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61.そして、心と思考の休息へ

今後への軽い繋ぎ的な回です。

 公爵家に戻り昼食を済ませた後、俺は皆と話し合いの場を設けた。

 といっても、会議というよりも俺が決めたことを話して、その指示にしたがってもらうようにした。

 まず今回手にした正宗の返還にかんしてだが、ひとまず俺が一人で彩和へ行くことにした。そして向こうで【ワープポータル】を登録してから、改めて全員を連れて彩和へ行くということに。

 今回は海を延々渡るという事、距離が比較にならないほど遠方だという事、この二つを考慮して一人でいくことにした。俺一人なら速度も上げて、一気に進めばかなり速く進めるはずだ。

 予定を話した後、俺は少しだけ休憩をして夕方前に出発をした。




 そんな訳で、今俺は海上をスレイプニルで駆け抜けている。広い海原の上をただひたすらに直進しているので、おおよその体感速度でしかわからないが、おそらくミスフェア公国へ移動してた時の数倍は速いと思う。とはいえ相変わらず魔法障壁での結界なのか、風圧も加重も感じない。ドローンで水上を低空撮影した映像を、大きなスクリーンで見ているような不思議な感じだ。

 最初は多少流れる景色を見ていたが、すぐに搭載したばかりのブラウザ機能でネットを見始めた。しばらくいろんなページを見ていたが、時間の経過とともに段々と眠気が押し寄せてきた。恐らくは高速道路で延々と単調に進んでいると眠くなってくる、あの現象に近いのだろう。


「俺は軽く眠らせてもらう。もし何か不審なことがあったら起こしてくれ」


 そうスレイプニルに頼んで仮眠することにした。多少申し訳ないかなという気持ちもあったが、眠気には勝てずに直ぐに意識を落として寝てしまった。




 ……なにやら揺さぶられるような感覚で目が覚めた。何だろう、と数秒ほど考えた後、がばっと起き上がる。

 案の定走りながらスレイプニルが、俺を軽く揺すり起こそうとしてくれていた。


「ありがとう。えっと、どうしたんだ?」


 思わず声にだして聞いたが、スレイプニルとは魔力を通じてある程度の意思疎通ができる。俺以外には誰もいないので、声に出す必要もなかったな。

 しかしスレイプニルはちゃんとこちらの声もきいており、すぐさま返事が返って来る。どうやらこの先進行方向ほぼ正面で、船が襲撃にあっているらしい。

 それをどうするか決める前に、周囲をざっと見渡してみる。無論目印になるような物は何一つないが、水平線の向こうに太陽が沈もうとしていることから、水上を走り始めてから2~3時間経過したのだなと推測できる。


 こうしている間にも、かなり襲撃されているであろう場所に近付いた。だが幸いにもほぼ日が落ちてしまい、暗い海面を失踪するこちらに気付くことはなさそうだ。

 そしてこれは嬉しい誤算だが、LoUではHPは自動回復しないが、MPは自動回復する。しかも座って休憩することにより、その速度は上昇する。なのでダンジョンなどでは、比較的安全と思われる場所や別フロアへの移動ポイント付近は、しゃがんでMP回復をしているキャラが大勢いた。今回馬上で寝ることで多少の回復を期待していたのだが、思った以上に効果があったらしく、寝ながらの進行だと消費よりも回復量が勝りほぼ全快していた。おそらくわずかに減っているのは起きてから減った分だろう。

 つまり寝ながら移動すれば、延々と進めるというわけだ。これなら体感時間的にも大幅に短縮できそうな気がする。


 とはいえ、まずは前方の件に関してだ。既にこちらかは確認できるほどには近づいているが……どうやらどこかの貿易船が襲われているようだ。それが海賊っぽい風体の集団……あれはスケルトンか? またかよって思ったが、どちらかと言うとこっちの方がソレっぽいな。

 しかしこれなら話が早い。襲う怪物と襲われる人間、よほどの理由がなければ人間を味方すべきだ。スレイプニル指示を出す。海面上を大きくジャンプして、一気に貿易船の甲板へと降り立つ。


「な、なんだ、馬!?」

「馬の化け物!?」


 突然現れた俺……というかスレイプニルに、応戦していた人たちが驚き声を上げる。そして襲撃していたスケルトンの海賊たちも、突然の乱入者に戸惑っているように見える。


「私は旅の冒険者です! 今からモンスターを駆逐しますので、退避して下さい!」

「わ、わかった! 全員さがれ!」


 俺の言葉にリーダーと思われる男性が反応して指示を出す。それを聞いて数名の人間が、注意をしながら後退していく。この船の護衛にやとわれた冒険者たちらしいが、多勢に無勢なのか消耗が激しそうだ。

 彼らが甲板から退避し、周囲にはモンスターしかいないのを確認したのち剣を抜く。相手がアンデッドなら炎属性や聖属性魔法がいいのかもしれないが、炎属性の攻撃魔法は船舶上での使用は不安がある。聖属性に関しても、こっちのキャラでは十分な攻撃魔法を覚えていない。ならば単純に打ち砕いていくのが一番なのだろう。

 試しに近くにいたスケルトンを打ち砕いてみる。あっけなく砕かれた後、再生するようなこともなく魔石らしきものを残して砂になった。普通のモンスターなら死骸が残るが、このスケルトンが特殊なのか元々そういう特性なのか、きれいさっぱり消えてしまった。

 スレイプニルは俺が下馬すると、すぐに後退した冒険者たちの方へ向かい、追撃しようとしいたスケルトンたちを強烈な蹴りで文字通り一蹴していた。

 数はそこそこいるが、無限と言うわけでもない。俺は武器を構え直すと、スケルトンの集団に飛び込んで行った。




「助かりました。ありがとうございます」


 この船の責任者らしき人物が頭をさげる。それに倣い周囲にいた者達もみな礼を述べる。

 海上での襲撃ではあったが、冒険者がいたため大きな被害が発生するようなことはなかったらしい。ただ、それでも数に押し負けるところだったらしく、俺がきたことにすごく感謝された。


「無事でなによりです。たまたま近くを通りかかったものですから」

「たまたま、ですか? こんな海の上をどうやって……」

「こちらの馬ですよ。これはさる方から借りた神聖な魔獣でして、とある届け物をするために遠方へ向かう道中でした。見つけられたのが偶然です」

「そうでしたか。本当にありがとうございます」


 とりあえずそれっぽい理由を曖昧にして話しておく。本当の事を言う理由もないし、なによりややこしいから。それにこの人達も、理由とかより助けてもらえたことに感謝してくれてるからそれでいい。


「それでは来て早々ですが、私は先を急いでおりますので」

「えっと、なんのお礼もしておりませんが……」

「かまいませんよ。そうだ……」


 ふと思い出してストレージを見る。ああ、まだたっぷり持ってるな。


「よかったらこちらをどうぞ。私の国では馬車などに使う魔除け札です。数枚お渡ししますのえ、船の四隅と中央にでも貼って下さい。低級モンスターであれば、それだけで近寄るのを防ぎます」

「これはかたじけない。何のお礼もできないのに、こんなものまで……」

「気にしないで下さい。自己満足ですから。それでは!」


 そう言ってさっとスレイプニルで海原を駆け抜けて立ち去る。海に降りて走り出した瞬間、後ろの方から驚きの歓声が聞こえた。やはり色々と詮索されるまえに、立ち去って正解だったかな。

 とはいえ、さすがにお腹がすいてきた。馬上で睡眠がとれるとはいえ、食事に関してはやはり止まって取らないとダメなようだ。それでも現実(むこう)で取るなら時間を進めなくてすむし、そのまま休憩するのもありだと思う。

 なのでUIのマップを見る。表示範囲をひろげてみると、進行方向ほぼ正面に小さな島があるようだ。なのでそのまま進んでいくと、じきに小島が見えた。ちょっとした植物はあるが、人が探索するほどの規模もない小島だ。だが俺の目的からすればそれで十分。島に上陸して、スレイプニルを送還した。海の上でログアウトしてしまうと、おそらく召喚主が消えるのでスレイプニルも消えてしまう。その状態でログインすると、俺は海へドボンという可能性が高いからだ。……簡易ゴムボートとか、こっちの世界になさそうだし。

 まあ、いいか。とりあえず一度戻ろうか。






 現実世界で一人夜食をとる。もともと食事は一人だったが、あの世界へ行き来するようになって、複数人数で食事をすることも増えた気がする。少なくとも、ただ事務的に腹を満たすだけの行為では、なくなったと思っている。

 だからなのか、一人で食べているとつい食事の手が早く動き気がする。そういうクセがついてるのか、この一人の時間が好きじゃないのか、そのあたりはよくわからないけど。

 ただ、やはり大勢で居る時よりも考える時間は多くなる。食事が終わり、今日はもう向こうへ行くつもりがないのでベッドでぼんやりと考え事をしていた。


 先程船の上で倒したスケルトンの海賊集団。アレを倒した時、スケルトンの性質なのか砂となって崩れてしまい魔石が残された。だが、洞窟で倒した侍は砂にならず綺麗に消えてしまった。

 おそらくだが魔石が出てきた方、船の上で戦った方が普通だったのだろう。あの侍は、カテゴリこそスケルトンになってしまうが、あの正宗を守護する意志の存在だったのだろう。その正体も理由も、いまだ不明だけど。


 そもそも彩和という国が日本に、正確には戦国時代に酷似いているという認識。これが本当に似ているのだろうか、という疑問もある。

 彩和と日本の類似という感想も、元を正せば俺がうけた感想だ。俺の知識で『戦国時代はこうだった』という認識が、そのまま反映されたものが彩和なのであれば、俺が……というか史実が間違って認知している事が、そのまま反映されているのかもしれない。

 もちろん常識的な反映ではあると思う。戦国時代に飛行機や車もなければ、近代兵器の類もない。あと空想物語にあるような、戦国武将が実は女の子って方向性も架空だと思っている。

 だが実際に正宗を持った存在がいて、エレリナさんのような忍者もいる。彼女の父親が使える主君も、後の世を治める徳川へと繋がる者。

 ……あれ? もしかして、エレリナさんの父親は服部半蔵とか、そっちの系譜なのか? とすればエレリナさんの名前も偽名? 彩和について【ワープポータル】を設置したら、戻った際にミレーヌ様に仕える理由と一緒に聞いてみるか。たぶん今なら教えてもらえそうだ。


 例の如く、寝転がって考え事をしていると徐々に意識が途切れ始めた。

 こうなったらもう寝るしかない、というのはこれまでの人生経験だ。昔はスマフォを見ながらうつらうつらして、眠気が押し寄せて来たタイミングで顔にスマフォを当てる、などという失態をよくやっていた。

 最近はスマフォこそないが、この睡眠導入が日常になってきている。

 ゲームを作っていた時なんかは、この切羽詰まった瞬間に名案が浮かんだりしてたんだよな……なんてことを思い返しながら、俺はゆっくりと意識を沈めていった。


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