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84.そして、語られる想いの真実

 異世界(こちら)に来て親しい人達が増え、その(えにし)がかけがえのない物へと昇華していくことに気が付いた頃から思っていた。

 いつか俺の知っている真実を話さないといけないと。

 本当はもう話すべき段階には入っていたのだろうけど、それでもやはり心のどこかで恐れがあった。

 切っ掛けはやはり、ミズキとの約束とフローリアの言葉。それへと繋がるミレーヌとのキスもそうだと言えるし、エレリナさんとゆきとの出会いも大きなものだった。


 だから決意した。

 領主となり、そこを足掛かりに建国をして王となると。

 そのためには絶対に信頼すべき人が傍に居て欲しいと思った。それが、この人達だ。だから全て話そうと思う。俺が知る限りの、全てを。


 心を落ち着かせて皆を見る。俺が何を言うのかを皆静かに待つ。そんな中、ふと何かに気付いたようにエレリナさんが口を開いた。


「あの、カズキ様。これから話す事は、ゆきには……」


 妹想いのエレリナさんらしい発言だ。当然ゆきも大事な信頼する仲間である。ならば重要な話であればあるほど、聞く必要があるのではないかと思ったのだろう。


「……それも含めて、これからお話します」


 そう言うとエレリナさんは、軽く会釈をして皆より後ろに下がった。もう一度俺は皆を見渡す。

 そうだな、せっかくゆきの話題が出たんだから、そこから話していくか。


「まずこれから話す事だが、ゆきは大体の事は知っている」

「えっ!?」


 この部屋にいる俺以外の全員が、驚きと困惑の声をあげた。これから聞かされるであろう、非常に重要な内容をなぜかここに居ないゆきが既に把握していることに、多少なりとも複雑な心境らしい。


「知っている、というよりも“以前から知っていた”というのが正解かもしれない」

「………はっ!? もしてかして……」


 俺の言葉を聞いて、フローリアが何かに行きついたような表情を見せる。今の言葉で気付いたのであれば、多分正解だろう。


「もしかして……ゆきは『転生者』なのですか?」

「そう。ゆきは『転生者』だ」

「そうでしたか。なるほど、それなら色々と納得します」

「えっと、どういう事?」


 一人理解できたフローリアと違い、ミズキたちは余計に困惑。エレリナさんも転生者という言葉は聞いたことなく、自分の妹がそうだと聞かされても意味が分からないのだろう。


「順番に説明するよ。まず皆は、俺がここではない別の場所──異世界へ移動する能力があることを知ってるね?」


 全員がこちらを見て頷く。ログアウトの説明は異世界移動ではないが、そういう知識のない人には魔法の類みたいな現象として説明したほうがいいだろう。


「あの世界は、こことは全く別の法則で成り立っていて、人々は『魔法』ではなく『科学』の力で生活をしているんだ」

「かがく?」

「ああ。魔法とはまったく別の事象で、エネルギーを生み出したり、そのエネルギーを使って色々な事を行ったり……。以前向こうへ行った時、色々と見ただろう? ジュースが入った冷蔵庫とか。あれもそのうちの一つだ」

「レイゾウコというと、中の空気が冷たくなるあの魔法の保存箱ですか?」

「そう。他にもそういったものが沢山ある、それが向こうの世界だ。そして──」


 フローリア、ミレーヌ、エレリナさん、そしてミズキを見る。




「俺は、向こうの世界の人間だ」




 俺の言葉に、皆は声も出さずに驚く。ここまでの話の流れから、薄々そう思っていたところへ真実が告げられた事への衝撃だろう。皆一様に驚いて意いるが、中でも困惑度合いが高いのがミズキだ。自分の兄が別の世界の人間だ、と言ったのだから無理もない。だから俺は言葉を続けた。


「ミズキ、誤解しないで欲しい。俺は正真正銘、お前の兄だ」

「で、でもお兄ちゃん……違う世界の人だって……」

「ああ、それはだな……」


 どう説明したらいいのか、少し迷う。オンラインゲームの説明なんて、こっちの世界の人に出来るのか? そんな考えをめぐらせていた時だった。


「カズキは……」


 フローリアが口を開く。


「カズキは……GM(ジーエム)は、この世界の創造主……だからですね」

「ジーエム?」

「創造主?」


 ミレーヌとエレリナさんが、フローリアの発言から耳慣れない言葉を拾って聞き返す。


「GMというのは、俺のもう一つの姿だ。この世界を管理する権限を持ち、物事の根源を覆したり変化させるほどの力を持つ存在だ」

「私達聖女の資格を受け継ぐもの達は、GM様の(ことわり)を伝え聞いております。力を振るうそのお姿は“神の御使(みつか)い”であると。もっとも、私は以前カズキ本人に、自分は“神”そのものだとお伺いしておりましたが」


 フローリアに初めて会った頃の事だな。そういえばフローリアにはGMの方を先に見せたんだっけ。


「……つまりこの世界というのは、カズキ様がお造りになったという事でしょうか?」

「全てではないけど、おおよそ俺の周りはそうだな。グランティル王国は全て俺が造ったけど、ミスフェア公国は半々かな。彩和に関しては“和風の国”という大枠しか用意しなかった。おそらく足りない部分は、この世界に沿う形で作り上げられたんだと思う」

「……お兄ちゃん、ミズキは?


 不安そうな顔を向けるミズキ。その顔を払拭したいから、この話をはじめたんだ。だから──


「ミズキは俺が一番大切にしている存在だ。俺の妹はどんな子にしたいか、どんな容姿、どんな性格。勉強は得意か? 運動は? そんな色々なことを詰め込んだ、俺の大切な妹──家族だ」

「そっか……うん、ありがとう」

「……こんな突拍子も無い話、ミズキは信じてくれるのか?」

「信じるよ、あたりまじゃない。お兄ちゃん約束してくれたから。ちゃんと全部話すって」

「ミズキ……ありがとう、ごめんな」

「ううん、いいよ……」


 ミズキの元へいって、優しく抱きしめる。少し驚かれたが、すぐにしっかり抱き返してくれた。

 この話をしてどうなってしまうのか怖かったのは、もしかして俺の方だったのかもしれない……そんな事を考えてしまった。




 しばらく抱きしめあっていたが、フローリアのわざとらしい咳払いで我に返り、ガラにも無く赤面してしまった。

 とはいえ、一番の心配事の部分が終わったせいだろうか。今ならもう何でも言って、何でも答えてやるぞって気分になっていた。


「さあ、それじゃあ続きを話すか」

「カズキさん、何かさっきより元気になってませんか?」

「そりゃ本当の事話して、もしミズキに嫌われたらって心配事が無くなったからな」

「もうっ、私がお兄ちゃんを嫌いになるわけないよ」

「そ、そうか? ありがとうな」

「うん! ……エヘヘ~」

「そこ! イチャイチャしない! ずるいから!」


 フローリアに怒られた。でも、まあいいかって気分になるぜ。


「あの、カズキ様」

「エレリナさん、どうしましたか?」

「ゆきは……ゆきは転生者、なんですよね」

「……そうですね。ではその話をしましょうか」


 浮かれた気持ちを少しだけ落ち着かせる。エレリナさんは、大切な妹の事を知りたいのだ。


「転生者というのは、『転生』という言葉の通り別の魂が生まれ変わってくることです。ゆきの場合は、別の世界の人間だったのが、この世界の人間へと生まれ変わりました」

「別の世界というのは、やはり……」

「はい。皆が行ったことのある、俺が居た世界です」

「そうでしたか。ゆきも別の世界の……」

「あ、違いますよ。ゆきは正真正銘、エレリナさん──狩野ゆらさんの実の妹です。向こうの世界のゆきは、事故で命を落としています」

「っ! そう、ですか」


 エレリナさんは、別の世界とはいえ妹が死んだという話に少しだけ困惑する。もっとも、直ぐに正しく認識して、気持ちを取り直したけど。


「向こうで命を落としたゆきは、何があったのかわかりませんがこの世界へ転生──生まれ変わりました。時間の流れとかそういった事は俺にもわかりませんが、ゆきは正真正銘狩野に生まれた娘です」

「……わかりました。それだけ聞ければもう十分です」


 そう言って頭をさげるエレリナさん。急な話で色々と心配になったのだろう。妹との縁が壊れる恐怖ってのは俺もわかってるし。


「カズキさんは……神さま、みたいなものなんですよね?」

「まあ、この世界においてはそう言えなくもないかな」

「なら国を作ったり、国王になったりは、簡単にできるのではないのですか?」


 どうなんでしょう、とミレーヌが聞いてくる。もっともな疑問だとは思う。漠然と皆の中でも神様ってのは絶対的な感じなのだろう。


「そうだね。出来る出来ないで答えるなら、出来ると思う。でも、この世界を今一生懸命生きてるのは、俺だけじゃない。この世界にいる人たち全員だよね。そんな世界に俺が思いつきで、大きすぎる力を振るうのはダメな気がするんだ。それはもう国とか世界を造るってことじゃない、ただの──独裁だ」

「独裁、ですか」


 フローリアが寂しげに呟く。王族というものは、多かれ少なかれどこか独裁性を持っている者が多いとも聞く。グランティル王国の国王は、紙面設定上ではそんな事はなさそうだが、どうしてもそういう単語を気にしてしまうのだろう。


「新たに作る領地は、きちんと手順を踏んで進めていこうと思う。この世界の人たちと共に。もしかしたら、領地の中に設ける設備とかに、王都の広場みたいに手を加えることもあるかもしれない。でも、まずこの世界の人たちとしっかり築き上げてからだよ」

「そうですね、わかりました。すみません、変なことを聞いてしまって」

「いや、かまわないよ。もっともな疑問だとも思うしね」


 それに俺は、この世界がやっぱり普通に好きなんだと思う。

 派手に手を加えたりすることはできるだけせず、地道な努力での変化を望んでいるんだろう。


「ねえお兄ちゃん」

「ん? どうした」

「ちょっと、わがまま……いい?」

「ああ、いいぞ」


 ミズキの申し出を軽く了承した横で、他の三人がなにやら話してるのが聞こえる。


「カズキがいつもよりミズキに優しい気がする」

「私もそう思います」

「同感ですね」


 ……そうかな、そうだろうな、しかたないじゃん。まあ、今日はね。


「あのねお兄ちゃん。もしよかったら……今から向こう(・・・)で色んな物を見せてもらって、もっとお話聞かせてもらってもいいですか?」

「!!」


 その言葉に他の三人が激しく反応した。

 そうだな、この際もう一度今度は向こうで話すのもいいかもしれない。


「よし、いいぞ。それじゃあ今から、向こうの世界へ行ってみようか」


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