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88.それは、落ち着かないお久しぶり

「なるほど……。つまりその“バフォメット”なる魔物は、私達の世界の人間に害するものではなく、王都北側の森林守護を生業(なりわい)とする守護者であると」

「ええ、そういう事です」


 あの後、バフォメットを知らない二人に知り合った経緯とその行動原理を話した。そして、エレリナさんは無論、皆しっかり理解できたようだ。


「それに、もしバフォメットさんの守護恩恵を受けられるのなら、それこそ領主はカズキ以外には無理だと他に言いくるめることもできますね」

「なるほど、カズキさんを領主に据えることにより、領地周辺の魔物からの安全が確約となるなら、これほど大きな影響力はありませんね」


 王家血筋のお嬢様二人が、なにやら計算づくな話をしている。まだ若いながらも、生まれ育った環境からこういく考えがデフォで育成されてしまうんだろうか。


「まあ、まずはバフォメットにちゃんと話してみないとな。向こうの都合もあるだろうし」

「そうですね。もし無理だとしても、あのバフォメットさんならこちらに無為に攻め入るようなこともないでしょうから、十分魔物牽制にはなると思いますよ」

「……お兄ちゃん、あらためて聞くけど、バフォメットってどのくらい強い? 私と比べるとどうかな?」


 実際にバフォメットは見ているが、その強さを実感したことないミズキが興味をもったのだろう。


「そうだな……。まず、以前王都で召喚されたデーモンロード。普通ならアレと同じくらいだが、この森林守護をしているバフォメットは『クローズドβテスト版』という特殊な存在だ。通常のバフォメットより圧倒的に強い」

「へえ……。それは、どう強いの?」


 俺の言葉にミズキの口角が少し上がる。どこか楽しげに見えるその表情は、強い相手に出会えた喜びとかそういう雰囲気を醸し出している。あれ、お前そんなキャラだっけ? 違うよな、そんな設定もともとないし。……これって個々の自我云々って話? お兄ちゃんとしては、もうちょっとお淑やかなトコ増やして欲しいんだけどなぁ。


「このバフォメットはなぁ……簡単に言うと、俺が世界を生成する前にテスト的に生成したモンスターなんだ。その立ち位置は他者を確実に追い返すだけの強さが必要で、ステータスの幾つかは能力上昇したミズキよりも上だな」

「もしかして……と思ったけど、やっぱりか」


 実の所このバフォメットは、βテスト時には森林の奥深くを徘徊するモンスターで、そこで出会ったら確実にプレイヤー達を討伐→死に戻りさせる役割を持っていた。というのも、βテスト時には街へ帰還する魔法もアイテムもなく、唯一の帰還手段は死に戻りだったため、ならばと特別なボスによる死に戻りを用意したという副産物的な意味もあった。

 ちなみに製品版では、その森からバフォメットは消えてしまい、別の場所にある古い教会の地下神殿に実装される予定だったが、その姿を確認するまえにサービス終了してしまった。


「よし。あんまりバフォメットの話ばかりしてても進まないだろ。他にはなんかないか?」


 とりあえずこの話はこのくらいでと思い終わらせる。まあ、帰り際に森によってみればいいだろう。

 この後も、新たな領地とその街についての案や希望がいくつか出た。幸いにもこの話し合いは現実(リアル)で行ったから、会話内容はすべて録音しておいた。後々重要ヶ所は文字起こししておくか。

 こんな感じで充実しながらもここら安らぐ時間を過ごし、途中昼食をはさみながら午後も同様に過ごしている間に、時計はじき午後4時という時間に。

 もう随分と手慣れた感じになってしまったが、俺達は異世界(むこう)へ戻った。






 戻った場所は、上品な調度品の並ぶ部屋。たしかアルンセム公爵家の応接間だったか。ここで皆にようやく真実を伝えることができたんだ。無論全ては多過ぎるから、ごく一部しか話せてない。でもそれは今迄のように話さないのではなく、まだ話してないだけ。これからの時間をつかってじっくり話していく。

 では今からはどうしようか、そう思っているとドアをノックする音が聞こえた。


「失礼致します」


 そう言って開けたドアから中を覗くのはメイドさん。この公爵家に使える他のメイドさんだろうか。エレリナさんは基本ミレーヌ専属だから、公爵や公爵夫人の専属メイドや執事がいても不思議はないか。


「エレリナ、よろしいですか?」

「はい」


 呼ばれたエレリナさんは何やら話をして、こちらを向いた。


「すみません。これから夕食の作業の手伝いに行きたいと思うのですが」

「ああ、そうか。俺達がいる分量が増える……ってことかな?」

「というよりも、旦那様がおめでたいので食事を豪勢にしたい、とおっしゃってました」

「なるほど。納得ですわね」


 呼びに来たメイドさんの言葉に、フローリアが軽く半目でこちらを見ながら納得する。ミズキも似たような感じだが、ミレーヌは少し顔を赤らめて嬉しそうにこっちを見る。……心なしかエレリナさんの視線が優しい気がする。


「ではミレーヌ様、暫し側を離れます」

「はい。私は大丈夫ですので、行って来て下さい」


 笑顔で手を振るミレーヌに、頭を下げて部屋を出て行くエレリナさん。ミレーヌといい、ゆきといい、エレリナさんは生粋の妹大好きお姉ちゃんだな。

 一人退室してしまったが、この後も俺達の駄弁りは続き、夕食だとエレリナさんが呼びにくるまで賑やかに時間を過ごした。




 そして翌日。俺達はミスフェア公国の正門外にいる。

 といっても帰るわけではない。バフォメットに会いにいくのだ。

 本来であれば帰り際に……と思っていたのだが、ミレーヌがバフォメットに会いたいと言い出した。どうしようかと困りエレリナさんを見るも、どうやらエレリナさんも興味があるようで。

 ならばいっそ明日会いにいこう、という話を昨晩したのだった。


 門を出てしばらく歩き、一応人目につかないところまで来て召喚獣を呼ぶ。ミレーヌのホルケはまだシルバー・ウルフっぽいので良いが、エレリナさんのダイアナや俺の呼ぶスレイプニルは特殊すぎるからな。

 それぞれミレーヌとエレリナは、自分の召喚獣に乗る。スレイプニルは俺とミズキとフローリアの三人。ミスフェア訪問時と同じだ。


「そういえばカズキ。このスレイプニルさんというのは名前ですか?」

「違いますよ。これはエレリナさんの召喚獣でいう所の『ペガサス』に該当する種族名です」

「名前はお付けにならないのですか?」

「ええっとですね、このスレイプニルは正確には同じアカウントのキャラ……つまりGM.カズキが所有しているもので、俺ではつけたりできないんです」

「……難しい制限があるのですね」


 イマイチ上手く説明できなかったが、納得はしてもらえたようだ。多分その辺りも世界生成の権利とかに関わっているんだろう、みたいな解釈をしてくれたんだと思う。まあ、実際にゲームやってるような人じゃないとサブキャラへのアイテムレンタルとか、意味わかんないだろうし。


「では行きます。皆、いいか?」

「うん」

「はい」

「はい」

「お願いします」


 俺の事に皆返事を返す。それを合図に、3つの召喚獣は大空高く舞い上がった。

 以前ミスフェア訪問の際は、魔力消費効率などを調べながら少々高度も速度も抑えた移動だった。だが、これまでの事で、さらに何倍かの速度でも十分問題ないと判明した。

 なので本来ならバフォメットの守護範囲であろう森林へは、以前の速度なら数時間の移動が必要だが、今回は都合一時間くらいで到着予定だ。

 晴れ渡り澄み切った大空を、俺達は優雅に駆け進んでいった。




 そろそろ一時間ほど経過し、目指す森林地域に差し掛かったかという時。


「!? 何かいる」


 森林の中に一際大きなモンスターの反応がある。マップにもマーカー表示がされているが、そのサイズがかなり大きい。このサイズは通常レイドボスクラスじゃないとならない大きさだ。


「まさかこれは……バフォメットか?」

「え? バフォメットさん、この辺りにいるのですか?」

「ああ、おそらく。だがちょっとまってくれ、これは……」


 マップに表示されているマーカーが、赤く明滅している。間違いない。


「どうやらバフォメットが怒っているようだ。しかもかなり激昂している感じだ」

「え!?」


 俺の報告にフローリアだけじゃなく、その場にいるすべての者が驚いている。以前デーモンロードのはぐれ眷属である、デーモンイリュージョンと戦っている時ですら、微塵の怒りもなく平静だったのに今回はどうしたのだろう。


「とりあえず俺は降りて話を聞いてみる。ミズキとフローリアは……」

「私も行く!」

「私もです。バフォメットさんからお話をお聞きします」

「……わかった。でも、気を付けてくれ。何が起きたのかわからないから」


 二人に念を押して降りて行く。バフォメットは何かを探すようにしきりに周囲を警戒しながら、時折木々を薙ぎ払って息を荒くしていた。


「バフォメット! 俺だわかるか!」

「ナンダ貴様ラ……、俺ノ邪魔ヲスルノナラバ……」


 可視可能なほどに熱せられた熱い鼻息を噴出しながら、バフォメットは俺達を睨む。その迫力は今迄会ったモンスターの中でもピカイチだ。


「バフォメットさん、私です! 以前、グランティルの北の森でお会いした者です!」


 今度はフローリアが叫ぶ。その声をうけてじっくりと彼女を見るバフォメット。そして、


「……フム。思イ出シタ、アノ時ノ者カ」

「そうです! それで、いったいどうなされたのですか!?」


 フローリアとの会話で、つい先ほどまで暴風のように暴れていたバフォメットの動きが落ち着く。まだ吐き出す息は荒いが、問答無用で跳ね付ける暴力さは収まっていた。

 じっとフローリアを見るバフォメットの視線に耐え、フローリアも視線を返す。しばしそうしていた後、バフォメットがゆっくりと口を開いた。


「……ワガ子ガ、何者カニ(サラ)ワレタ……!」


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