74.それは、月光に冴える双馬
なし崩し的に約束をしたエレリナさんの褒美はともかく、俺達は山間にある小さな村から要請が出ている、ワイバーン討伐へ向かうことになった。
だが時間の頃は、そろそろ日も傾きはじめた状況であり、このまま向かうと夜移動となってしまう可能性もある。しかし冒険者が依頼を受けたら、それはイコール出発の意味も含む。たとえそれが夜であっても、可能な限り進み休むのも道中で野宿が基本だ。だからこそ、深夜進軍するのであれば、十分信頼できる仲間でないといけない。
……というのは、まあ普通の冒険者達の話だ。
俺達の場合は信頼云々以前に、深夜とかの時間制限を無視できる強みがある。今から文字通り飛んでいけば、日が暮れ終わるころには着くだろう。そうなると夜の戦闘となってしまうのだが、俺はもちろん皆もそこはあまり関係ない。
元々俺の視野明度は、どうもLoU基準らしく暗闇でも“暗い状況表現のテクスチャ”レベルの明るさを持っている。ミズキはステータス値により問題なく夜目がきき、フローリアとミレーヌは魔眼の効果だろうかこちらも問題ない。狩野姉妹にいたっては、夜行動はあたりまえの事だった。
なので満場一致でさっさと向かって、夜の内に終わらせようという話になった。
「それでお兄ちゃん、移動はどうするの?」
「ああ、それなんだが……エレリナさん、いいですか?」
エレリナさんを呼んで、俺はストレージに入れておいた指輪を取り出す。
「エレリナさんにもこれをお渡しします。これは……」
「あらあら。とうとう私にまで手をお出しになるということですか」
「……違いますよ。すみません、ここで話をややこしくしないで下さい」
「冗談ですよ」
この彩和に来てからエレリナさんが、妙に楽しそうだ。やはり故郷ってのはいいものだという事だろうか。でもそれで俺が貧乏くじひいてるっぽいのは何故だろう。
「あ! もしかしてその指輪って……」
「そう、ゆきに渡したのと同じで『ペガサス』が登録してある」
「ペガサスですか!?」
ペガサスと聞いて、大きな声をあげたのはフローリアだった。彼女は白い愛馬『プリマヴェーラ』をそれは大切にしており、白馬というものを愛おしく思っているのだ。
「あー……もしかして、フローリアもペガサスが欲しい……とか?」
「……いいえ、やめておきます。私には大切な家族、プリマヴェーラが既におりますので」
そう言って微笑む。こういう所は間違いなく聖女なんだけどね。
とりあえず二人に召喚方法を教える。といっても魔力を込めて呼び出すだけなんだけど。
エレリナさんとゆきは、右手中指の指輪を見つめる。軽く息をとめて凝視しているのは魔力を送っているのだろう。そして指輪から光が溢れ、目の前で形作られていく。
「出た……ペガサス……」
「とっても綺麗……」
間近で見ている二人以外も、その翼の生えた真っ白な馬に目を奪われる。ファンタジーに出てくる生物の中もで、かなり魅力的な存在だと改めて痛感した。
「二人とも、名前をつけてあげてくれ」
「あ、うん。えっと……」
「名前ですか……」
暫し考え込む二人。だがあまりそういった事が得意ではないのか、しばし考え込んでしまう。それでも思い浮かばないようだ。
「あの、カズキ様。よろしければ名前を付けて下さいませんか?」
「俺がですか? えっと……あ! フローリアはどうだ? 白馬の名前なら色々と思い付いたりするんじゃないのか?」
「私ですか? 確かに色々と名前は思い付きますが……よろしいのですか?」
「お願いしますフローリア! 馬が好きな人が付けた名前なら」
「私からもお願いします。どうにもこういった事は苦手で」
「……わかりました。カズキ、この子たちは兄弟とか姉妹ですか?」
「えっと、たしか一緒に生まれたハズだから双子のペガサスだよ」
生まれた、というのはもちろん表現上の事で、実際には一緒にデータを作り上げたという事だ。
「そうですか……では……」
ペガサスをじっと見ながら、ゆっくりと瞼を閉じる。しばし沈黙したあと、目を開いてゆきとエレリナさんの方を見ながら言った。
「こちらのゆきのペガサスは『ルーナ』、エレリナのペガサスは『ダイアナ』でどうでしょうか」
「ルーナ……」
「ダイアナ……」
フローリアから出た名前を反芻する。そしてゆっくりと自分のペガサスを見る二人。
「今日からあなたはルーナよ。よろしくね」
「只今をもってあなたにダイアナの名を与えます。よろしくお願いします」
優しくそっと背を撫でる二人。それに呼応するように、一鳴きすると強く指輪が光り、ペガサスと二人が淡い光に包まれた。
どうやら無事に主従契約が結べたようだ。
それにしても、やはりフローリアの命名は女神シリーズだった。そして今回は、どちらもローマ神話の月の女神ときたもんだ。双子ということで、この名前を選んだのか。……この世界のどこでそんな知識を得てるんだ?
「それでカズキさん。お二人はペガサスさんに騎乗されるとして、他はどうしますか?」
「ミレーヌはホルケに乗ってくれ。ホルケの真の姿なら飛べるから」
「本当ですか!?」
俺の言葉を聞いた瞬間、慌てるようにホルケを召喚するミレーヌ。そんなに焦らなくてもいいのに。そしてゆきは初めてみたホルケにびっくりしていたが、次の瞬間真の姿に戻ったホルケ=フェンリルを見てもっと仰天した。
ちなみにホルケもペガサスたちも、召喚獣としての立場を理解しているのか、すぐ傍によっても嫌なそぶりなども見せずにいる。そういえばペトペンたちとも仲良くしていたっけ。
「それじゃあ出発しようか。二人は試乗も兼ねてルーナとダイアナで。ミレーヌはホルケに。後はミスフェアへの道中と同じように三人でスレイプニルに……」
「カズキ」
ふいにフローリアに声をかけられた。
「もしよければ、私もホルケに乗ってもいいでしょうか?」
「え? ミレーヌがいいというのであれば、かまわないけど……」
「はい。私ならかまいません。フローリア姉さまとご一緒します」
「わかった。じゃあフローリアはミレーヌとホルケで」
そう言うと、フローリアはミズキに何か話しかけてから、ホルケの元へ行きその背に乗った。狩野姉妹も既にペガサスに騎乗している。
俺はスレイプニルを呼び出して、その背に乗る。
「ミズキ、行くぞ」
「あ、うん」
少しボーっとしていたミズキの手を、馬上から引っ張り上げるようにして前に座らせる。
「よし、それじゃあ出発!」
俺の声に合わせ、4つの影が空高く飛び立った。
誤字修正。思いっきりゆきがフローリアの意見無視してて笑った…




