表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/397

74.それは、月光に冴える双馬

 なし崩し的に約束をしたエレリナさんの褒美はともかく、俺達は山間にある小さな村から要請が出ている、ワイバーン討伐へ向かうことになった。

 だが時間の頃は、そろそろ日も傾きはじめた状況であり、このまま向かうと夜移動となってしまう可能性もある。しかし冒険者が依頼を受けたら、それはイコール出発の意味も含む。たとえそれが夜であっても、可能な限り進み休むのも道中で野宿が基本だ。だからこそ、深夜進軍するのであれば、十分信頼できる仲間でないといけない。

 ……というのは、まあ普通の冒険者達の話だ。

 俺達の場合は信頼云々以前に、深夜とかの時間制限を無視できる強みがある。今から文字通り飛んでいけば、日が暮れ終わるころには着くだろう。そうなると夜の戦闘となってしまうのだが、俺はもちろん皆もそこはあまり関係ない。

 元々俺の視野明度は、どうもLoU基準らしく暗闇でも“暗い状況表現のテクスチャ”レベルの明るさを持っている。ミズキはステータス値により問題なく夜目がきき、フローリアとミレーヌは魔眼の効果だろうかこちらも問題ない。狩野姉妹にいたっては、夜行動はあたりまえの事だった。

 なので満場一致でさっさと向かって、夜の内に終わらせようという話になった。


「それでお兄ちゃん、移動はどうするの?」

「ああ、それなんだが……エレリナさん、いいですか?」


 エレリナさんを呼んで、俺はストレージに入れておいた指輪を取り出す。


「エレリナさんにもこれをお渡しします。これは……」

「あらあら。とうとう私にまで手をお出しになるということですか」

「……違いますよ。すみません、ここで話をややこしくしないで下さい」

「冗談ですよ」


 この彩和に来てからエレリナさんが、妙に楽しそうだ。やはり故郷ってのはいいものだという事だろうか。でもそれで俺が貧乏くじひいてるっぽいのは何故だろう。


「あ! もしかしてその指輪って……」

「そう、ゆきに渡したのと同じで『ペガサス』が登録してある」

「ペガサスですか!?」


 ペガサスと聞いて、大きな声をあげたのはフローリアだった。彼女は白い愛馬『プリマヴェーラ』をそれは大切にしており、白馬というものを愛おしく思っているのだ。


「あー……もしかして、フローリアもペガサスが欲しい……とか?」

「……いいえ、やめておきます。私には大切な家族、プリマヴェーラが既におりますので」


 そう言って微笑む。こういう所は間違いなく聖女なんだけどね。

 とりあえず二人に召喚方法を教える。といっても魔力を込めて呼び出すだけなんだけど。

 エレリナさんとゆきは、右手中指の指輪を見つめる。軽く息をとめて凝視しているのは魔力を送っているのだろう。そして指輪から光が溢れ、目の前で形作られていく。


「出た……ペガサス……」

「とっても綺麗……」


 間近で見ている二人以外も、その翼の生えた真っ白な馬に目を奪われる。ファンタジーに出てくる生物の中もで、かなり魅力的な存在だと改めて痛感した。


「二人とも、名前をつけてあげてくれ」

「あ、うん。えっと……」

「名前ですか……」


 暫し考え込む二人。だがあまりそういった事が得意ではないのか、しばし考え込んでしまう。それでも思い浮かばないようだ。


「あの、カズキ様。よろしければ名前を付けて下さいませんか?」

「俺がですか? えっと……あ! フローリアはどうだ? 白馬の名前なら色々と思い付いたりするんじゃないのか?」

「私ですか? 確かに色々と名前は思い付きますが……よろしいのですか?」

「お願いしますフローリア! 馬が好きな人が付けた名前なら」

「私からもお願いします。どうにもこういった事は苦手で」

「……わかりました。カズキ、この子たちは兄弟とか姉妹ですか?」

「えっと、たしか一緒に生まれたハズだから双子のペガサスだよ」


 生まれた、というのはもちろん表現上の事で、実際には一緒にデータを作り上げたという事だ。


「そうですか……では……」


 ペガサスをじっと見ながら、ゆっくりと瞼を閉じる。しばし沈黙したあと、目を開いてゆきとエレリナさんの方を見ながら言った。


「こちらのゆきのペガサスは『ルーナ』、エレリナのペガサスは『ダイアナ』でどうでしょうか」

「ルーナ……」

「ダイアナ……」


 フローリアから出た名前を反芻する。そしてゆっくりと自分のペガサスを見る二人。


「今日からあなたはルーナよ。よろしくね」

「只今をもってあなたにダイアナの名を与えます。よろしくお願いします」


 優しくそっと背を撫でる二人。それに呼応するように、一鳴きすると強く指輪が光り、ペガサスと二人が淡い光に包まれた。

 どうやら無事に主従契約が結べたようだ。


 それにしても、やはりフローリアの命名は女神シリーズだった。そして今回は、どちらもローマ神話の月の女神ときたもんだ。双子ということで、この名前を選んだのか。……この世界のどこでそんな知識を得てるんだ?


「それでカズキさん。お二人はペガサスさんに騎乗されるとして、他はどうしますか?」

「ミレーヌはホルケに乗ってくれ。ホルケの真の姿なら飛べるから」

「本当ですか!?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、慌てるようにホルケを召喚するミレーヌ。そんなに焦らなくてもいいのに。そしてゆきは初めてみたホルケにびっくりしていたが、次の瞬間真の姿に戻ったホルケ=フェンリルを見てもっと仰天した。

 ちなみにホルケもペガサスたちも、召喚獣としての立場を理解しているのか、すぐ傍によっても嫌なそぶりなども見せずにいる。そういえばペトペンたちとも仲良くしていたっけ。


「それじゃあ出発しようか。二人は試乗も兼ねてルーナとダイアナで。ミレーヌはホルケに。後はミスフェアへの道中と同じように三人でスレイプニルに……」

「カズキ」


 ふいにフローリアに声をかけられた。


「もしよければ、私もホルケに乗ってもいいでしょうか?」

「え? ミレーヌがいいというのであれば、かまわないけど……」

「はい。私ならかまいません。フローリア姉さまとご一緒します」

「わかった。じゃあフローリアはミレーヌとホルケで」


 そう言うと、フローリアはミズキに何か話しかけてから、ホルケの元へ行きその背に乗った。狩野姉妹も既にペガサスに騎乗している。

 俺はスレイプニルを呼び出して、その背に乗る。


「ミズキ、行くぞ」

「あ、うん」


 少しボーっとしていたミズキの手を、馬上から引っ張り上げるようにして前に座らせる。


「よし、それじゃあ出発!」


 俺の声に合わせ、4つの影が空高く飛び立った。


誤字修正。思いっきりゆきがフローリアの意見無視してて笑った…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ