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56.それは、持ち得ない商人魂

少し20:00には遅れてしまいました。

 人生で初めての写真モデルを済ませ、妙に心労を蓄積したような気がする。

 まあでも、ペット召喚獣たちと触れ合うのはやっぱり面白い。次第に三人が写真を撮ってることもわすれ、まったりとじゃれあっていたら段々と羨ましくなってきたのか、いつの間にか自分のペットと遊び始めていた始末。

 なので最後に、そんな三人をスクショ撮影しておいた。全員が映ってるいいスクショも撮れたので、あとで皆にコピーしておいてやろう。




 そんな俺だが、今はミズキと二人でミスフェアの冒険者ギルドへ向かっている。フローリア様とミレーヌ様もついて来る気満々だったが、人が大勢いる場所に王女と領主令嬢を連れ歩くのは目立ちすぎると断った。これに関してはさすがに理解してもらえたので、今は二人だけで行動中だ。

 教えてもらったとおりに歩いていくと、見えてきたのは冒険者ギルドの建物。さすがに王都のものよりは小さいが、建物が新しいのかとても清潔に見える。そのまま建物に入ろうと思ったが、少しばかり気になって建物の壁に触れてみる。

 白い壁は多少ごつごつしており、触った感じもどこかひんやりとしている。なるほど、さすが海辺の交易国だな。


「お兄ちゃん、何してるの?」

「いや、この壁……面白いなと思って」

「何が面白いのですかな?」


 声がした方をみると、一人の壮年男性がこちらを見ていた。といっても、別に睨まれてるとかではなく、俺が何をしているのだろうと疑問をもっているという感じだ。

 別に隠すようなこともないので、俺は思ったことを素直に言うことにした。


「この壁ですが……たぶん、細かく砕いた貝殻を混ぜ込んだ漆喰(しっくい)……土の壁ですよね」

「ほぉ、分かるのかね」

「はい。細かく混じっているのは乾燥させて砕いた貝殻で、それによって調湿効果や海風の影響を壁が受けないようにされてるんですね」

「……よく知ってるな。ここを経てた時の関係者か?」

「いいえ。グランティル王国のしがない冒険者です。この国には今朝初めて来ました」

「なるほど。いや、すまんかったな。建物の壁を面白そうに触ってるヤツなんて、初めてみたものだから気になってな」


 そう言うと男性は冒険者ギルドの中へ入っていってしまった。どうやらここの冒険者らしいな。

 ちなみに先程のような知識だが、ゲーム会社の人間ってのは実は結構雑学が必須だ。無論無くても構わないが、ゲームを作るうえで幅広い雑学は非常に有用である。

 例えばここミスフェア公国みたいな、交易を主にしている港国の場合。当然港は必須だが、それと同時に陸路も整っていなければならない。また敷地内に配置される建物も、何の建物なのかという意味と同時に場所も重要になってくる。この国の人間の導線としての役割が、街の構成ですでに敷かれているのだ。また、この世界には海風による(さび)対策用の、防腐剤塗料なんてものは当然存在しない。ならばどう対処するべきか、『この世界の人間ならどう考えるか』を想像し、それを設定しなければならない。

 こういう細かい部分というのは、誰も気にしない=違和感を感じないので気にならない、という事でゲーム仕様としては地味だが非常に大事なことだ。


「んじゃ俺たちも入るか」

「うん。ここのクエストって何か面白そうなのあるかな」


 建物内に入ると、室内の視線が一度こちらを見る。王都の冒険者ギルドなら、すぐに視線は戻っていくのだが、今日はこっちがよそ者なので結構見られたままなのを感じる。とくにミズキに対しての視線が多いようだ。見た目で判断するなら駆け出し冒険者もいいとこだしな。……実際、駆け出しではあるのか。

 とりあえずカウターへ。まずよその国の冒険者が、こっちで問題なくクエストを受けれるのか確認しておかないといけないからな。


「ようこそ。ご用件は何でしょうか?」

「少しお聞きしたことが。グランティルの冒険者なんですが、こちらミスフェアのクエストは受けることは可能ですか?」

「はい、大丈夫ですよ。確認のためギルドカードの提示をお願いします」


 俺とミズキがカードを差し出す。まず俺のカードを、ギルドの水晶板に載せてチェックをする。これは討伐記録などを見るというより、過去の犯罪歴などをチェックするためのものらしい。別におかしいところは何もないだろう……と思っていたのだが。


「あれ? こちら……カズキ様のカードですが」

「はい。どうかしましたか?」

「えっと、王都の商業ギルドからの呼び出しがありますね」

「え。商業ギルドですか?」


 商業ギルドから呼び出し? 一体なんだろうか。俺が商業ギルドに関わったのって、以前王都の広場の土地を都合しようとした時だけで、あとは特になにもないハズだ。何よりあの土地は王家管理だったため、フローリア様経由で話を通してもう何も問題ないはずだが。


「あの、用件とかってわかりますか?」

「申し訳ありません。そこまではこちらでは……。あ、カードお返しいたします」


 戻ってきたカードをしまいながら考えるが、まあ心当たりはないな。

 続いてミズキのカードの確認をした。こっちは特になにもなくすぐに返却された。まあ、もしも討伐記録とか見てたら驚いたかもしれないけど。なんせ登録したばかりの新人冒険者が100を超えるオークと、オークロードを討伐しているんだから。この辺りの記録は基本的にギルドマスターしか見ることができず、それ以外で見る場合はクエスト結果報告時に、限定的に受付員が確認するだけとなっている。


「一度戻ります。今度は何かクエストを受けますので」

「わかりました。それではまた、よろしくお願いします」


 何かしらの要求があるようなので、クエストを受けずにギルドを後にした。内容がどんな事から想像つかないが、まあすぐに往復できる環境にはなっているんだ。とりあえず王都に言って用件を聞いてきたほうが気楽になるってもんだ。


「それじゃあちょっと王都の商業ギルドに行ってくる。すぐに済む用事なら終わらせてくる」

「わかった。私は戻ってフローリア様たちにその事教えておくね。あとは……そうだ、もし時間がかかるような話だったら?」

「それなら話だけ聞いて、一度こっちに戻ってそこで話すよ」

「了解~。んじゃいってらっしゃーい」




 とりあえず王都に設置した【ワープポータル】のうち、冒険者ギルド前へ跳んだ。たんに商業ギルド前がなかったので、こちらにしただけで用事はない。だが丁度跳んできた俺を見て、声をかけてくる人が。


「カズキくんこんにちは。エリカが探してたわよ」

「え? あ、ユリナさん。こんにちは。エリカさんってことは、商業ギルドですか?」

「らしいわね。ってカズキくん。商業ギルドで呼び出しって、何かしたの?」

「いえいえ、何もしてませんよ。して、ない……ですよね?」

「私に聞かれても」

「ごもっとも」

「とりあえず伝えたわよ。時間があれば商業ギルドへ行きなさい」


 それだけ言ってユリナさんは冒険者ギルドの中に入っていった。丁度何かお使いでも行ってきた帰りだったのだろうな。それを見送っておれは、当初の予定だった商業ギルドへ。

 さほど離れていないので、すぐに到着。ここに来るのは2回目だ。なんでそんなにも馴染みのない所に呼ばれてしまうのやら。


 中に入ると何人かがこちらをチラリとみて、すぐに視線を戻す。さっきのミスフェアの冒険者ギルドとは違ったなにか慣れた空気だ。だが、俺を見て一人だけ表情を変えた人物がいた。


「あ! カズキくん、やっと来た!」


 受付に座っているエリカさんだ。しかしまあ、ユリナさんとエリカさんは本当にそっくりだ。設定では双子姉妹となっていて、ゲーム内での立ち絵も左右反転した絵にそれぞれのギルド受付制服を着せている。なので服や装飾以外の部分は、ドット単位でシンメトリーである。


「こんにちはエリカさん。なんか俺、商業ギルドに呼ばれてるって……」

「そうよ。以前一度来たきり、その後は何の音沙汰もなんだもの」

「そう言っても、前の話はもう終わってますよね?」

「んー……そうね。とりあえずカード出して。それからの方が話が早いわ」


 ギルドカードを求められたので素直に渡す。それを先程メスフェア公国でやったよに、水晶板の上に乗せてチェックをする。そして水晶板が輝いたと思ったら、ギルドカード情報に追記がされた。

 その内容とは、


 『商業ランク F』


 ……あれ、そうなんだ。一応LoUでは表示はされないけど、キャラを作った時点で冒険者ランクも商業ランクもFランクに設定されている。でもこの世界では商業ギルドで設定しないかぎり、それが表面化することはないのだろう。

 まあ、別に商業ランク表示がされたからって何か不都合があるわけじゃない。なので別に……と思った矢先、もう一度水晶板が輝いた。


 『商業ランク E』


 ……は? 商業ランクがE?

 疑問はあったが、まったくもって身に覚えがないため、何を聞いたらいいのかわからない状況だ。それを察してくれたのかエリカさんが説明をはじめてくれる。


「あのね、以前王都の広場の土地……王家管理の土地の話をしたでしょ? その後、あそこをどんな手品をつかったのか知らないけど、カズキくん使用権利をとってきて色々やったよね? アレ、表面的には王家がこの王都市民に向けての施設設置となっているけど、実情では土地借用中のカズキくんが指揮をとって施設運用をしていることになっているの」

「……は? 俺が指揮運用?」

「そう。それであの広場……えっと『憩い広場』だったかしら。あそこの動物たちと遊ぶ施設は無料開放だけど、周囲の店や屋台とかは利益の何%かを運用費として支払ってるわけ。当然その中にはカズキくんへの支払いも含まれてるのよ。だからカズキくん、気付いてないかもしれないけどもう十分商人に仲間入りしてるのよ?」

「……えー」


 商人とか、全然わかんないんだけど。もとよりLoUでの資金運用とかって、そういう事じゃなかったからよく分からないよ。もしかしたら、良く知ってるスタッフが何か仕様を残していったのかもしれんけど。

 ともかくよくわからないうちに、俺は商業ランクがひとつ上がったらしい。

 ちなみにFからEに上がるためには、普通は早くても半年ほどかかるらしい。俺みたいに一ヶ月もかからずに上がるのは異例だとか。


「あのー……エリカさん。この事って周りの人には……」

「大丈夫よ。王家管理の土地が絡んでいるから、軽々しく話題になることはないわ。ただ……」

「ただ?」

「商業ギルドマスターと担当者の私、後はそういった事情に詳しい、大手の商人達には知れ渡ってるでしょうね。でも王家が後ろにいるから、横から利益目当てで近付いてくるような人はいないと思うわ」

「そうですね、そう願いたいものです」


 そうか……商業ランクってのもあったな。ならいっそ、ミスフェア公国とかなら、土地を買って別宅とか用意してもいいんじゃないか? そうすれば自分の家なんだから、室内に【ワープポータル】設置してもまったく問題なさそうだし。

 とりあえず用件はこれだけか。ミスフェアに戻ってその辺りを相談して検討してみるか。


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