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57.そして、秘めたる志

 王都での用事も終わり、俺はミスフェアへ戻りミズキたちに話をした。

 王都の『憩い広場』の扱いと俺の関係についてフローリアに聞いたところ、


「あそこは現在カズキが管理している土地ですよ?」


 と、しれっと言われた。故にあの場所にある飲食店などの収益のいくらかが、俺が何もしていないのは入ってくる仕組みになってしまっているとか。さすがにそれはどうかと思ったのだが、あの広場の初期工事費用とを考えれば全然足りないほどだといわれてしまった。

 確かに本当に(・・・)工事をしたのであれば、そうなのだが……いかんせん、俺がやったことは現実(むこう)の世界で王都広場のテクスチャを切り替えて、少々設定ドキュメントを修正した程度。

 なのでやはり、と思ったがフローリアは、


「カズキ様がどのような手段を用いたとしても、出された成果に対する皆の評価された結果です」


 今ここで、あえて()付けで呼んだということは、その発言が友人フローリアではなく、第一王女フローリアとしての言葉だという事だ。ならばもう、これ以上は何もいう事はない。ありがたく受け取っておこう。


「それじゃあ、もしミスフェアに土地を購入するならどうすればいいか。やはり商業ギルドとかが、土地管理をしてるのかな」

「えっと、そういう話は……エレリナ、わかる?」

「はい。仰った通り商業ギルドが土地管理をしております。ただ実際に購入する際に、可能であればフローリア王女からの紹介状のようなものがあれば、かなり融通の利いた場所を都合してもらえる可能性があります」

「そうですか。ならば、よろこんで紹介状を書かせていただきます」

「あの、内容はほどほどにして下さいよ」

「……よろこんで紹介状を書かせていただきますっ」


 ──何を書くつもりだよ、おい。




 とりあえずミスフェアでの土地購入に関しても、やはり領主であるアルンセム公爵に話をしてから。そういう事となって一旦この話を切り上げた。


「ねえお兄ちゃん。もう今日はクエストを見に行かないの?」


 時刻の程は、まだ日が十分高い時間だ。王都での用件も、ただ会話をするのみに終始したため、簡単なお使いほどの時間しかとられなかった。


「そうだな……よし。改めてクエストを見に行くか」

「うん!」

「また二人だけで、ずるいですわ」

「そうです、ずるいです」


 俺の言葉に賛同するミズキと、不満ぶーぶーのフローリア&ミレーヌ。とはいえまず二人を伴って、冒険者ギルドのある街の中央にいったら目だって仕方ない。

 それにクエストに行くとなれば、フローリアは特例クラス持ちだが、ミレーヌは……ミレーヌってどうなんだ?


「ミレーヌ。君はクエストの経験とか、そもそも心得とかはあるのか?」

「力はあると思います。ですが実戦経験は、その……」

「無い、と?」

「………………はい」


 なるほど。能力に関しては、いわゆる王族補正とでもいうか、フローリアと同じ様に神聖魔法が使えるとかそういう類のものだろう。だが11歳という年齢と家柄ゆえに、冒険に行く必要性が皆無であり、経験がないのもあたりまえだ。それにフローリアはLoUでの公式イベントにおいて、プレイヤーパーティーに参加して共闘する特殊NPCだった。そのための内部管理パラメータでEX-S(エクストラ・エス)なんて、非常識なランク設定までされている始末。

 つまり言い換えると、公式イベントどころか設定資料もないミレーヌは、世界観に則った強化はされているが、運営意思による強化は施されてないのだろう。


「ミレーヌはまだ11歳だ。冒険者ギルドへの登録は、一般は15歳から。王族や特殊な力を認められた一部の者は同等資格を13歳で獲得できるが、それにもまだ2年ほど足りない」


 このあたりはフローリアが14歳だが、ランク保持者である事に対して補足ドキュメントにあった内容だ。ミズキも15歳になったから冒険者登録をしたんだったな。


「ランク無しの人間を冒険者パーティーに入れることは不可能だ。かといって、クエストにただ同行されても、その安全を保障できるかわからない」


 まあ、本音を言えば俺とミズキが居るなら、全然そんなことはない。でも俺たち二人はイレギュラーだと自覚している。フローリアも大概だが、彼女の守護系魔法はほとんどがパーティーメンバーを対象にしたものだ。きちんとパーティーを組めない人間への加護は、たとえフローリアでも著しく低下する。


「ミレーヌが冒険者登録できない限り、自分の力のみで安全を保障できなければ……」


 そこまで言って、俺は思わず言葉を切ってしまった。それを見て周囲の皆は訝しげな顔をする。だがそれにも気付かず、俺はある考えにたどり着いていた。


(ミレーヌが自身を守る力って……全然あるよな?)


「あの、カズキさん……?」

「あ、いえ。すみません」


 下から覗き込んだミレーヌに、思わず見透かされたような気分になった。無論そんなつもりはまったくないのだろうが、あまりにもタイミングがよすぎた。


「丁度いい、というのかわかりませんが……。一つ、ミレーヌに教えておきたい事があります。皆さんも一緒にお願いします」




 そして庭に移動。一番広い場所へいき、そしてミレーヌを呼ぶ。


「それではホルケを呼び出してください」

「はい。おいで、ホルケ」


 かざした指輪から、すーっと光が漏れ出しすぐに白銀の毛並みをもつオオカミへと変わる。その傍らに立ちミレーヌは、そっと頭をなでてやる。

 元々召喚獣は主に従うものだが、そこにある信頼関係は短時間ながらも非常に強いとわかる。これならば申し分ないな。


「ではミレーヌ、少しホルケから離れて下さい」

「はい。…………このくらいですか?」

「そうですね。では指輪に魔力をこめながら、こう叫んで下さい。『(しん)なる()を示せ、ホルケ』と」

「はい」


 ミレーヌはゆっくりと深呼吸をし、そして手をホルケの方へかざす。



(しん)なる()を示せ、ホルケ!」



 瞬間、ホルケの周囲を光と風の渦が舞う。ホルケを中心に光の竜巻でもおきたように。

 だがそこに不快なものはなく、力強いのに優しく、鋭いの温かかな『風』を感じた。

 そんな超常的な風もすぐに収まると、そこに居たのは──白銀を纏いし、大きなオオカミだった。

 ミズキもフローリアもエレリナも、それが先程のホルケだというのは理解していた。でも、その存在があまりにも大きくて脳がなかなか理解しようとしない。

 そんな中、一人ミレーヌだけはいつもの笑顔を浮かべる。


「ホルケ、おいで」


 その言葉を聞いた大きなオオカミは、音もなく主の下に頭を垂れる。ミレーヌの前にさしだされたその頭は、それだけでミレーヌが乗れる大きさだ。その頭にわふっとしがみつくミレーヌ。


「ホルケ、凄いわ! とても凛々しくて、それでいて強く輝いて」


 抱きつかれたホルケも目を細め、毛づくろいをされて寛ぐ動物のように喉を鳴らす。よく見るとしっぽがふわんふわんと軽やかに振られている。この上なく上機嫌なようだ。ミレーヌがホルケの真の姿、神話に登場するフェンリルと呼ばれていた存在の姿に、どう反応するのか心配だったが杞憂のようだ。もしかすると、ホルケも自分の姿を見たミレーヌの反応が、気になっていたのかもしれない。

 存分なハグを堪能したミレーヌを見て、俺は一応説明をはじめた。


「この姿はホルケの真の姿です。この状態だと低級な魔物は無論、おそらくこの世界のほとんどの魔物が近寄ってこないでしょう。ホルケをこの状態で維持すると、魔力消費は普段よりも多くなりますが、それでもミレーヌであれば半日持続して、少々疲れたかなと感じる程度です」


 頭からミレーヌが離れたのを見たホルケは、こんどはミレーヌの前で地べたに伏せる。そして頭を傾けて自分の背中の方を示す。


「どうやらホルケは、背中に乗るように指示しているようですね」

「ではホルケ、お願いしますね」


 ミレーヌがホルケに乗るのはこれが初めてではないが、この大きさのホルケに乗るのは初めてだ。さらに言えば、ここまで大きな生物に乗ることも初めてである。

 ホルケの背中にちょこんとまたがろうとして……その横幅により、崩した正座──いわゆる『女の子座り』になるミレーヌ。そして手をそのまま自分の前についた状態で、ホルケがすくっと立ち上がった。


「わわ……って、あれ? 全然揺れない……」

「お嬢様、大丈夫ですか!?」

「ええ、大丈夫です。ホルケの力なのでしょうか、全然落ちそうな感じがありません」


 立ち上がったホルケの背中は、ここにいる誰よりも高いのだが、そこにいるミレーヌの声にはまったく怖いという様子がない。

 それをホルケも感じたのか、軽やかに庭を跳ねるように動く。大きなホルケには公爵家の庭とはいえ少し手狭に見えたが、それでも軽やかに動き回るホルケの上でミレーヌは楽しく笑った。

 そんな光景を見ている俺の隣にフローリアが来る。


「これでミレーヌの同行は問題なし、という訳ですね」

「はい。あとは……」


 じっとフローリアを見る。その視線に気付いて、ニコリと笑顔を浮かべる。


「大丈夫です。私もちゃんと同行しますよ」


 とびっきりのチート王女が満を持して微笑んだ。

 これだけの戦力で挑むのが、Dランク冒険者のランク上げって……戦力過多だよなあ。


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