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68.そして、挨拶と観光へ

 根拠のない疑惑を否定して、俺たちは一路狩野家へ向かった。

 道中フローリアに、周りに仲間内以外の人も大勢いるが、言葉遣いなどをどうしようかと聞いたが、


「ここはグランティル王国領土ではありません。なので……ね?」


 と言われた。要するに敬語やかしこまった態度は不要だと。こういうのは何て言ったっけ。無礼講……とは違うな、旅の恥は掻き捨て……もっと違うし。

 ともあれ賑やかしい&華やいだ雰囲気のため、必要以上に注目を集めた一行は賑々しく町を進んでいった。


 しばらく歩いていくと、つい先日もお邪魔した屋敷が見えてくる。屋敷全体が見えるほど近付いた頃合で、エレリナさんが説明をしてくれる。


「あちらが私共、狩野の家です」

「お兄さんは知ってるもんねー。前は私の部屋にも入ったしぃー」

「カズキ、どういう事ですか」


 あーもう。絶対ゆきちゃんわざと言って遊んでるな。ドラマやアニメ、漫画とかの文化で多種多様な物語に触れてないと、そういった煽りなどに慣れないんだろう。

 ……あ。屋敷の前にいる人って、十兵衛さんじゃないか? となると、またアレやるの? なんて思ってる間にも、エレリナさんとゆきちゃんがすっ飛んでいった。やっぱりやるのね。




「さっそく来てもらえて、嬉しいぞカズキ殿」


 不思議な親娘挨拶を済ませ、俺達は屋敷に案内された。二十畳ほどの広間で、当然床はすべて畳だ。

 部屋にはいるなりフローリアが、両手で畳をぺたぺたさわわさと触りまくる。


「カズキ、畳です! こんなに広い畳の間です!」

「本当に好きなんですね……」

「ははは。そちらのお嬢さんは随分と畳が好きなようだ。よかったら、質の良い畳をいくつか都合しますぞ」

「本当ですか! では数はどうしましょうか、えっと……」

「フローリア。その話はあとで」

「あ…そ、そうですね」


 少しだけ我に返り、恥ずかしそうに頷く。旅先で気持ちが大きくなってはちゃけたという自覚があるのだろう。

 あらためて俺達は十兵衛さんと向かい合って座る。対面には十兵衛さんとゆきちゃんだ。エレリナさんはミレーヌ護衛の意味もあるので、こちら側に座っている。


「改めて、よく来てくれた。そちらのお連れの方々も、遠路はるばるようこそ」

「お気遣い有難うございます。この彩和には是非とも来たいと思っていましたので、大変嬉しく思っております」


 座布団にきちんと座った状態で、軽く頭を下げながらフローリアが返答する。


「そうであるか。して、貴女を含むそちらの方々はどなたですかな」

「これは申し訳ありません。私は……」


 すっと立ち上がり、軽くスカートをつまみカーテシーをする。


「グランティル王国第一王女フローリア・アイネス・グランティルと申します。以後お見知りおきを」

「なっ……お、王女様ですか!?」

「へ? 王女ぉ!?」


 十兵衛と並んで見ていたゆきちゃんが驚きの声を上げる。心境としては「本当に!?」というよりも「なんで王女がいるの!?」という方が大きいか。

 思わず言葉を飲み込む二人は、エレリナさんを見る。


「間違いなくこの方はグランティル王国の第一王女です。そして、こちらの方はグランティル王国国王の弟であるアルンセム公爵が娘、ミレーヌ・エイル・アルンセム様です」

「そ、それでは……」

「はい。グランティルの王族であり、私がお仕えする御方です」

「なんと……」


 他国の王族がいきなり目の前に二人、しかも片方は王女様ときた。そんな人物と共にやってきた、もう一人にも当然目を向ける十兵衛とゆきちゃん。


「まさか、そちらの方も……」

「あ、いえ。私は普通の平民です。ミズキといいます」

「こいつは俺の妹です。貴族でもなんでもありません」


 ほんの少しだけ安堵の息が漏れる。とはいえ二人もの王族が目の前にいるのはかわりない。微妙な緊張感があるのだが、


「十兵衛様、それにゆき様。よろしければ私やミレーヌにも、気を使わず普通に接して下さい」

「そう申されましても……」

「お父様、私からも進言致します。お二方は格式などに囚われず、領民を愛するお方です。普段も領内にて会う民とも気軽に接して下さり、常に我らと同じ目線で物事を見て下さります」

「おかげで私もこんな風に接してもいいっていわれてるしね。まあ、フローリアが聖女と呼ばれる由縁も、そこにあのかもね」

「聖女!? 王女様は聖女でもあらせるのですか!」

「その様に及び下さる方もいらっしゃいます。私などまだまだですけれど」


 そう微笑む顔は、聖女という呼び名にふさわしいものではあった。俺の中では、最近は聖女ってカテゴリがちょっとばかりわからなくなってきたけど。でもまあ、史実で聖女と呼ばれた人達でも、別に非暴力不服従とかを提唱するわけでもなかった。剣の柄で他人を殴ったりしたとか聞いてもいる。

 まあ、聖女かどうかなんてのは本人が言うんじゃなく、まわりの人がどう評価するかだな。そう、まわりがどう評価するか……だ。そんなことを考えてたら、なんかフローリアに睨まれた。


「では、お言葉に甘えさせてもらおう。して、この度は何のために来られたのか?」

「その話は……カズキ、お願いします」


 そういえば先日会った時は、詳細までは話してなかったな。ストレージから正宗の刀と脇差、そしてあの手紙を取り出して、十兵衛さんの前へ置く。


「刀か……! これは、もしや『正宗』か!?」

「ご存じでしたか」

「ああ、だが……何故正宗を。いや、そもそもどこから……」

「それについては、少しばかり長くなりますが宜しいですか?」

「……宜しく頼む」


 俺の言葉にしっかりと頭を下げて願いをする十兵衛さんと、それにならって頭をさげるゆきちゃん。

 よほどこの刀に関しては重要な事なんだろう。俺はミスフェア公国の海岸にある洞窟にて、この刀を守護していた侍のモンスターがいた事、その手紙を見つけた時の事などを話した。

 あらかたの説明を終えたところで、フローリアが再び口を開いた。


「私もその場にて見ておりました。この刀は、手紙にある君主に返還されるべきだと思っております。どうか受け取って下さい」

「……確かに受け取りました。必ずや君主の元へお渡し致します」

「お願い致します。そして、もし機会がありましたら、君主様とお話できたらと思います」

「わかりました。その件も必ずお伝え致します」


 十兵衛さんはうやうやしく、その手に渡された正宗をじっと見つめた。そこにどんな思いがあるのかはわからないが、少なくとも容易に想像できることではなさそうだ。


「……さて。これで彩和における一番重要な案件は終わりました。ですので、ひとまず町を見て回りたいとおもいます。よろしいですか?」

「もちろんです。案内や護衛の方はいかに……」

「はい! 私が案内と護衛をする!」


 ようやく難しい話も終わったと、元気に手をあげるゆきちゃん。ノリとしては、友達が遊びに来たから色々案内したがるってヤツだ。


「そうですね。私だけですと最近の町には少々疎いかもしれませんから」


 エレリナさんも賛成し、ほどなく観光団体の案内をゆきちゃんがすることに。


「旗とか作ったほうがいいかな。ツアーガイド用の旗みたいなの」

「なんでそんな目立とうとするんだよ、いらないだろ」

「えーそう? 『聖王女様ご一行』とか書いた旗持ってみたいじゃん」

「やめてくれ。ただでさえこのメンツは目立つ」

「ちぇー」


 妙なノリを持ち込もうとするゆきちゃんを。なんとか止めようと説得した。やはり会話の端々で、どこかしゃべり慣れた感があって、凄く気楽に言葉のやりとりができる気がする。

 俺達の会話を聞きながら、他の人達は微妙に理解できずに見ている。


「つあーがいど?」

「旗? なんでそんな物を?」

「ゆきも時々おかしな言葉を使うが、カズキ殿も似たような事を話すのだな」

「まあまあ、そんなことよりも。では皆さん、私が案内しますので着いてきてください」


 そう会話をしめて立ち上がり、皆を連れて行くゆきちゃん。なんだろう、LoUでもマイルーム持ちだったし、どっかのグループリーダーとかやってたのかな。人のまとめ役とか好きそうだ。

 俺も立ち上がり付いて行こうとすると、十兵衛さんに呼び止められた。


「カズキ殿、皆を……娘をよろしく頼む」

「はい、分かりました」


 ゆきちゃんもエレリナさんも、強いけど親としては心配で仕方ないか。いいお父さんだね。


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