79.そして、廻る知識と進む道
異世界に戻ってきた俺とゆきは、全員そろって村長宅へ向かった。そこで依頼完了の報告などを簡単に済ませ、詳細は明日にという事になった。
さてどこで寝ようかと思ったのだが、俺達が依頼へ行っている間に村長と話をつけていたらしく、今晩はそのまま村長宅にて泊まれることに。なのでありがたく、俺達はそのまま就眠となった。
翌日。日が昇る頃合で目が覚めた。
正式な宿屋というわけではないので、いつまでも寝ているのは気分的に無理と思ったのだろう。自分でも以外に早起きしたなぁと。隣の部屋を見に行くと、皆も既におきていた。
俺が「おはよう」と挨拶をすると、皆挨拶を返してくれる。……訂正、一人返してくれない。
「ミレーヌ、おはよう」
「…………むにゃ」
何それかわいい。本当に「むにゃ」って言うのとか、ずるくね? 寝起きでぽやぽや感満載のミレーヌを、なんだか放っておけないなぁーと見ていると。
「ミレーヌ様、カズキ様がミレーヌ様の魅力に目が釘付けです。今ならイケます」
「イケますか! そうですか! さあ来いです!」
「何がだよ、何でだよ! あとやっぱり寝起きってウソだろ!」
軽いデジャブを感じた。やはりこの子は油断できない。
その後、朝食をどうぞと言われたので、お言葉に甘えていただくことにした。
当然ながらド和食であり、食材も山間の村ということで山で取れる食材が多かった。中でもぜんまいなど山菜を味噌汁などは、現実世界でもなかなか口にしないものだ。個人的にはこういう味が結構好きだと話すと、それならばと乾燥させた山菜を沢山頂いた。山の恵みに感謝だね。
素朴ながらも実に味わい深い朝食を終えた後、昨晩の続きというか正式に依頼完了報告をした。
そこでの報告では、昨晩の取り決め通りドラゴンがいた事は内緒とし、大型種と言われていたのは群れのリーダー的な大きな亜種の飛竜だったという事にした。一応広場に、討伐したワイバーンの死体をストーレージから出してならべてみせた。最初村へきた時に倒した分もあわせ、合計56体だ。大型種だけは巣穴である噴火口内で、跡形残らずに倒してしまったので持ち帰れなかったことにした。信じてもらえるかなーとも思ったが、50体以上のワイバーンの死体のインパクトは大きく、素直に信じてもらえた。
ちなみにこのワイバーンの死体。当然討伐した俺達パーティーの物となるのだが、魔石だけ貰って後の素材はすべて村へと寄付した。こちらとしては金に困っているわけではないし、何かしらの利用価値のある魔石だけあれば十分だと思ったのだ。なので広場に置いたワイバーンに【解体魔法】をかけてさくっと素材別に。魔石以外の素材は村でどうぞと言うとすごく感謝された。まあ、こいつらのせいで色々迷惑被ったわけだしね。
後は実際に冒険者組合へ報告すれば終わり。そういうわけで帰ろうとすると、村人総出で見送ってくれた。村長からはいつでも遊びに来てください歓迎します、との言葉をもらった。季節が合えばおいしいキノコ料理もあるんだとか。うん、それ魅力。
そんな感じで大感謝の見送りの中、俺達は村を後にしたのだった。
帰りの空路は、スレイプニルに俺とフローリアが乗っていた。少しばかり話があるとかで、ミズキにはホルケへ乗ってもらっている。
「それで、どうでしたか?」
「どう、とは?」
とぼけたわけではなく、純粋にフローリアの質問の意味がわからなかった。
「ああ、ごめんなさい。言葉足らずでしたね。ゆきさんは、やはりそうなのですか?」
「……そうとは、どういう意味ですか?」
口の中が妙に乾くような感じがする。質問を質問で返しながら、まさか……という気持ちが溢れる。
「──転生者、という意味です」
「!!」
息が詰まるような気がした。まさかフローリアも転生者なのか?
「ま、まさか君も……」
「ああ、違いますよ。私は転生者じゃありません」
「えっ!」
今度は別の意味で驚いた。ここで「転生者です」といわれたら、驚いたけど納得できる事もあった。でも確かに転生者にしては、現実の世界へ行ったときの反応が新鮮すぎた。
でも、それならなんで『転生者』なんて言葉を知ってるのか。不思議がる俺にフローリアはあっさりと答えをくれた。
「私のおばあ様、王であるお父様の母が転生者だったのです」
「なんと……」
ゆき以外に転生者がいた事実。少し考えれば不思議は無い、とも思えるがやはり衝撃だった。俺はどちらかといえば転移者に近いが、そんな異端が入り込む世界に転生者がいるというのはやはり不思議だ。
でもそうなると、最近感じた疑問もなんとなくわかる。
「もしかして、フローリアがペット達につける名前というのは」
「ええ、そうです。おばあ様から聞かせて頂いた物語、そこに登場する女神様から取ってます」
なるほど。だからフローリアはいくつもの女神の名前をいろいろ知っていたわけか。こんな感じだともしかして、有名な物語や小説、映画なんかは知ってるのかもしれない。
……いや待てよ。何故俺は、転生者=現代日本人だなんて決め付けてるんだ?
「フローリア。その……おばあ様はどこの国の人だったかとか、聞いたことあるか?」
「転生前にいた国の名前ですか? 確か、フランスという国だとお聞きした記憶が……」
「フランス!」
まさかの外国人。いやまあ、別に異世界転生ってのが日本人特許ってわけじゃないけど、そう思ってたというのは否めない事実だ。それにしてもフランスとは、またなんとも優雅な雰囲気が。……でも実際の中世ヨーロッパって、ただ華やかなだけじゃなかったハズだよな。
「カズキはフランスという国はご存じですか?」
「知ってるけど、行ったことは無いかな」
「そうですか。もし行けるのであれば、おばあ様より聞いた沢山の蔵書が納められた建物を、見てみたかったです」
少し残念そうに言うフローリア。さすがに海外に連れて行くってのは無理だ。というか、まず俺が無理だね、ごめん。
にしてもフランスにある沢山の蔵書がって、フランスの国立図書館とかの事? なんでそんなピンポイントに場所を特定するんだろう。
「えっと、その図書館……蔵書の収まった建物は、おばあ様から何て?」
「転生される前のおばあ様が、お勤めになっていた場所だと聞いております。なんでも読書が大好きで、本の管理をする仕事をしながら、沢山の物語を読んでおられたそうです」
「フローリアに聞かせてた物語知識ってのはそこから来てたのかな」
「そうかもしれませんね」
なるほど。しかし最初フランスって聞いたとき一瞬驚いた。聖女であるフローリアの祖母となれば、やはりそういう資質のある人間だったのではと思ったから。そしてフランスで聖女と聞いたら、真っ先に思い浮かべるのはジャンヌ=ダルクだ。ただ、ジャンヌは文盲だったため、書物を読むなどという事は絶対に出来ない。一瞬フローリアが転生した伝説の聖人の孫かと思って焦ったぜ。
「フローリアも本を読むのは好きなのか?」
「はい! 本は大好きです」
笑顔を浮かべるフローリアを見て、そこにある気持ちは本が好きなのと、本が好きだった祖母が好きだという二重の大好きがあるのかもしれない。
そんなフローリアの気持ちが、どこか大切にしてあげたいと思わせた。
この世界には自由に本を読める図書館のような施設は無いのかもしない。ならば作ってみるのもいいかもなどと考える。
なんだったら思い切って、新たに作ると予定だという中継街領に設置してもいい。漠然とそんな事を考えているうちに、俺達は冒険者組合近くにまで帰ってきた。




