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75.そして、緊急にクエストは始まる

 星々が煌く夜空を書く抜ける4つの影。

 一瞬大きな鳥か飛竜の類かと思いきや、馬や狼のように見えるものたちだった。

 俺とミズキが乗るスレイプニル、フローリアとミレーヌが乗るフェンリル、そしてエレリナさんとゆきが各々騎乗しているペガサスだ。

 狩野姉妹は当たり前だが、ペガサスに乗るのは初めてらしい。とはいえ流石に乗馬経験は十分であり、それがペガサスであってもしっかりと生かされているようだ。初めて飛んだ直後はおぼつかない感じもあったのだが、すぐに慣れてしまいものの数分で宙返りすら可能なほどになっていた。……いや、ペガサスに乗って宙返りとかすんなよ。


「星……綺麗に見えるね」

「ああ、そうだな」


 俺の前に座ったミズキが、こちらにもたれ掛かりながらそんな事を呟いた。確かに綺麗な星空だ。そう見える理由としては、空高く飛んでいるから星が近い──なんてメルヘンな事は言わない。単純に汚れた空気は綺麗な空気より重いため、地表に近い場所へ集まっているからだ。もっとも、こちらの世界の汚れた空気ってのは、工業廃棄とかじゃないから現実(あっち)でいう所の東京なんかより全然澄んでいる。


「お兄ちゃんって、星の名前とか知ってるの?」

「まあ人並みに……かな。何か気になる星でもあるのか?」


 そう聞いてみると、少しばかりじっと一点を見つめ、そして「あれ」といいながら指を差す。その方向にあるのは、旅人の目印とも呼ばれる北極星だ。


「あれは北極星……ポラリスだな」

「ポラリス……。あの星だけ動いてないの」

「マジかよ、動いてるの分かるんか」


 ミズキの上限近いステータスと、アイテムによる上乗せ加算による身体能力は、わずかな時間でも星の動きが見えるらしい。確かに地球においても、自転することによる体感速度なんてものはほぼ皆無だった。だが、実際に拡大率の大きい望遠鏡で星を見てると、あっと言う間にレンズ視野内からずれていってしまうことも多々ある。つまり、そんな特殊な状況でないと感じられないものをミズキは、生身で感じ取れるということか。


「星の自転とか公転って……わかんないよな?」

「うん、わかんない」

「えっとだな……つまり、夜空の星ってのはあのポラリスを中心に回ってるわけだ。つまりあの星はずっと同じ場所にあるから、昔から旅人が方角の目印にしたんだよ」

「ふーん。お兄ちゃんって、いろんなこと知ってるね」

「あ、ああ。まあな」

「……ねえ、お兄ちゃん」


 持たれていたミズキが、すっと体を起こしてこちらを向く。例の如くスレイプニル達召喚獣は、通常走行であればまず落ちることがないので、これくらいの馬上移動はなんでもない。


「お兄ちゃんは……お兄ちゃん、だよね?」

「……どういう意味だ?」

「ううん、何でもない。……でもね」


 じっとこちらを見るミズキ。その視線はいつものミズキだが、どこか寂しげにも感じられた。

 暫しの沈黙の後、


「いつか、ちゃんと話してね」


 そう言って前を向いて、またゆっくりと体を預けてきた。

 ちょっと前、同じようなことを言われたばかりだ。そうだ、確かフローリアに、


『いつか、本音で応えて下さい』


 そう言われた。だから俺の本心をきちんと言葉にした。

 でも、そうだよな。ミズキは大事な家族だ。俺がこの世界に来る前から、ずっと前から大事にしてきた存在なんだから。

 俺の胸に後ろ頭を預けるミズキを、そっと優しく撫でる。


「……ミズキ」

「うん」

「いつか、ちゃんと話すから。──全部」

「うん、待ってる」


 そのまま何も聞こえない、ただ静かに風を切る音だけが流れて行く時間が続く。


「カズキ様、まもなく目的の村です」


 ──エレリナさんの声が聞こえてくるまで。




 山間の小さな村だと聞いていた。そして実際に近くまで来ても、やはり小さいなと感じた。

 この世界では普段から王都など大きな街ばかりいたので、こういった地方の集落的な街や村はあまり見てこなかった。


「あれ? エレリナさん、いつ着替えたんですか?」

「これですか。先程馬上で着替えました」


 何それ器用だな。今のエレリナさんは、ゆきと同じいわゆる忍者装束といわれる格好だ。確かに先程までのメイド服では、動きにくい部分もあったのだろう。あと、冒険者に見えないので、余計な誤解の回避ってのもあるのかな。


「えっと、そちらの恰好の時はゆらさんと呼んだ方がいいですかね?」

「どちらでも構いません。好きな方でお願いします」

「そうですか。じゃあ、そちらの時はゆらさんで」

「あら。カズキ様は“ゆら”が好きなんですね。覚えておきます」

「……勘弁して下さい」


 ゆきと一緒なのが本当に楽しいのか、エレリナさん……じゃない、ゆらさんが俺をいじめるよ。とても丁寧に攻めてくるので、回避が困難です。

 ああ、この世界に胃腸薬あったかな。状態異常の回復魔法とかでいいのかな。そんな事を考えていた時だった。


「お兄ちゃん! 何かが村の近くに飛んでる!」

「なにッ!?」


 少し気がそぞろになっていたが、気持ちを切り替えて村があるとおぼしき方を見る。山間の小さな村ということで、明るい目印の様なものはないが、いくつか人が住んでいるとわかる灯りが見える。

 その上空に、確かに1体の何かがいる。全身の色が、くすんだような群青色の皮膚のようなもので覆われているソレは、おそらく目的のワイバーンだろう。

 ただ、今確認できるのは1体だけ。依頼用紙によれば、複数のワイバーンが確認されているとのこと。


「カズキ! 村人がいます!」


 フローリアの声で村の中を見ると、少し開けた広場のような場所に一人の男性がいた。どうにもへたり込んでしまっており、突然のワイバーンに驚いて足がすくんでしまったようだ。


「フローリアとミレーヌは村人の側へ降りて守ってあげてくれ!」

「了解です!」

「ホルケ、お願い!」


 ミレーヌの声を聞いたホルケは、さらに速度をあげて一気に村人の傍へ向かう。


「ゆき! ゆらさん! いけますかっ!?」

「大丈夫、いけるよ!」

「ご指示があればいつでも!」


 早々にペガサスの騎乗になれた二人に、簡潔に戦闘可能か問いかける。その言葉に十分な自信を感じたので、俺はそれを信頼することんした。


「なら二人はあのワイバーンに向かってくれ。ひとまず村から引き離して欲しい!」

「「委細承知!」」


 二人は一糸乱れぬ返事とともに、完璧に併走してワイバーンに向かって飛んで行った。


「ミズキ、俺達はまず上空から他のワイバーンがいないか確認する。その後、討伐救援だ!」

「わかった!」


 俺とミズキを乗せたスレイプニルは、一気にはるか上空にまで上り詰める。

 そこで神獣としての力をフル活用して、周囲に存在する他のワイバーンを索敵する。……ふむ、どうやらいないようだ。


「とりあえずあの一匹だけだ、いこう」


 索敵をしたまま再び高度を下げる。既にワイバーンと校戦している二人の様子や、一足先に村へ降り立ったフローリア達の様子も感覚で確認できる。村人との会話が、念話のように聞こえてきた。


『ひぃっ、こ、これは……』

『落ち着いて下さい、私達はワイバーン討伐に来た冒険者です』

『冒険者……ほ、本当ですか!?』

『はい。今私の仲間が空にいるワイバーンと戦っております』

『おお……』


 どうやら下の方は大丈夫なようだ。ならば、まずはそのワイバーンをなんとかしよう。

 そう思って、ゆきとゆらさんの方を見たのだが。


「ありがとうルーナ! 空なのに自由に戦えたよ!」

「感謝しますダイアナ。今後ともよろしくお願いしますね」


 そういって、やさしく愛馬の首横をなでる二人の姿が見えた。

 ワイバーンは……? と思い地面をよくみると、翼を落とされ心臓あたりを撃ち抜かれた、かつてワイバーンだったモノがあった。まあ二人ならこんなもんか。

 とりあえず二人に声をかけ、地上で手を振っているフローリアとミレーヌの元へ。

 そこへ先程助けた村人が呼んだのか、村長らしき人もやってきた。

 あのワイバーンの死骸どうしようかな。


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