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76.それは、依頼に秘められし事実

「ようこそ来てくれました。私がここの村長です」


 丁寧に頭をさげた目の前のおじいさんが、どうやらここの村長らしい。そんな村長と共にやってきた何人もの村人は、皆俺達見て感極まったような表情をしていた。

 俺達も地上へ降り立ち、挨拶をする。


「はじめまして。私達はこの村を襲う飛竜を討伐するために来ました」

「おお……ありがとうございます」


 再度頭を下げる村長。まわりの村民も同様に頭をさげる。気持ちは嬉しいとは思うが、状況が状況だけにまず話をきいて手早く出発することとなった。

 まず飛竜の数だが、複数匹以上なのは確定だが、正確な数字はわからないとの事。

 元々この地では昔から飛竜はいたが、村人でさえ年に数回その姿を見かける程度であったと。また、見かけたとしてもこんな村にまで来ることはなく、感覚としては遠くで大きな鳥が飛んでいる、くらいにか感心がなかったと。

 だがここ最近、飛竜が姿を見せる頻度が高くなり、ついに先日村人が飼っている家畜に被害が出たという話だ。

 そうなってしまうと、もうこれは静観できる状況ではない。とはいえ村には飛竜を討伐できる者など居ない。そういうわけで、決して裕福ではない村だが、冒険者組合に討伐依頼を出したとの事。


「なるほど、大体の事情はわかりました。では……」

「すみませんカズキ。その前に私から」


 これからの行動について話そうとした時、なぜかフローリアに言葉を止められた。なんだろうと思ってその顔を見るが、その目は村長をじっと見ていた。そして、一度視線をはずしてミレーヌを見ると、ミレーヌはフローリアに軽く頷く。何をしているのだろうか。


「村長。一つ伺ってもよろしいですか?」

「は、はい。なんでしょうか……」


 丁寧な言葉だが、そこには第一王女として振る舞っている時のような、その言葉自体に相手を従わせるような強さを感じた。なんでそんな振る舞いをしてるんだろうか。


「先程の話ですが……全てではありませんよね」

「うっ……」

「え?」


 フローリアの言葉に息を呑む村長たち。そして俺は驚いて間抜けな声を発してしまう?

 さっきの話が全てではない? どういう事だ?


「虚偽の発言はなかったようですが、まだ隠している事があるのではありませんか?」

「そ、それは……」


 フローリアの発言から、もしやと思いミレーヌを見る。すると先程フローリアにしたように、俺の方を見てこくんと頷く。どうやら二人が持つ魔眼で、村長が今回重要となるべき事柄を何か隠しているという事に気付いたようだ。


「改めてお願いします。もう一度、今度はすべてお話して下さい」

「……はい。わかりました」


 俺の言葉に、村長は深く頭をさげて頷いた。




 改めて聞いた話はこうだった。

 飛竜の全体数はやはり確認できてないが、その数は当初の報告と異なり数十匹の単位でいるらしい。また遠目でしか目撃がないが、飛竜の群れの中にひときわ大きな飛竜がいるのを、村人何人かが目撃していた。そうなってしまうと、もはやクエストランクはBでは収まらない。場合によってはAを超えてS近くまで行くことも考えられる事態だ。

 何故その事を正直に言ってくれなかったのか、怒るのではなく諭すように聞きだした。なんでも村の資金では、どんなに頑張ってもAランク以上の依頼にできないのだと。ならばと、せめて出来うる範囲での討伐を願いBランクで申請したらしい。

 無論それで冒険者が討伐して終わるとは思っていなかったと。数匹の飛竜を討伐する依頼が、蓋をあけたら数十匹の飛竜+大型種の軍勢だと知れば、国が動いてくれるかもしれないという願いが込められていた。その目論みは決してほめられたものではない。だが、こんな山間の小さな村で生きる者には、それこそ藁にもすがる希望の策だったのだろう。

 そこまでの気持ちがあるなら、いっそここを出て行ったらどうだ、そんな考えもあるだろう。だが自分にとってかけがえのない場所というものは、そう簡単に手放せないものだ。


「……わかりました。よく、話して下さいましたね」

「申し訳ありません、申し訳ありません……」


 フローリアの労いの言葉を聞いても、村人たちは申し訳ないとずっと頭を下げてしまっている。今回の自分たちの行いにより、この依頼が完全に取り消されて村が無くなってしまう恐れさえも出てきてしまたっと思っているのだろう。


「カズキ」

「ああ、わかってる」


 フローリアの目配せをうけて、俺はミズキたちをざっと見渡す。ミズキ、ミレーヌ、ゆらさん、ゆき。その全員が俺の目を見てしっかり頷く。


「村長、そして皆さん。顔を上げて下さい」


 ずっと下げていた顔をあげて全員がこちらを見る。中には、もう気持ちの整理がつかず涙で顔がぐしゃぐしゃになっている人もいる。


「これより俺達は飛竜の討伐に向かいます」

「なっ……これから、ですか……?」

「はい。そして夜が明ける頃には、全てを終わらせて戻ってきます」

「そ、そんな事が……」


 村人全員が驚きで声を詰まらせる。この夜の闇の中、これから数十の飛竜をすべて討伐してくるという事が、ただしく脳が理解できてないのだろう。


「できます。この私が保障し、断言します。この──」


 フローリアが前へ一歩踏み出す。


「このグランティル王国第一王女フローリア・アイネス・グランティルの名に置いて」


 王女との言葉に驚き、その姿を見て、そして感じたものにより、村人全員が腰を落としより深く頭を下げた。お願いしますという、願いを切に込めて。




「それじゃあ役割を発表する」


 村長以外の村人たちは、自分の家に帰ってもらった。今から彼らにできることは何もない。ならば、村民にとっては信じて待つことも立派な戦いなのだ。


「まずフローリアとミレーヌ。二人は……この村で待機してくれ」

「はい」

「はい」


 素直に了承してくれる二人。おそらく理由もわかっているのだろうが、一応全員が理解できるように説明をする。


「まずミレーヌは最初から待機させるつもりだった。そしてフローリアだが、今回はこの村という要素があるため、万が一を考えての待機だ。飛竜がこちらにやってくる可能性を考えてだ。大丈夫か?」

「はい、問題ありません」

「迎撃の必要はない、この村を守ってくれればいい。そこで一つミレーヌにお願いがある」

「私にですか?」

「ああ。今から行う飛竜討伐で、ホルケを貸して欲しい」

「ホルケを……」

「うん。ハッキリ言って真の姿になったホルケの力は非常に強力だ。当初の予定であれば、スレイプニル騎乗で十分かと思ったが、さすがに数十のワイバーンと大型種がいるのなら、より戦闘特化できるホルケにお願いをしたい」

「……わかりました。ホルケ、少しの間カズキさんのいう事を聞いて下さいね」

「すまないなホルケ。終わったら何かしらおお礼をするよ」


 そう言って頭を撫でてやると、短く返事を返してきた。素直で利口だから助かるな。


「そして俺と共にホルケに騎乗するのは、ミズキ」

「うん! ホルケもよろしくね」


 ホルケは真の姿を維持したままなので、伏せをしているのにとても大きい。その乗れるほどおおきな頭……というか顔にミズキが抱き着いて頬ずりしている。


「最後にゆきとゆらさん。先程の戦闘のように、引き続きお願いしたい」

「オッケー、まかせて」

「了解致しました」


 こちらに向けてサムズアップをするゆきと、丁寧に頭をさげるゆらさん。……ゆらさんへのご褒美を考えるのはとりあえず後回しだ。


「ではフローリアとミレーヌ。俺達が出発したらスレイプニルに魔法障壁の結界を張らせてくれ。二人の魔力を使えば、この村全体なら問題なく覆えるはずだ」

「わかりました」

「がんばります」

「それでは村長、行ってきます」

「はい。何卒お願い致します」

「では行こう!」




 俺とミズキが乗るホルケ、そしてゆきのルーナにゆらさんのダイアナ。夜空に巨大なフェンリル──オオカミと、ペガサスのシルエットが飛ぶ。月の光をうけて輝くそのシルエットは、幻想的でもあった。

 こんな状況でもなければ夜空の散歩を、楽しめていたのかもしれないのに。


「お兄ちゃん、前方に2匹ほどワイバーンいるよ」

「……確かに。よし、ゆき! ゆらさん! 前方のワイバーンの討伐お願いします!」

「「了解!」」


 俺の言葉に二人が声を合わせて返事をし、先ほどのように併走していく。


「お兄ちゃん、どうして二人にお願いしたの?」

「えっと、さっき二人が空で戦うところを見れなかったからな。どういう戦い方をするのか、この目で見てみたかったんだ」

「あ、そうだね。私も見てなかった」


 そんな事を言っている間にも、ふたりは標的のすぐそばまで寄っていた。さてどうするのか……と思ったその瞬間。


「ルーナ!」

「ダイアナ!」


 二人が自分のペガサスに中腰でしゃがむように乗った。そして、いよいよ標的であるワイバーンはすぐそこだ、というところで挟み込むように左右に開いた。だがその速度は一切落ちず、このままではただワイバーンの横を通過するだけ……そんな事を思った次の瞬間。


「「はぁッ!」」


 二人が同時にペガサスを踏み台のようにして飛び出し、交差してワイバーンを切り刻んだ。その威力はまったく衰えずに、そのまま相手のペガサスに高速でぶつかる──はずだった。

 しかしぶつかると思えたその時、ペガサスの側面に何か壁でもあるかのように、二人が空中で横向きに足を踏ん張った。軽くしゃがみ、そして先程とおなじような軌道でもう一度交差。

 左右から流れるように切り刻まれて、先頭にいたワイバーンは断末魔の声をあげ落ちて行った。

 続けて二人はまたペガサスが纏う障壁側面を蹴り、次の標的へ向かっていった。


「……そんな事できるのかよ」

「何あれすごい! 私に出来るかな?」

「いや、難しいな。アレはあの二人と二頭だからこそ出来るコンビネーションだろう」

「そっかー。でも、凄いね……」


 目を輝かせているミズキの視線の先では、二体目のワイバーンがあっけなく討伐されて落ちてく。

 その宙を舞うようにしている姉妹に、しばし俺も目を奪われていた。


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