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77.それは、竜を滅する証となりて

 ゆきとゆらさんの空中演舞のような戦闘により、向こうの先兵ともいうべきワイバーンはあっけなく討伐された。

 なかなかにアクロバティックな戦い方で、お世辞にも効率が良いとは言えないが、討伐されたワイバーンの死体状態が、必要最低限の斬り傷のみで綺麗なのには感心した。

 しかし、こんな夜に空中で斬撃音と断末魔が響きわたれば、すぐさま他のワイバーンもやってくることは自明の理だ。案の定、今度は5体ほどのワイバーンがやってくるのが遠くに見えた。


「カズキ様、いかが致しますか」

「もう一回私達がやる?」


 ペガサスに乗った狩野姉妹が聞いてくるが、どこか楽しそうな声色に聞こえる。この二人も戦っていくとテンションあがっちゃうタイプなのかもしれない。


「いや、俺達が……というか、ミズキがいく」

「私? うん、わかった」


 ミズキの返事を聞き、ペガサスは少し後ろに下がる。これで最初に接触するのは、俺達が乗っているホルケ──フェンリルとなる。実際のところホルケが魔力全開で、風を纏い突進すればそこらの魔物なら見事に切り刻まれて終わりだろう。先程と同等クラスのワイバーンもそれは変わらない。

 だが、今回クエストを受けている理由の中に、ミズキのランクアップという目的がある。最初のクエ以降、何度かやろうとして出来てなかったので、そろそろB辺りには上がってもらわないとな。

 もっとも、ミズキのステータスからしたらAでも足りない位ではあるが、こういった特殊な相手との戦闘経験も必要だろ。


「ミズキ、剣に魔力を込めろ。そうしたら刀身が伸びるイメージをしろ」

「あ、うん。……はああああッ!」


 別に声を出す必要はないと思うのだが、そうした方が気持ちが集中できるってのはわかる。その内技を繰り出すときに技名を叫び出したらどうしよう……なんてことを思っている間にも、ミズキの剣が輝きはじめ刀身がすすっと伸びた。正確には刀身に纏った光が伸びたのだが。


「お兄ちゃん、これは……」

「これなら少し離れていても十分届くだろ。でも振った重さは変わらないからな」


 ミズキ自身は魔法を使えない。覚えればそこそこ使えるのかもしれないが、それよりも戦闘技能に魔力を使ったほうが効果的なのは間違いない。

 簡単なレクチャーをしている間にも、前方のワイバーンが近付いて来た。剣を構えたミズキは、そのままホルケの背に立つ。スレイプニルもそうだが、召喚獣たちは自身の周囲をある程度空間固定するので、立った状態で高速移動しても落ちることは決してない。


「くるぞ」

「うん。…………ハッ!」


 一体のワイバーンと正面からすれ違う。そして──ワイバーンは、片翼を切り落とされながら、地面に落ちていった。

 本当に一瞬だったが、ミズキが攻撃を当てたのだ。……2回ほど。

 一撃目は伸びた刀身を生かして、その先近くで翼を切り落とした。そして剣を振り抜きながら、魔力を流すのをやめた。その瞬間、光り伸びた刀身が消える。

 その短くなった剣を前に突き出すと、今度は光り輝く刀身が飛び出すように現れてワイバーンの心臓を貫いた。貫いた瞬間、その刀身はまた消えていた。


「……できた」


 ミズキというキャラだけが保持している、無駄に高い並列処理により、その行動速度は60フレームを越える。すれ違うほんの数フレームで、そこまでの行動をするのはミズキをおいて他にはいないだろう。

 その戦闘をみていたゆきやゆらさんも、声こそ出さないが驚いているのがよくわかる。


「よし、残りもミズキがやってみろ」

「了解!」


 また10体ほどいるワイバーンに、ミズキが再び向かって行った。




 この後、残りを倒して進むと、再び10体ほどのワイバーンが出現。ミズキの対ワイバーン戦の練習は終わったので、再び狩野姉妹にお願いをした。

 すると今度は、ペガサスの力で倒してみたいと言ってきた。なんでも段々ペガサスの意思が理解できるようになったきたとか。それで自身の力を見て欲しいと、ペガサスたちが申し出てきたとか。

 ならばと了承すると、二頭のペガサスは竜巻のような風を纏う。その竜巻は横に倒したような外観で、そのまま前方のワイバーンの所へ飛んでいった。そしてあまりにも一方的な風の暴力をまきちらして、そこにいたワイバーンを一蹴してしまった。


 2度目のワイバーン群を退けた後、それらがやってきた方角へ進んでいくと前方に多数のワイバーンの反応があった。そして村長が話していた大型種も存在する。

 さてどうしようかと思っていると、その大型種を除いたすべてのワイバーンがこちらに向かってきた。ある程度近付いてわかったが、その大型種がいるのは休火山らしき噴火口だ。そこから多数の、数にしておよそ30数体のワイバーンが出てきた。


「俺とミズキは、あの噴火口の中にいる大型種へ向かいます。二人は外のワイバーンを!」

「二人ともお願いね!」

「了解! しっかりやってきてね!」

「承りました。一匹漏らさず討ち取ります」


 風障壁を張ったホルケが噴火口へ向かい、進行上にいたワイバーンを数対はじきとばす。その後ろから別のワイバーンが追撃しようとするが、ペガサス二頭がその前に立ちふさがる。

 その間に俺とミズキは、噴火口であり大型種の巣穴へと降りていった。

 噴火口の内壁は、休火山になって長いのかただの岩肌になっており、そこにヒカリゴケなどが生えていた。おかげで洞窟状態である巣穴も、結構明るくなっていた。

 下降しはじめて、すぐに広間へと降り立つことになった。その広間は、壁や床隅に水晶らしき鉱石結晶があり、ヒカリゴケの光と相まって随分明るい広間だった。

 そんな広間の中央に、一際目を惹く存在がいる。翼をもったシルエット、これが大型種か。

 後ろ足で立ち上がり、大きく翼を広げて、洞窟を揺るがすほどの咆哮をあげる。並の冒険者ならそれだけで、戦士喪失するほどの力を感じる。かすかに湯気のような煙を噴出す口からは、並んだ牙が見える。鋭い爪をもった前足も脅威だろう。


 ……前足?


 改めてその姿を見る。しっかりと大地を踏み締めた後ろ足、大きく広げた翼、そして前足。

 そう、こいつは──


「ミズキ、こいつはワイバーンじゃない。ドラゴンだ」

「ドラゴンって、あのドラゴン?」


 ドラゴン。ワイバーンと混同されることも多いが、その違いは大きい。LoUの世界においても、ドラゴンというのは特別なレイドボスもしくは、神獣として(あが)(たてまつ)るべき存在であった。改めてホルケを借りてきて良かったと思った。この状況で、こちらにホルケがいるというのは随分心強い。本当に万が一の場合は、奥の手としてGMを使うが、できれば今回それはしたくない。


「ミズキ、まずは一撃入れてみてくれ。こちらの攻撃が利くかどうかみたい」

「わかった!」


 すぐに体制を整えて、剣を構える。先程までやっていたように、攻撃がヒットする瞬間に魔力を流して光の刀身を伸ばし斬るのだ。

 じっとこちらを見るドラゴンにホルケが近付く。見た目からは想像できないほどのすばやさで、前足を振り下ろして攻撃をしてきた。それを交わしながら、伸ばされた前足にミズキが攻撃をする。


「クッ! これは……!」


 だがその皮膚は、強靭な鱗の結晶のようにたやすく攻撃を防ぐ。少しばかり切れ味が鈍る程度かと思っていたが、これは予想以上に苦労しそうだ。

 元々LoUでのレイドボスであるドラゴンは、一種の大規模イベント並みに足並みをそろえて挑むものだった。当然そうなればプレイヤーのスキルも装備も、トップランカークラスの人が集まってくる。当たり前だが今回ここにそれは存在しない。

 おまけにドラゴンというネームバリューは、あある一定数の補正が働いている。ワイバーンクラスのドラゴン種なら無視しても構わない値だが、このクラスであればそれは些か厄介だ。

 このドラゴンにとっての外的攻撃は、そのダメージ補正値により何分の、何十分の一になっているのだろう。それを覆せるだけの力量が、今のミズキには無いのだ。


 ……そう。今の(・・)ミズキには。


 やっぱりミズキには、どうしても甘くなっちまうなぁ……などと思いながらストレージを見る。

 以前より色々な武器を格納してあったが、ここ最近の事を考えて向こうへ戻るタイミングで少しずつ追加していたのだ。その中から、一本の剣を取り出す。


「ミズキ、この剣で戦ってくれ」

「これは……」


 俺に手渡された剣を鞘から抜き、その刀身を見る。曇りなき綺麗な刀身だが、特別なにか施されたようには見えない。

 だが、その剣を鞘から抜いた瞬間、ドラゴンが過剰なまでの反応を見せた。


「え、何? お兄ちゃん、この剣は……?」

「その剣の名前は『ジークフリート』。英雄叙事詩(えいゆうじょじし)──吟遊詩人が語り伝える物語に出てくる英雄の名だ。別名──ドラゴンスレイヤー」


 ミズキが手にしたジークフロートを高く掲げると、強い光を発して洞窟内を照らす。その光にドラゴンはうめき、苦し紛れにブレスを吐き出した。吐き出されたブレスは、空気とまざり炎となってやってきたが、ホルケの障壁とジークフリートが持つドラゴン種を退けるという力によって、完全に打ち消されてしまった。


「お兄ちゃん、ホルケ、行くよ!」


 ミズキの声にあわせ、ホルケが力強くドラゴンに向かう。元々真なる姿のフェンリルであれば、ドラゴンと一対一(タイマン)でもいい勝負だったかもしれない。それがジークフリート──ドラゴンスレイヤーを持っているミズキと相対した時点で、勝敗は速いか遅いかの違いでしかなくなってしまった。

 ブレスが利かぬと理解したドラゴンが、今度は尻尾を振りたたきつけようとするが、こちらはホルケの障壁で上手にいなされて外された。続けて前足で切り裂こうとしたが、それをミズキは剣を振って切り落とした。何の抵抗も感じず、あっさりと切り落とした。

 ドラゴンの絶叫が響く。恐らくは今まで受けたことのない痛みなのだろう。

 ゆらいだ上体に、ミズキが剣を伸ばす。先程と同じように魔力を流し込むと、光る刀身が伸びたようにドラゴンへ向かい、その心臓をたやすく貫いた。

 長らく動き続けてきたドラゴンの心臓は、こうしてあっけなくその鼓動をとめた。

 外のワイバーンをすべて片付けた狩野姉妹とペガサスがやってきたのは、そのすぐ後の事だった。




 こうして、当初とは少し違う方向に進んだワイバーン討伐の依頼は完了した。

 ただこのドラゴンのことは、俺達だけの内緒にすることにした。他にはもうドラゴンはいないようだし、無駄に騒ぎを大きくしても良くないだろうという判断だ。無論、フローリアとミレーヌには後で話す。

 それでドラゴンの死体に関してだが、俺のストレージは物理的な容量ではなく、フラグ管理なので簡単に格納できる。試しに収納してみたが『ドラゴンの死体x1』となっているだけで、データベースの数バイトを消費しただけだ。この死体は持ち帰ってから解体したほうがいいだろう。

 後は……冒険者組合での報告時に『ドラゴン』ってのが含まれてるのを聞かれるかもしれないので、そのあたりはゆらさんにお願いした。ワイバーンの群れのボス的なのが、そういう認識をされていたらしい……みたいな適当な理由をでっちあげる方向で。


 ともかくこれで終わったので、村に戻って報告だ。

 フローリアとミレーヌはもちろんだけど、きっと村長や多くの村人はまだ起きてるだろう。

 戻ってから一度ログアウトしておかないといけないしな。

 この彩和にきてから、ちょっと連続イン時間が長くなってしまった。メール確認はこっちでもできるけど、定期的に戻るようにしないといけないし。

 後さ、たまーにあっちのジャンクフードすごく食べたくなるんだよ。ハンバーガーとかフライドチキン食べたい……。


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