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85.それは、甘くて優しいスイーツと

追記:11/5(月)及び11/6(火)の更新ですが、急用のためお休みさせて頂きます。申し訳ありません。次回更新は11/7(水)を予定しております。

「既にかなり見慣れた部屋ですが、ここがカズキの世界だと改めて認識すると……」

「……ですね。何か今までとはまた違った空気に感じるというのでしょうか」


 フローリアとエレリナが呟いたのは、現実(リアル)世界の俺の部屋だ。他にもミズキとミレーヌも一緒に来た。仕方の無いことだが、ゆきはいない。

 彩和とミスフェアでは、おおよそ10時間ほどの時差がある。こちらに来る前の時刻が、だいたい午後4時あたりだったので、彩和は深夜2時頃といったところか。さすがにそんな時間での訪問は非常識だから、今回は仕方なしということになった。

 ちなみに現実(こちら)の現在時刻は、午後7時を少し回っていた。外出に関しては控えたほうが良さそうだ。


 リビングへ移動して、改めて話をすることになった。

 一番重要かと思われる部分は、先に異世界(むこう)で話してしまったので、今回はこちら側についての雑談を気楽にする予定だ。あんまり真面目なことを議論するのも、息が詰まるからな。


「さて、それじゃあ何を話そうか。聞きたいことがあればそれに答えるけど」

「……ではカズキ。簡単でよいのですが、こちらの世界について簡単に説明……というのは?」

「わかった。まあ、それもそうだよな」


 フローリアの言葉に苦笑して頷く。何度か来ているとはいえ、今だ理解できない未知で溢れているのは間違いないのだから。


「まず、こちらの世界が向こうと大きく違うところを上げていく。まずこちらの世界は魔法がない。その替わりに高度に発達した科学や、それを応用した技術がある。こちらの人間はそれを使って生活しているんだ。例えばこの……」


 天井にある室内照明を指差す。全員がその照明を『室内を明るく照らす道具』とは認識しているが、当然原理はわかっていない。


「この室内照明だが、これは電気というもので動作している。そこにある冷蔵庫も、同様に電気で中を冷やす仕組みがついている。他にもあそこのキッチンのコンロの火は、ガスという燃料を燃やしている」


 以前こちらに来た際、行きがかり上それらを見せることはあったが、何がどうなっているという詳細は伏せておいた。今回はまあせっかくなので、ある程度は話すことにしたのだ。


「まあ、そんな感じなのも魔法が無いという事から、それに頼らない生活文化の向上を目指す必要があったからなんだ。こっちも機械が壊れたり、動かすエネルギーが無かったりすると、動いてくれないから単純にどっちがいいとは言えないしな」

「そうですか。こっちの世界には魔法が無いのですね。ということは……」


 フローリアが掌を目の前で広げ、そこに視線を集中させる。おそらくは何かしらの魔法を発動させようとしたのだろうが、案の定何も怒らない。


「やはり何も起きませんね。何かしらの魔力反応も感じませんでした」

「おそらくですが、こちらの世界に魔法を使うための元になるものが存在しない、もしくは希薄なのではないのでしょうか」

「まあ、そんな事は無いほうがいいけど、魔法を使ってなにかしようと思わないことだ」


 エレリナさんの指摘通り魔法使用のための、いわゆるマナとか魔素とかいうのが無いって感じなのだろう。もしこちらでもそんな物質があるのなら、魔法はもっと一般的に広まったのかもしれないけど。


「……という感じで、魔法というものもこの世界には存在しない。もしかしたら、どこかにあるかもしれないが一般的には魔法は空想上のものとなっている。そして、この世界と向こうで大きく違うのは、モンスターとか魔族とか、そういった類の存在がいない事だ。こちらも魔法同様に空想の存在という認識をされている」

「モンスターがいないのであれば、冒険者という職業も……」

「基本的にはないですね。こちらの世界での冒険者と呼ばれる者は、未知の場所を探索することを生業(なりわい)とするもので、ギルドに所属してモンスターを討伐するような仕事ではありません」


 魔法やモンスターの有無の違いを認識し、改めて別の世界だなという印象を持ったらしい。

 この後も生活習慣からはじまって、少しずつ二つの世界の違いを話していった。

 話の間は驚いたり感心したりと、皆色々な反応を見せていたが、ふとフローリアが思い出したように切り出した。


「そうですカズキ! ケーキです、ケーキ!!」


 突然声をあげるフローリアを見て、俺は「ああ、そういえば幾つも食べてたもんなぁ」と思い、他の皆は「どうしたんだろう」という表情を浮かべる。


「以前連れて行っていただいた所のケーキ、あれが非常に美味しかったです。よろしければ、またあれを食べたいのですが」

「デパートのケーキのことかな。今日はもう閉店だろうから、無理かな」

「そうですか、残念です」

「あの、フローリア姉さま。デパートのケーキ、というのは……?」

「こちらの世界のケーキですよ。とても綺麗で、それでいて美味しくて上品で。きっと皆さんも気に入ると思っていましたのに、残念です」

「お兄ちゃん、他に何かそういう美味しいものって無いの?」

「え、えっとだな……」


 もう夜になってしまい、当然デパートへ行くのは無理だ。それに何かを買いにいくとしたら、おそらくは全員着いてきたがる。そうなるとあまり遠くへは行けない。とすると……


「今からだとコンビニくらいしか、いけそうなとこは無いな」

「コンビニ?」

「比較的色んな場所にある小さいお店だ。24時間……一日中、深夜でも早朝でもやっていて、いろんな物があるから俺もよく行く店だ」

「行くっ!」

「行きます!」

「行きたいです!」

「お供します」


 満場一致で、全員が行くことが決定されました。俺自身が行くことを決めたのが最後だ、というのが多少腑に落ちない気もするけど。

 そんなワケで、少しばかり近所のコンビニへ出かけることになった。

 幸いにも皆の服装は、こちらの世界でもさほど違和感のある格好ではなかった。エレリナさんだけは、メイド服という状態ではあるが、まあ別にいいかという感じだ。

 ならばという事で、仕度をして出かけることにする。ちなみに靴は、ミスフェアの公爵家では履いたままなので、俺の部屋に来たときに一度脱いでもらっている。……こういう機会が増えるのを見越して、スリッパとかそういったものを買っておく必要ありそうだな。




 道路に出ると、すっかり暗くなっているが真っ暗というわけではない。当たり前だが夜になれば夜間照明がつくし、道の両脇にある家々の明かりも点いている。

 そこを俺が先頭で歩いていく。普段なら俺は最後尾で皆を見ながら進むのだが、さすがにこの世界で行き先を知っているのは俺だけだからな。

 そう思った時、ふとある疑問がわいた。魔法は使えない、というのはわかったけど、もしかして。


「ミズキ、ちょっといいか?」

「ん? 何?」

「ちょっとこの先のそうだな……あの、明るくなっている柱のところまで全力で走ってみてくれるか?」

「うん、いいよ」


 そう言って、前をみたミズキ。そして……消えた。前方に目を向けると、外灯の下にミズキがいた。こちらを向いて「おーい!」と手を振っている。


「やっぱりそうか」

「カズキ、どうしましたか?」

「うん、ちょっと確認をね。どうやら魔法は使えないけど、身体能力自体はそのまま持ち越してるみたいなんだ」

「そうなんですか? ということは……」


 俺の言葉にミレーヌが視線をエレリナさんに向ける。なるほど、エレリナさんの身体能力もかなりのものだったな。ここにはいないけど、ゆきも該当するな。

 俺達は前方で待っているミズキのところまでいって、今気付いたその事を話す。この世界での俺は二人のような身体能力がないので、もしもの場合は二人に頼みたいという旨も伝えた。少しばかり驚かれたが、二人とも快諾してくれたのでよかった。


 そのまま少し歩いて、目的のコンビニに到着だ。

 ぞろぞろと店に入っていき、少しだけ店員の視線がエレリナさんに向けられる。しかしその凛とした佇まいと、フローリアとミレーヌから醸し出されるお嬢様然とした雰囲気で、何か納得してくれたようで逆に憧れるような視線を向けている。あ、店員は女性だよ。深夜だとほぼ100%男性だっただろうけど。


 店内を進んでスイーツコーナーへ。そこへの途中、ミズキは無論エレリナさんを含む全員が、置いてあるものに興味津々な視線を送っていた。本、化粧品、サプリ、ドリンク、お弁当にお惣菜、その他色々な容器に入った物等々……ごく一般的な小さいコンビニだが、彼女達には知らないもので溢れていた。

 へーとかはーとかいう声を漏らしながら、俺に着いてスイーツコーナーへ。


「ケーキです。ケーキが色々あります」

「お、何かスイーツフェアやってるな。期間限定で有名店監修のケーキとかもあるな」

「えっと、それはどういう事?」

「ああ、有名なケーキ屋さんが特別に作り方や味を教えて、その店に行かなくても同じような味が食べれるようにって売り出した限定ケーキが今ならあるってことだよ」

「いいですね、それ食べたいです」

「よろしければ私も頂きたいです」

「そうですね。折角ですからカップケーキとか、他のケーキ以外のスイーツもいくつか購入しましょう」

「ありがとう、カズキ!」

「うんうん、お兄ちゃん大好き!」


 その時だった。

 突然ミズキが「っ!?」と声にならない声をあげた。一瞬なんだ、と思ったがミズキを見た瞬間納得した。ミズキの腰に、愛剣『お兄ちゃん大好き』がぶらさがっていたのだ。

 常に帯刀しているので、こちらに来たときにも持って=着いてきてしまったのだが、さすがに外出時には部屋において来た。

 だが、今さっきミズキは剣の名前を呼んだ。正確には俺への感謝と好意の言葉が、剣の名前と同じだった、という事なのだが。


「お兄ちゃん、これ……」

「わかってる。まあ、少し大きな剣型のポーチでもぶら下げてるように見えなくもない。変にさわがないようにな」

「……はい」


 とりあえずケーキやいくつかのスーツとお菓子、それとペットボトルの飲み物をいくつか購入して帰宅。その後、ケーキを食べながら、先ほどの剣召喚についての話をすると、皆ひとしきり笑ったあとどこか優しい目をミズキに向けるのであった。


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