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82.そして、見据えた行く先は

 現在、俺は窮地に追いやられている。

 このLoUに似た世界へ自由に出入りできるようになってから、地味に幾つかのピンチを迎えたこともあった。だが、今その中でも屈指のピンチ状態だといえる。

 切欠は……そう、あのミレーヌからの二度目のキスだ。


 一度目は、初めて会った直後に衝撃的に。


 二度目は、想いを吐露したその感情のままに。


 両親も認める中での大胆な行為に、俺もミズキやフローリアも思考が停止してしまったほどに。

 その後ひと悶着凝りそうな雰囲気の中、公爵夫妻が気を遣って


「せっかくだから、とことんまで話合いなさい」


 と話し合いの場を設けてくれた。そして現在に至るのだ。

 俺の左右は逃げれないようにと、ミズキとミレーヌに掴まれている。正面にはフローリア、そして何故か部屋の出口そばにはエレリナさんが。そんな状況にてフローリアが口を開く。




「緊急ではありますが、これより『カズキ嫁会議』を開きます」




 …………は?

 今、何て言った?

 いや別に難聴主人公ぶってるんじゃないよ。なんだったらフローリアの発言は、会話ウィンドウに残ってるし。

 一瞬の虚をつかれ茫然としている俺に対し、他の皆は何の疑問ももたないように自然体。これで声を出すのは少し勇気がいったが、いかんせん俺の名前が入ってるときたもんだ。なんだそれは。


「あの、よろしいでしょうか?」

「……議題の前の発言は原則禁止なのですが、今回は特別です。被告カズキ、発言を許可します」

「ありがと……って被告!? 俺、被告なの!?」

「被告カズキ、余計な発言をするなら許可を取り下げますよ」

「うっ……」


 なんだこれ、訳がわかんないし凄く怖い。でも余計なこと言って、皆の機嫌を損ねるのは最悪手だ。ここは慎重に事を運ぼう、


「質問があります」

「何でしょうか」

「先程の『カズキ嫁会議』とは何でしょうか?」

「…………では会議を始めます」


 ええー……スルーされたよ。


「まず現状についての、カズキ自身の認識を確認したいと思います。……カズキ」

「あ、はい。何でしょうか?」


 思わず言葉づかいにも変化が出てしまう。これ、会議というより俺裁判だよね?


「先程のミレーヌに対しての行為。それに関してどういった考えをお持ちでしょうか?」

「え? 先ほどのって、そのミレーヌとの……ですか?」

「はい、そうです」


 何だろう、傍目にも褒められているのではないと理解。まだ年端もいかない11歳のミレーヌに、前回と今回あわせて2度もキスをした事に怒っているのだろうか。そのどちらも、正確にはキスされた(・・・)のだが、そんな事を言っても通用しそうにないのは肌で感じる。


「その、ミレーヌとキスをしたのはその……」


 どう言えばいいのだろう。フローリアだけじゃなく、ミズキやエレリナさんからもじーっと見つめられており、無言の問い詰める空気が刃の様に突き刺さってくる。ミレーヌの視線だけは、なにかを期待したようにキラキラしてますが。


「ふぅ……どうやらカズキは、自分のしたことに対しての自覚と責任が足りないようですね」


 言葉につまる俺を見て、フローリアが大げさに溜息をつく。いや、確かに色々問題になりそうな部分もあるけど、それを全部俺がってのも、うーん。


「理解できてないようなので、ここではっきりと明言しておきます。……カズキ」

「はい」


 いまだ把握できてない俺を見て、フローリアははっきりと言い放つ。




「何故ミレーヌにばかりキスして、他の嫁候補にはしないのですかッ!?」




 ええー!? なんだそれぇえええ!?

 要するに、ミレーヌとキスをした事が問題ではなく、ミレーヌとしか(・・)キスしてない事に問題があると追及されてるってこと?

 じゃあ他の皆にも同じようにキスをすれば……って、いやいや、そうじゃないだろ。

 唖然としてる俺に対する、フローリアの発言は止まらない。


「ミレーヌよりも後に出会ったゆきさんは、今回の議題においては致し方ない部分もあります。ですが、何故ミレーヌよりも先に出会った私やミズキに、カズキは一度もキスをしてくれないのですか! 全員同じ嫁候補でなないのですか!?」

「あ、いや、それは……って、ミズキ?」

「何ですか? ミズキが含まれているとおかしいですか?」

「いやおかしいだろ? だってミズキは妹で……」


 そう反論した瞬間、フローリアは「ああ!」と声をあげ、なにか合点がいったような表情を浮かべる。そして他の皆もなにやら納得顔をする。


「そういえばカズキには、まだ将来の展望をお話していませんでしたね」


 将来の展望? なにか内密に計画でもしてのか?

 フローリアはミズキ、ミレーヌ、そしてエレリナさんを順に見る。全以外が頷いて返事を返す。


「カズキ。あなたは将来、新領地の領主となっていただきます。この件はまだ企画進行中ではありますが、既に決定事項です」

「はい」


 まあ、それに関しては俺も十分に覚悟を決めた。だから迷う所は何もない。


「話の本番はここからです。領地はある程度拡大整備し、宿泊や飲食といった旅人向け施設のみでなく、居住を考えた施設……住居区画や商業、教育施設などを充実させてもらいます」

「え……まさか、それって……」




「そうです。新領地は将来的には、新国家として新たに設立する基盤となります!」




 ……今この子、新しい国を造るって言った?

 国って、国だよな? ……国?


「えっと、その国の代表というか国王は……」

「何を言ってるんですか? カズキにきまってるじゃないですか」


 やっぱりかああ! 話の流れ的にはそうかもと思ったけど、やっぱりか!


「いやいや! 国とか無理だって! 俺そんな知識も才能もないから!」

「大丈夫です。領地をまとめる際に、優秀な人材を手配します。カズキはその優秀な人材を、最終的に統率して下さればよいのです」

「まあ、そういう方針ならば……って、いやそれでも!」


 一国の主になるって、まったく想像つかないけどどうなんだ? さすがに国として存在するモノに対し、チートでほいほい手を加えるのは国の崩壊につながるだろ。それはこの場合、イコール人的被害甚大ってことだよな?

 上手く言葉にできない俺を見て、フローリアはしかたないなぁという表情で最後の切り札を出す。


「カズキ、貴女はミズキの事は大切ですか?」

「ミズキの事? 大切に決まっている」

「お兄ちゃん……」


 当たり前の質問に即答する。そんな俺の言葉にミズキが笑顔を浮かべた。


「ミズキの事は大好きですか?」

「ああ、大好きだぞ」


 これも本当だ。なんせこの世界で一番しってる人物だと言っても過言じゃないしな。兄でもあり親でもあるんだから。

 そんな俺の返答に、フローリアは至極満足という笑みを浮かべる。そんな笑顔から飛び出した言葉、それは。




「ならばカズキ、新たな国の新たな王になりなさい。そして新たな法律を作りなさい。兄妹姉妹と──ミズキと結婚できる新たな法律を」



 ここにきて、ようやく色々と腑に落ちた。

 フローリアが時々見せる思案顔や、何かを考えている様子の意味。新領地の話が出た時点で、既に彼女の中ではここまでの計画が組み立てられていたのだろう。


 こういう時、なんて言うんだっけ? ええっと……これかな。




 ──フローリア……おそろしい子ッ!





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