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80.そして、貿易公国への帰還

 冒険者組合にて依頼完了の報告をしたのだが、その際にひと悶着あった。というか、正確にはひと悶着ありそうになったが、ゆらさんとゆきからの口添えで組合長──王都でいうギルドマスターに話を通してもらった。

 その内容は無論、ドラゴンの存在についてだ。ごく普通のワイバーン討伐と思われた依頼が、数十のワイバーン+ドラゴン討伐だったという事実。さすがに組合長には、話しておかないといけないだろうということになったのだ。

 報告において、既に倒したことを報告してワイバーンの魔石を証拠として見せた。ドラゴンに関しても必要なら死体を収納してあるので、広い場所で出してもよいと言ったが、ゆらさん達の言葉だということで見せずに信用してもらえた。

 あと報酬についてだが、元々の依頼達成報酬以外に組合長から別途上乗せしてもいいと言われたが、そこに関しては困ってないので丁寧に辞退した。

 ちなみに、元々の本題であったはずのミズキのランクアップだが。ここに来てようやく実施された。はれてミズキもBランクに昇格である。依頼内容本来の評価であればもっと上だとも思えるが、一度に2ランクまでの上昇が規則だし、今回ドラゴンの事は伏せることにしたのでこれがベストだ。


 ともあれ、無事報告も終わり組合の建物を出た。

 次は何をという気持ちもあったが、今回の俺たちの旅行の一番の目的はミスフェアだ。そこから何故か彩和へ来る事にあり、そこで依頼までこなしてしまった。

 なのでここらで一度、ミスフェアへ戻ったほうがいいかなと思う。それを話そうかと思った時、向こうから十兵衛さんがやってくるのが見えた。

 俺に気を遣ってくれたのか、今回は狩野一家が出会う=一合交える、という行動はとらなかった。毎回俺が呆れたように見ていたせいかな。


「それで十兵衛さん、何か用でしょうか?」

「おお、そうであった。実は先の正宗返却時での申し出の件に関しての返答だ」


 その言葉を聞いて思い出す。そういえば君主である松平広忠(まつだいらひろただ)に、可能であれば会いたいと言っておいたんだった。それ以外にも色々あって忘れてたよ。


「松平様は是非とも会いたいと仰っておられた。ただ、今は少し忙しく政治的な観点から、もう少ししてからでないと時間を取れそうにないとの事。申し訳ないがしばし先にしてもよいか?」

「ええ、構いません」

「かたじけない。ではそれについての連絡手段は……」

「まあ、これからは転移魔法で時々来るから、そっちが時間が取れそうになってきたら決めるってことでどうですか?」

「了解した」


 それだけ言って頭をさげると、すぐに立ち去ってしまった。本当に忙しい人だな。

 こうして、ひとまずミスフェアへ戻ろうという事になったが、ここに来て俺達はあることに気付いた。


「じゃあ、とりあえずはお別れだね」

「ゆき……」


 そう、ゆきである。元々彼女はゆらさん──今はまた着替えてエレリナさんだが、その妹ということで気さくに接することができる案内係であった。

 だが実際は転生者であり、いつしか大切な仲間の一人になっていた。だが、これでいきなりミスフェアにまで連れて行ってしまうのは、些かやりすぎな気もする。なので今日はこれで一旦お別れということとなった。

 俺の【ワープポータル】が設置してある大衆食堂の裏庭に行く。ここへ来るまでに、皆はゆきと楽しそうに、でも少し寂しそうに談笑していた。

 皆の気持ちが落ち着いたのを見計らって【ワープポータル】を開く、行き先はもちろんミスフェアのアルンセム公爵家だ。ミズキ、ミレーヌ、フローリアの順に、挨拶をした後ポータルへ入っていく。


「ゆき、元気でね。無茶しちゃダメよ」

「わかってる。お姉ちゃんもね」


 そして静かに優しく抱きしめあった。ほんのわずかな時間だが、それでも十分だと笑顔で離れる。そしてそのまま振り返らずエレリナさんは転移した。


「じゃあゆき。俺も行くから」

「うん。……すぐに……」

「ん?」

「また、すぐに会いにきてよね」

「わかってるよ」

「必ず?」

「必ずだ」


 返事をして俺はポータルの方へ行く。そんな俺の背中にゆきの声が聞こえる。


「今度はどこへ行くって言ってもついてくからね!」

「ああ、わかった!」


 振り向いて手を振る。ゆきも手を振っている。俺はポータルへ乗り、ミスフェアへ帰還した。






 ミスフェアへ戻るとまだ暗かった。


「ああ、そういえば時差があった」


 そんなことすっかり忘れてた。おおよそ10時間ほどの差があるので、今のこちらは朝の5~6時といったところだろうか。これから日が昇り一日が始まるって感じだ。

 今日は皆、軽い時差ボケを覚悟してもらったほうがいいかもしれない。


「どうしましょうか? 先ほどまで昼でしたので、どうにも落ち着きません」

「同感です。折角ですので早朝のミスフェアをご覧になりますか?」


 フローリアの感想にミレーヌが同意する。ただ、さすが港国家なだけあって、朝も早くから働いてる人も多いらしい。日本も港町ってのは朝早い所が多かったからね。

 さすがに朝の漁港での“競り”みたいなものはやってなかった。エレリナさんに確認したところ、やっぱり彩和では早朝の港の競りはあるらしい。

 一通り見回って、少しばかりお腹が空いた。時間は朝食タイムっぽいけど、俺達にはもう夕食くらいのタイミングか。

 食事というほどではないが、多少お腹を満たす目的で食堂へ。ミスフェアへ初めてやってきた時も、こんな朝早い時間に来たなぁなどと考えていると、反対から歩いてきた人物がこちらを見て近寄ってきた。


「もしやフローリア王女様ではありませんか? おはようございます」

「おはようございます。はい、そうです。レイリック子爵も無事ミスフェアへ戻られたのですね」


 フローリアの言葉で相手を想い出す。この人は、ミスフェアへくる時に助けた幌馬車にのっていた人だ。このミスフェアの交易に尽力しており、ミレーヌの父であるアルンセム公爵からも信頼を受けてるとかいう話だったな。

 そしてフローリアの後ろにいる俺とミズキを見て、笑顔を向けて頭をさげてくる。


「そちらの冒険者のお二人も、先日はありがとうございました」

「いえ、気にしないで下さい」

「そうです、無事でよかったですね」


 実際大した労力ではなかったし、あの不可思議な原因はLoU時代のモデルデータの不備から起きたものだった。お礼を言われるとちょっとばかり心苦しくもある。

 お礼を述べていたレイリック子爵は、今度はミレーヌを見てまたしても笑顔で挨拶をする。


「ミレーヌ様、本日もおかわりなく」

「ありがとうございます。ところでお父様はご一緒ではないのですか?」

「アルンセム公爵は別用件がありまして、帰路の際に別となりました。ですが、おそらく本日の午後には戻られるかと思います」

「そうですか、ありがとうございます」


 なるほど、公爵の帰宅は本日午後か。ミレーヌに関することもそうだが、まずはきちんと挨拶しないといけないからな。

 とりあえずレイリック子爵と軽く話した後、俺達は予定通り食堂へ。そこで満腹にならないほどに食事をして、公爵家に帰宅した。


 何かをしようかとも思ったが、王都を出てからかなりめまぐるしい事が置き続けていた。なので少しばかり休もうと庭でのんびりとしていた。

 視線の先では、ミズキとフローリアとミレーヌ、そして各自の召喚獣がいっしょに戯れていた。のんびりした時間を満喫していると、となりに誰かがくる気配が。そちらに視線を向けるとエレリナさんが。


「お隣、よろしいでしょうか」

「いいですよ。あ、話し難いので座って下さい」

「ではお言葉に甘えさせて頂きます」


 そう言って芝生の上に座る。スカートでよくみえないが、おそらく正座だろう。


「なんか……まったりしますねー……」

「はい。特に彩和では色々ありましたから」


 それっきりまた沈黙が訪れる。だがそれは、決して不快なものではなく、心地よい自然の中で安らいでいるが故の静かさだった。

 そんな静けさ故に、体力的というより精神的に疲労があったのか、いつしか俺はゆっくりと瞼を閉じて静かに頭を垂れていた。


「……お疲れ様です。ゆっくりお休みください」


 そんな声が聞こえたような気がしたが、それすらどうでもいいと思える陽射しの中、のんびりと意識を手放していった。


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