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6.それは、大で小を超える

お盆休みで少し書き溜めたので1話投稿します。次の投稿は予約投稿の20:00です。

前回のあの場面からの続き。

「お兄ちゃん。お兄ちゃんってば」


 背中に汗が滴り落ちる。全身がどうしようもないほどの寒気におおわれている気分。なのに心臓のはやがねが、恐ろしいほどに鳴り響いている。寒くて熱い、まさに生き地獄。


(なぜ、何故ここに“ミズキ”がいるんだ!? というか、この世界に何故!?)


 先ほどから思考は『何故』ばかりが延々と繰り返されている。おそらく原因というか、俺のログアウトについてきてしまったのだろう。だが、それによってこの世界──リアルに実体化してる理由がわからん。

 まあ、実際問題俺のPCからLoUにインすると、LoUに酷似した別世界に行けるのだって不思議と言えば不思議なのだけど。

 とりあえず原因解明は後回しだ。今はこの状況を、ミズキにどうにか説明をしないと。


「あっ!」

「っ!?」


 にこりと笑ってミズキは可愛らしく拍手を一回うつ。まあ、ミズキは自分の行動を“拍手”なんて名称がついてること知らないだろうけど。というか、それこそ今はどうでもいい事だ。


「ここってお兄ちゃんの、秘密の部屋とか何かでしょ?」

「えっ……」


 一瞬何を言われたのか理解できず、ポカーンとしてしまった。

 それをミズキは言い当てたと思ったのか、嬉々として自分の考えを言い始めた。


「やっぱりー! だって、いきなり転移した先が、こんないろんな本のある部屋で……」


 そういいながら本棚を見るミズキ。たしかにそこには本がいっぱいあるが、仕事用のプログラム関係の専門書が少しと、あとほとんどがマンガやラノベだ。とはいえミズキは、そんな本の種類を知らないのだろう。本といえば、文字びっしりの専門書、みたいな感じだと思っているんだろう。


「そこの不思議な魔道機器? なにかわからないけど、すごいって事はわかるよ」


 今度は俺の前にあるPCを指差す。これは本以上に理解できてないだろうけど、自分の知識外の物なので魔法の道具か何かだと思っているらしい。


「他にも、壁や天井にあるもの、全て見慣れない不思議なものばっかりだもん」


 室内照明の丸型照明や、壁にあるエアコンやテレビ。それらも魔道機器認識なのだろう。……もしテレビが映ってて、人間がうごいてたらミズキはどんな反応したのかな。ちょっとだけ気になった。

 しかしミズキがうまく誤解してくれてる。これならもしかして……そう思ってミズキを見ると、さっきまでの笑顔が少し萎れ、申し訳ないような表情を浮かべた。


「でも、ここって本当は秘密……なんだよね」

「あー……、うん、そうだな」


 ミズキの解釈とは少し違うが、秘密だということは間違いない。なのでそこは肯定しておいたが、目に見えてミズキの元気がなくなる。


「ごめんなさい。勝手なことして、お兄ちゃんの迷惑に……」


 あ……そういう事か。

 要するにミズキとしては、俺が秘密裏に研究とかする場所へ勝手に入り込んでしまったと思い、気に病んでいるわけだ。それでこんなにも悲しそうにしてるのか。


(……仕方ないなぁ……)


 今にも泣きそうなミズキの頭にそっと手を置いて、ぽんぽんと軽く叩く。一瞬びくっとなるも、その触り方で怒っているわけじゃないと理解したようで、ゆっくりとこっちを見る。


「別に怒ってないよ。確かに秘密にしてたけど、ミズキならいいかなって思うし」

「えっと……本当に?」


 先ほどまでの震えるような声が、少しばかり元気を取り戻したようだ。


「本当だ。それに……今日はミズキの誕生日だ。少しくらいのわがままなら、いいよ」

「……! うん、うん……ありがとう、お兄ちゃん!」


 心底ほっとした笑顔を向けるミズキを見て、NPC相手とはいえ「よかった」と本心で思った。

 どんな状況であれ、他人が悲しい顔をしているのってイヤだから。

 この後、とりあえずこの部屋の事をうまくごまかして説明した。といっても、ここは特別な仕掛けが施されていて、ここにいる間は元の世界=ミズキたちの世界の時間は止まる、という事だけだが。

 だが、それによって家でほったらかしになっていると思っていた母さんへの懸念も無くなったようだ。

 そうなると、あと一番の問題は……そう。



──ミズキは、元の世界に戻れるのか?



 こちらに来てしまった時の状況を鑑みるに、俺と手を繋いだ状態でログインすれば戻れそうなのだが……はたして上手くいくだろうか。しかし、まずはそれしか方法が思い浮かばない。

 ……よし、男は度胸だ。あと、女も度胸。




「じゃあミズキ。戻るぞ、いいな?」

「……うん」


 俺の言葉に返事をして、差し出した手を握ってくる。まあ、とりあえずこれしか方法はなんだから、出来なかったら戻ってきてまた考えるか。

 そう気持ちを切り替えて、ログイン画面へ進み……インした。






「えっ、わ!?」

「おっと、な、なんだ!?」


 いつもの感覚が瞬間的に過ぎ去った直後、何かがぶつかるような感触と共に視界がブレた。どうやらミズキがぶつかってきたらしい……ということは、無事に戻ってこれたようだ。

 おそらくログアウト直前、こっちにやってきてたから、ログインし直した時に直前の運動ベクトルの都合でふらついたようだ。


「あらあら。もう15歳なのにミズキったら、いつまでもお兄ちゃんっ子ね~」

「な、わ、私は別にっ……」


 慌てて反論しようとしたミズキだが、タイミングを見計らったように玄関から父さんの声がした。どうやら帰ってきたようだ。「はいはい~」と母さんが迎えに行ってしまった。


「あ、ちょっと! お母さんっ」


 部屋を出て行った母さんに向かって声を掛けるミズキ。それを唖然と見ていたが、ふと気付いてあわててメニューを開く。ミズキはまだ向こうをみたままだ。すばやく[システム]を選択して、続いて[ログアウト]に触れた。






「ミズキは……居ないな。ふぅ……」


 自室に戻ったことを認識した瞬間、あわてて背後を見て安堵の息を吐く。

 今後、何か理由があればミズキをまたここに連れてくるかもしれない。しかし、とりあえずそんな予定はないし、事故で連れてきてしまうのも考え物だ。


「とりあえず、今度こそ誕生日プレゼントを……」


 とりあえず過去のイベントで取り扱ったアイテムのリストをざっと眺める。

 ミズキはステータス的にはかなりの高位だが、その実ガッチガチの剣士系で、魔法に関してはからっきしである。

 そうなると選ぶ装備は、剣がいいか。そういえば使ってる武器は店売り品だったな。なので、今度は片手剣に的をしぼってみてみる。

 ……。

 …………。

 ………………あ。


「これとか、いいかもしれない」


 それは以前、まだLoUのサービスが盛況だった時代のイベント商品武器。片手剣だが、その剣自体に色々な魔法が付与してある、という設定がなされている。

 実際この武器の効果は、


  ・HP自動回復(小)

  ・MP自動回復(小)

  ・全パラメータ上昇(小)


 こんな感じになっている。要するに持っているだけで、恩恵を受けることができる武器だ。ちなみに装備している必要があるが、NPCの場合は武器を複数持ち歩くことはないので、自動的に恩恵を受ける。

 ……まだ、スロットは空いてるな。

 このLoUでは武器に色々な特殊能力を付与するには、武器に設定されているスロットに特定の魔石や専用のアイテムを組み込むことで行う。

 武器のスロットは店で売ってる物にもあるが、同じ名称の武器をドロップ品として入手するとスロットが一つ多い武器が手に入る場合が多い。だから店売り品は“つなぎ”として使用されることがほとんどで、ちょっと冒険に慣れたころにはドロップ品を使用するのが基本的な流れだ。


 とはいえ、あの世界はどうなんだろう。LoUとは違い、敵が武器や装備を直接ドロップするような仕様ではなさそうだ。少なくともオーク種の討伐において、LoUで設定されているドロップ武器の類は一度も出なかった。それほど珍しいドロップでもないのに、100体以上倒して成果0なのは偶然とは言いがたい。

 もしかしてスロット概念がない? もしくは、既存武器を加工してスロットや能力を付与する?

 少なくとも、LoUのドロップ品概念が通用しないならば、それに変る手法や流通があるはずだ。その辺りもちゃんと調べたほうがよさそうだな。


 確かにあの世界はLoUに酷似している。けれどまったく全てがゲーム仕様というわけではない。そうなるとプログラムを修正・変更しての仕様変更は、ちょっと慎重になったほうがよさそうだ。『解体魔法』の実装は勢いでやってしまったが、自キャラ以外のプログラムやデータを弄るのは、少し様子見か。

 そう結論付けて、俺は改めてミズキにあげる武器を見る。

 付与されている効果は主に自衛を手助けするためのもの。LoUでもこの効果が付与されている武器は、かなり貴重だったが、あっちではどうだろう。もっと貴重かもしれない。


 ……この効果の“(小)”ってのを、せめて“(中)”にしちゃダメかな。


 そうすればミズキの危険度も更に減るし。

 なんとなくそんな事を考えてしまった自分に気付き、改めて自問してみる。

 俺は、この“ミズキ”ってキャラをどう思っているんだ?


 改めて考察すると、どうにも感情のやり場がむず痒い気がする。

 よくこういった異世界モノみたいな所にいる仲の良い異性ってのは、恋愛対象だったりするのだが……うん、それは何か違うな。確かにミズキは可愛い。設定上の“妹”という要素も、マイホームシステムの仕様上あるだけで、実感としてはあまりない。

 というか、そもそもNPC妹キャラは仕様設計段階から携わってきたし、ユニークネームとしてマイホームの妹に“ミズキ”とつけたのも俺だ。まあ、名前の由来は単純で、“カズキ”を元に、女子の名前によく使う“美”=“ミ”を使って“ミズキ”にしただけなんだが。

 そう考えると……そうだな。心情的には恋人とか妹とかより、親の気持ちに近い気がする。


 そうか、親か。

 親なら……仕方ないよね。


  ・HP自動回復(大)

  ・MP自動回復(大)

  ・全パラメータ上昇(大)


 なのでこうなった。


 親バカってこういう事なのかな?

 いや、だって妹娘(ミズキ)が傷つくところなんて見たくないから。


今回はここまで。

作者も主人公もいまだ手探り状態。

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