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63.そして、信頼を得たるは

「ええっと、私は海の向こうにある大陸にある、グランティル王国の冒険者でカズキといいます」


 とりあえず俺は目の前の男に挨拶をする。先ほどの若い男を部下と呼んだこともそうだが、こちらの男性は身なりこそ普通の平民っぽいが、こちらに来る時の移動速度を考えても只者でがないだろう。


「我は狩野(かの)十兵衛(じゅうべえ)と申す。……して、この地に何用か」


 先程は部下の非を詫びてはいたが、やはり俺がここに来た理由を明確にしたいのだろう。といっても、さっき言った通り本当に彩和にきたかっただけなんだけど。まあ、一度きて場所を記録した後ミズキたちを連れて来たときは、ここの君主に正宗を返すって目的が発生するけど。


「先程言ったとおり、彩和(あやと)に来たかっただけです」

「……理由を聞いてもよいか?」

「理由ですか。んー……単純に来たかった、ではダメですかね?」

「それだけの理由で、名も知らぬ大陸……おそらくかなりの遠方から、わざわざやってくるとも思えぬ」


 あぁ、そうなるか。俺にとってはそこまでの遠方って感じではないんだけど。でもこの世界の人にとっては、もしかしたら半月以上の航海くらいなのかもしれない。


「わかりました、お話します。ただし、こちらの条件を聞いてくだされば、という事で」

「条件、だと?」

「はい。貴方の素性を教えてください。こちらも出来れば軽々しく言いたくはない目的があります。それを話す必要がある人物なのか、こちらで判断します」

「……承知致した」


 こちらの条件を聞き、しばしの沈黙の後了解してくた。こちらの力量が不明なのと、そこまでして諍いを起こす必要性を計ったのだろう。


「我はこの地、彩和の君主である松平広忠(まつだいらひろただ)様に仕えし者だ。普段はこのようにして街を見回っている。今回は部下より不審な人物の報告を受けて参った」

「え? 君主に仕えてる人なの? ……もしかして十兵衛さん、ミスフェア公国にいるエレリナって人知りませんか?」

「ミスフェア? エレリナ? ……心当たりはないが、何者か」

「えっと、本人は彩和の忍者だと言ってました。そして父の君主が松平広忠様だとも……」

「……その者の特徴は?」

「特徴と言われても、んー………そうだ」


 俺は直ぐ側に【ワープポータル】を開く。繋いだ先は──ミスフェアのアルンセム公爵家の庭だ。


「すみません、少しだけ待っててもらえますか」

「何をする気だ?」

「今ここにエレリナさんを呼んできますので」

「それは……転移の術か」

「はい。術者が記憶した場所へ移動する魔法です。すぐに戻りますので」


 そう言って俺は【ワープポータル】へ入った。




 瞬時にアルンセム公爵家の庭に出る。やはりこちらはまだ夜……静けさからして、思いっきり夜中という時間帯のようだ。

 しばらく動かずに待機していると、家の方からやってくる人物がいた。


「……カズキ様、ですか? いったいどうして、というか何故こんな時間に……」

「すみませんエレリナさん、実は……」


 予想通りエレリナさんが来た。この家でミレーヌ様を護衛する彼女であれば、敷地内に誰かが入ればきっと来るだろうと思った。なのでこんな時間で申し訳ないが出向いてもらった。

 俺は手短に彩和へ到着して、そこでちょっとしたトラブルに巻き込まれた事を説明した。

 そこで話をした男性の名前が、狩野十兵衛だと言った瞬間、エレリナさんの表情が驚きに染まった。


「エレリナさん、もしかして知ってる人ですか?」

「……はい。私の、父です」

「…………えっ」


 普通に驚いた。いや、この世界って時々俺に対して都合のいい展開になるから、もしかしてってことも考えたけど。だってエレリナさんって髪の色が日本人……じゃない、彩和人ぽくないし、十兵衛さんもエレリナさんを知らないって言ったし。


「私の名前は偽名です。本名は“狩野ゆら”と申します」

「えっとゆらさん、ですか」

「はい。でもできましたら呼ぶのは……」

「あ、今まで通りエレリナさん、ですね」


 ちなみに後から聞いた話だが、なぜエレリナという名前にしたのか聞いたところ、本名の名前と苗字をこちらの国と同じように入れ替えた“ゆらかの”を、いろは順に5つ上げると“えれりな”となるとか。

 自分の父親が気付いてくれなかったことに、少し不満だったようだ。

 とりあえずエレリナさんを一度彩和に転移して、十兵衛に俺の事を警戒しないように話をしてもらうことにした。説得だけしたら直ぐにもどってもらう予定だが。

 念のため敷地の隅にスレイプニルを召喚しておく。そして魔法障壁をはっておけば、泥棒もよっぱらいも入ってくることはないだろう。




 すぐさま彩和へ転移して戻る。


「お待たせしました、こちらが……」

「お父様ッ!!」

「ゆらかっ!?」


 お互いの姿を確認した瞬間、互いの間合いをゼロにして即一合。……おいおい。

 出会って……というか再会して、即0秒で斬り合うってどんな親子だよ。こんな親子か。

 返す刀でもう一斬り結んで、そしてお互いはなれる。

 エレリナさんも十兵衛さんも、武器を納めて軽く頭をさげる。


「お父様、お久しぶりです」

「ゆらよ、元気であったか」


 そして普通に挨拶してる。これって忍者の挨拶で、普通のコトなの? できればこの父娘(おやこ)だけにしてほしい。


「なんだ。エレリナという者を連れてくるといっておったが、ゆらのコトだったのか」

「みたいです。俺も今さっきエレリナが偽名だと教えてもらいました」

「お父様、今は少し時間がありませんので手短かに話します。こちらのカズキ様は、我が主人のアルンセム公爵令嬢ミレーヌ様の大切な人であり、将来の旦那様です」

「えっ、ちょっ……」

「そして隣国のグランティル王国の第一王女フローリア様の将来の旦那様でもあります」

「は? 俺そんなはな……」

「近々国を繋ぐ貿易街の領主になる予定もあり、皆から大きな信頼を得ている人物です。私からも進言します。カズキ様を信頼し、どうか力を貸してください」

「あ、うん。それは嬉しいんだけど……」

「……そうか。ゆらがそこまで言うのであれば、承知した」


 あれ、結構な親バカ。確かに助かるけど、どこか腑に落ちない要素が満載だった気がする。でもなんだろう、これで変に否定して「やっぱやめ」とか言われたら困るな。


「ありがとうございますお父様。ではカズキ様、慌しく申し訳ありませんがやはりミレーヌ様の側にいないと不安です。ですので……」

「わかりました」


 俺はまた側に【ワープポータル】を出す。エレリナさんが入り、転移したのを確認して消す。向こうにいるスレイプニルには魔法で繋がっているので、こちらから意思を伝えた後送還した。

 とりあえずコレで信用はしてもらえるのかな。


「カズキ殿。まさか今日ここでゆらに会えるとは思ってもいなかった。……礼を言う」

「いいえ、そんな」


 しっかりと頭を下げられて礼をいわれた。どうやら信用は得たようだ。


「ちなみにあの転移魔法は私ならいつでも使えますので、これからは時々こちらに遊びにきたいのですが、よろしいですか?」

「おお! それはいい、歓迎します」

「ありがとうございます。エレリナさん……ゆらさんの主であるミレーヌ様や、隣国の王女フローリア様も彩和に興味がありますので、近いうちい遊びにきたいと言ってました」

「そうですか。……それは先程の術による、お忍び訪問か?」

「多分そうなりますね。だからあまり大事にはしないでいただけるとありがたいです」

「承知した」


 その後、十兵衛さんに連れられ街の大衆食堂に案内された。どうやら、ここは十兵衛さんが首領となる狩野という忍者一族の本陣らしい。ここで店員に十兵衛に会いに来たといえば、すぐに十兵衛もしくは狩野の者が対応してくれるとか。無論食事もオススメだといわれた。

 ふと視線を感じると、店の奥の方にいる男性と目があった。……ああ、彩和に来て最初に声をかけてきた人か。

 そんなわけで、ここが本陣ということなので【ワープポータル】の位置を森の中から、この食堂の裏手の影に変更させてもらった。

 これでやっと落ち着いた。とりあえず朝食を注文して、これからのことを考える。


 まあ、皆を連れてくるのは決定だけど、時差問題があるんだよな。向こうが夜が明けるとこっちがもう午後すぎてヘタすれば夕方だ。

 どうにかうまく時間のズレを解消する方法は……あ。あるじゃない。

 おそらく可能だろう。現実(むこう)の世界で過ごして時間経過を調整すればいい。

 ログアウトの際に俺に触れていればいけるんだから、ミズキとフローリア様、それにミレーヌ様とエレリナさんに服でも掴んでもらってログアウトすればいい。

 よし、それなら時間は何時くらいに……


「おまたせしました。焼き魚定食です」


 おお! いいねこの和食の朝ってのは。

 とりあえずこれを食べ終わってから、いろいろ考えることにしよう。


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