」

「……ソウダ。ソシテ……」

「ん? ……あれは!」


 指揮官の横に捕まっている、別種族の存在がいた。初めて見たがよくわかる。あれはバフォメットの子供だ。


「なるほど。あの子を使ってお前を牽制しているわけか」

「…………」


 バフォメットの返事はない。故にこれは肯定といことなのだろう。近づいたら子供に危害を加えるぞという、ありきたりな脅迫。ありきたりで単純だが、それでいて効果がある。特に子供を大事にする親であればこそ。

 なによりこのバフォメットは、害になる様な存在ではない。それは行動アルゴリズムの根底にある“クローズドβテスト”の処理が理由だが、何にせよ十分共存できる存在だ。その森林の守護をしているだけのバフォメットの子供、それが無闇にいたぶられて良い存在とは思えない。

 ちょっとばかり腹が立った。


「バフォメット、あの子供を今から俺が無傷で救出する」

「……デキルノカ?」

「出来る」

「………………ワカッタ、頼ム」


 バフォメットの懇願の言葉を聞き、俺が口にしたのは──


『//cc』


 発した命令は『cc』。ネトゲ用語でいう『CharacterChange』通称『cc』だ。

 以前ショートカットコマンドを登録した時に、もしものために登録しておいた命令だ。一度ログアウトしたすぐログインするのと同じだが、それさえも煩わしい時に必要になると思ったのだ。

 そして、その時は来た。

 命令を発すると一瞬意識が遠くなりそうになるが、すぐさま元に戻る。そんな俺を見てバフォメットは驚きの顔をうかべ、ゴブリン立ちは困惑と警戒を強くする。


 ──次の瞬間。

 俺はバフォメットの子供の隣に立ち、拘束していたゴブリンを投げ飛ばしていた。


「!!??」


 ゴブリン群全てから、驚愕ともいえる叫び声が響き渡る。だがゴブリンにはまだ、自分たちを導く指導者がいる。すぐ傍にいるゴブリン・ロードだ。怯える気持ちと、縋る気持ちを向けられたゴブリン・ロードは卑しく笑いこちらを向く。携えていた大きな剣を抜き、大きく振りかぶる。そしてそのまま当たれば大参事は免れないという速度と威力で振り下ろされて──止まった。


「!?」


 このGMキャラに攻撃は通らない。当たらないとか傷つかないではんく、通らない。俺の表面に武器が触れた瞬間その運動エネルギーは全て(ゼロ)になる。この世界でGMに頼った時、一番手軽かつ有効な方法だ。例の如く、運動エネルギーを0にされた武器は、そのまま空中に張り付けになる。驚愕して武器を戻そうとするゴブリン・ロードだが、当然ピクリとも動かない。

 その武器を握る手に触れ、その手の運動ベクトルも打消す。ついに武器を離そうとするも、もはや指が動かず宙吊りに腕が固定されているかのような体勢になる。困惑の極みを見るような目で、俺を見るゴブリン・ロードはまだ怒りに染まった目をしていた。


 だから俺は、遠慮なく──切り捨てた。


 人質をとるような狡い行動をとるゴブリン・ロードなど、この世界では只の危険でしかない。もっとも、ゴブリン・ロードになるまでの存在だから、そういった思考で生き永らえてきたのだろう。

 ロードを失ったゴブリンは浮足立っている。しかし、まずは俺とその手にあるバフォメットの子供を狙おうとする。そんな狡猾な性格というのは、延々受け継がれているのだなと嫌な再確認をした。

 だが俺は先程と同様、瞬時に移動する。GMの能力で『見えている座標へ無条件移動』が可能なのだ。それは間に見えない結界や壁があっても問題ない。

 俺はバフォメットの隣に出る。


「大丈夫。少し疲れて眠っているだけのようだ」

「オオッ、感謝スル……」


 気絶しているバフォメットの子を、バフォメットに手渡す。それをとても愛おしく抱きしめる姿に、どれほど大事に思っていたのかがうかがえる。

 もはやゴブリンたちは完全に浮足立っている。だが、まともに統率を取れるものがいないのか、攻めも逃げもできずに狼狽えている。しかし、こちらはそのままにする気はない。


「ミズキ! エレリナさん!」

「待ってました!」

「承りました!」


 俺の掛け声に森林の後方から、二つの影が飛び出してゴブリンの集団へ突貫した。

 ゴブリンの集団が全て沈黙するまで、それから10分とかからなかった。


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