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58.それは、迷いし魂の依頼

 仕切り直してやってきた冒険者ギルド。今回もミズキと二人だ。

 クエストへの同行は許可したためか、フローリアもミレーヌもすんなりと見送ってくれた。というか、あの後フローリアとミズキの三人で、ホルケの背に乗ったりしてたもんな。逆にギルドへ行くぞと声を掛けた時、ミズキの方が名残惜しそうだった。お前のランクアップのためにやるクエだからな?

 建物内に入りカウンタの方を見ると……あ、さっきの受付嬢がまだいる。かるく会釈をして、そのままクエストボードの方へミズキと見に行く。今ミズキはDランクなので、俺と受ける場合は+2ランクのBランクまでは受けられる。ちなみにミズキがBになっても、さすがに+2ランクのSは不可だ。引率である俺と同じAまでしか受けられない。

 というわけでBランク辺りの、よさげなクエストがないかな……と見ているのだが。


「お兄ちゃん。何と言うか……あまり高ランクのクエストが無いね」

「そうだな。それだけ平和だってことなんだろうけど、冒険者としてはおまんまの食い上げってトコか」

「兄ちゃん面白い言葉知ってるな。それは彩和の言葉か?」


 ギルドの片隅のテーブルに座っていた男が、俺の言葉を聞いて興味深そうに聞いてきた。というかこの人は、さっきギルドに来て外壁を触ってた時話しかけてきた人だ。


「ええ、まあ。稼ぎがなくなって、おまんま……飯が食えなくなるって意味です」

「ほぉ……なるほど。たしかにこの国は交易中心だからな。冒険者より商人の方が多いってもんだ」


 なるほど。言われてみればクエストボードにある依頼も、モンスター討伐よりも他の国や街などへの護衛任務が多かった。この国へやってくる大半の冒険者は護衛だ。だが一緒にきた商人たちは、用事を済ませてすぐ帰るわけじゃない。何日も滞在することもあれば、ここから船で更に移動することもある。冒険者の方もそれをわかっているから、護衛任務が終わると次の護衛=出発側の護衛を探すわけだ。


「それじゃあ手ごろなクエストとかは無さそうだな」

「なんだ兄ちゃん、手ごたえのあるクエストでも探してるのか?」

「ええまあ。妹が先日冒険者登録したばかりで、まだDランクだからそれを上げようと……」

「ちょっとまて。先日登録したと言ったか? それでDランクだと?」


 そう言って真剣な目をミズキに向ける。ミズキはその目力に一瞬ひるむ……なんてことはなく、普通に受け流している。本能的に卑猥な視線ではなく、力量を測る視線だと理解しているのだろう。


「……そうか。そのお嬢さんがお前の妹か。もしかしてだが……俺より強くないか?」

「「「「!?」」」」


 その言葉に、なんとなう聞き耳を立てていた室内の冒険者や受付嬢は、一斉に驚きの声をあげる。


「おいおい、なんだお前ら。他人の会話を聞いてるんじゃねえよ」

「あ、いや。そんなこと言ってもギルマスの声がでかいんですって」

「は? ギルマス!?」


 驚いて思わず聞いてしまう。この目の前のおじさん冒険者がギルマスなの?


「おっ、言ってなかったか? ここの冒険者ギルドのギルドマスターのゼリックだ」

「あ、はじめまして。グランティルの冒険者カズキです」

「えっと、その妹のミズキです」


 俺の名前を聞いて何人かの冒険者が驚いた声をあげる。一応王都にいるAランク冒険者として、そこそこ有名らしいんだよな俺。


「なるほどお前さんがカズキか。そして妹のミズキか。なるほど、確かにここのクエスト内容じゃ満足できないだろうな」

「え? 私のことも知ってるの?」

「おう。王都のグランツとはギルマス仲間でもあるが、古い友人でもあるからな。だから面白そうな話だって教えてくれたぞ。お前さんが冒険者登録して最初に達成した依頼が、オークを100体以上とオークロードを討伐してきたってな。しかもカズキとパーティーを組んでるのに、戦ったのは妹だけとか。なんの冗談かと思ったさ」


 ゼリックの話を聞いた周囲の人たちは今度はミズキを見る。とてもじゃないが、今ここにいる冒険者たちに同じことは出来ないだろうと。


「まあそんな訳で、登録をしてなかったからランクが低いけど、ミズキの実力を考えると早々にランクを上げておきたいんですよ。そうじゃないといざという時、ランク不足で受注できないとかイヤですから」

「なるほど。つまりお前さんの同行ならBランクが受けられるから、その位の難易度を探していたってわけだな」

「はい。ですがここでは、幸か不幸かBランク以上のクエストは無さそうなので……」


 ない物ねだりは仕方ない。そう思って帰ろうかと思ったのだが。


「なあ。お前たちの腕前を見込んで、少し頼みたいことがあるんだが……いいか?」




 ゼリックに連れられ、ギルドの奥の部屋に通された。応接室のような場所で、立派なソファなどが置いてある。おそらく冒険者ギルドに来た貴族などへ応対する部屋なのだろう。そんなところへ通すということはそれだけの内容であり、出来る限り受けてくれという意味も込められているのかもしれない。


「お前たちに頼みたいの、ある洞窟の調査だ」


 さてどんな依頼かと思ったが、意外にも調査依頼だった。だけど……洞窟? そんなもん、ミスフェアにあったっけ?


「このミスフェアの東側には砂浜があるのは知ってるか? その砂浜むこう端は大きな岩場になって、そのまま断崖の下側になっている。そこに洞窟があるころが最近わかってな」

「わかったって事は、もう調査したんじゃないんですか?」

「無論やった。もし危険なモンスターの巣窟にでもなっていたら、それこそ脅威だからな。だが実際には、今すぐ危険がある……という事はなさそうだ、という結果になった」

「ん? なんとも言葉尻の悪い物言いだけれど、どういう事ですか?」

「洞窟を入ってすぐの所に少し開けた場所があるのだが、その先に屈強なスケルトンがいるんだ。どうやらそれは門番らしく、その先の通路へ向かおうとすると途端に攻撃をしてくる。こちらが諦めて通路まで撤退すれば、それ以上は追ってこないのだ」

「スケルトン、ですか? こんな言い方はなんですけど、Dランクもあれば十分なモンスターでは?」

「そう、思うのだがな……」

「普通のスケルトンではないと?」

「ああ。何度か手練(てだ)れの冒険者と様子を見に行ったが、その強さはDランクは無論、Bランク以上かもしれん」

「それで今はどうしてるんですか?」

「とりあえず近寄らなければ問題ないので、入り口を封鎖して入れないようにしてある。何も手立てがなければ、このまま永久に関わらないという手段もありかと思ってな」


 なるほど。要するにその正体不明のスケルトンの攻略難易度が高く、調査依頼でありながらもBランクは下らないというわけだ。

 ただしここまで話を聞いてしまったが、どうしても気になることはある。


「何故、俺たちに?」

「まあ偶然ってのが当然大きいが、きちんと動ける人材かどうかだ。お前さんはここらじゃ有名なAランクだから問題ないし、そっちの……」

「……私ですか?」

「おう。譲ちゃんも相当強そうだ。それにオークの討伐だが、あれって巣穴に乗り込んでの成果らしいな。それなら洞窟内での戦闘にも、問題がないって事だろ」


 なるほど、理にはかなってる。洞窟内ってのは基本的に狭い。(くだん)のスケルトンは広間にいるらしいが、その先の通路で同じような敵がいないとも限らない。ならば狭い通路でも問題なく動ける人物を指名するのはもっともだ。


「後は……お前、さっき彩和の言葉を口にしてたな? あっちの事詳しいのか?」

「何でもってわけじゃないけど、多分ここで彩和と取引してる人よりも詳しいつもりです」


 まあ、実際には彩和ではなく日本なんだけど。けれど食べ物や言葉、漢字なんかは完全に日本ベースで構築された国っぽい。


「なら分かるか。その洞窟のスケルトンなんだが、彩和の武器と防具を装備しているんだ」

「彩和の武器と防具……。つまり、刀と鎧?」

「やっぱり知ってるか。そういう格好をした騎士をなんて言ったかな、えっと……」

「武士もしくは(さむらい)ですか」

「ああ、そうだ。彩和の商人との雑談で、侍について聞いたことあったが、たぶんそれだ」


 つまりそのスケルトンってのは、彩和の侍の成れの果てということか? 何故こんなところに……というか、そもそも侍なのか? 武士だというのであれば、和文化に染まった傭兵かもしれない。だが本当に侍なのであれば主君に仕えるべきであり、こんな場所にいるのはおかしい気がする。


「とにかくその刀が何でも斬りやがってな、挑んだ冒険者の剣を片っ端から切り落としやがった。それを見て冒険者は無論、こちらも迂闊に手をだせなくなった」

「つまりそのスケルトンは、姿だけじゃなく本当に刀を扱えると」

「ああ。確かに刀は優れた武器だが、そこに技術がなければ他の剣と対してかわらん」


 まあ俺の場合は、武器が変わると勝手にモーションが切り替わるようなもんで、自動的に適した動きができてるだけなんだけど。気分としては剣だろうが刀だろうが、同じ斬る武器として扱ってるだけだし。


「まあ、そんな訳でお前たちに依頼をしたい。正直なところ暫定難易度だが、危険だと判断すれば撤退すれば相手は追撃してこない。どうだ、受けてはくれないか?」

「俺はいいけど……どうする?」


 ここで初めてミズキに話をふる。この部屋に入る前に、俺が許可するまで話をしないように言っておいたからな。


「私はいいと思う。何より、お兄ちゃんが気になってるでしょ?」

「……わかるか?」

「わかるよ。兄妹だもん」


 気になっている内容はわからないと思うけど、その状態だということは気付かれていた。普通の兄妹とは違うんだろうけど、確かに愛情はある存在だからな。それにまあミズキのステータスなら、よほどの敵が出て来ても問題ないだろう。


「ゼリックさん。その依頼を受けます。考えていたクストの方向性とはかなり違いますが、個人的にもう聞かなかったことにできない気がするので」

「こっちから言い出しておいて、本当にいいのか?」

「はい」

「そっちのお譲ちゃん……じゃねえ。冒険者ミズキも」

「はい」

「……わかった、よろしく頼む」


 こうして俺は、まったく予想もしてないクエストへ挑むことになった。

 まあ問題はないと思うけど、一度戻ってフローリア様たちにも説明しないといけないな。……こっちの侍とかについても、少しエレリナさんに聞いてみるか。


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