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55.そして、文明開化の艶(いろ)とする

 写真の撮り方をレクチャーすることになった。だがその前に、つい忘れがちなことを一つ確認。


「あの、アルンセム公爵はどれ位でご帰宅なさいますか?」


 よくよく思い返すと、一昨日に遠方へ出かけたという話を聞いたのみで、戻ってくるのが何時なのかということをまったく聞いていなかった。


「予定の日程は10日ほどとなっております」

「んー……そうか。それじゃあきちんとご挨拶するのは、またの機会とするか」


 本来であれば公爵にきちんと挨拶をした後、許可をもらって敷地内に【ワープポータル】を設置する予定だったが、とりあえず仮で敷地内の木陰に設置することにした。一応ミレーヌから許可をもらったが、これは公爵が帰宅後に改めて伺うためのものだ。許可をもらうまでは、仮設扱いとしておこう。




 そんな訳で、とりあえず敷地内に【ワープポータル】を仮設置。これでひとまず、ミスフェア公国への移動が飛躍的に向上した。というか、近場のコンビニへ行くより早くなった。

 当初の目的の中でも、かなりの重要案件を終わらせたので、随分気楽になった。……まあ、何をするにしてもそんなに気を張ってることはないけど。


「カズキ、用件は済みましたか?」

「ああ、大丈夫だ」

「ならお兄ちゃん! さっそく……」


 フローリアとミズキが指輪をはめた手を目の前にかざす。それを見てミレーヌも手をあげる。


「ああ、写真の撮り方だな?」


 俺の言葉に三人が強く頷く。この世界には写真という文化はない。なので、自分が見た風景がそのまま絵になって記録できる写真、これは特別な魔法みたいな感じなのだろう。


「えっと、それじゃあまずは……」


 別に難しいわけじゃないけど……と思いながら周囲を見渡す。何をしてるかって、もちろん被写体探した。何でもいいんだけど、写真を撮る対象を決めて実践したほうがいいからな。

 期待に満ちた表情でこっちを見る三人を見て、ふと思い付く。被写体が欲しいな。


「ミズキ。ちょっとペトペン呼び出してくれ」

「うん、いいけど……何?」


 そう言いながらも素直にペトペンを呼び出す。呼ばれたペトペンも、ミズキに目的意識があって呼び出したわけじゃないので「?」という雰囲気を醸し出している。


「ちょっとペトペンを庭の真ん中あたりに……そうそう、そのあたりに立たせて」

「カズキ、ペトペンさんをどうなさるんですか?」

「あれは被写体だよ。えっと……写真を撮る目的対象ね」

「ああ! 写真の練習をするための、ですね」


 俺の言葉に納得がいったと頷く三人。写真撮影ってのは漠然と「何でもいいから撮れ」と言っても上手くならないだろうし。


「それじゃあ写真の撮り方を説明するぞ。といっても、別に難しいことはなにおなけど。とりあえず……ミズキ。こっち来て」

「うん。それで、どうすればいいの?」

「まずは撮りたい対象の方を向く。この場合はペトペンな」


 そう言って俺は指ででの写真撮影方法を教える。無論、指輪にカメラ機能があるとかではなく、その指輪に付与した機能が結果的に写真を撮影したような結果になるようにしたのだ。

 この指輪に持ち主が魔力を送り込み、写真用の(フレーム)を呼び出すのが開始合図だ。すると指輪、というか手の甲側に四角いフレームが魔力で表示される。あとはその枠を覗き込んで、『撮影する』という意思を魔力で送り込めば完了だ。

 創りだした魔力フレームは、そこに表示される=バッファに表示データが生成された、ということになりあとは順番読みだして画像ファイルに変換するだけだ。変換した画像ファイルは可逆圧縮して、指輪に増設した簡易ストレージに保存という仕組みだ。


「お兄ちゃん。これって撮った写真はどうやって見ればいいの?」

「おっと、そうだった。この枠に撮った写真を見たいと魔力を流せば、一番最後にとった写真が表示されるんだ。後は遡っていけば以前とった写真も見られるぞ」

「えーっと……わ、ほんとだ」


 ミズキはさっそく先程撮影したばかりの写真を呼び出して表示する。一緒に話を聞いていたフローリアとミレーヌも同じようにしてみる。

 三者三様に撮ったペトペンを見て、フローリアとミレーヌが一旦フレームをしまう。そしてフローリアはアルテミスを、ミレーヌはホルケを呼び出す。二匹とも、呼び出されるとすぐペトペンの傍へ行き、三匹で仲良くじゃれはじめる。

 そして再び三人が撮影を始める。次第に動き回りながら、よいアングルを模索するかのようにして撮影をしていく。……そのうち「いいねぇ、かわいいよ~」とか言い出さないかと少し不安になったり。

 しかしまあ、あの召喚獣同志も仲いいもんだな。主人が仲良しだからその影響もあるのか、などと考えていた所、


「カズキ。写真、とても楽しいですわ」


 ひと段落したのかフローリアが声をかけてきた。


「喜んでもらえたようで何より……」


 こちらの喜びを伝えようと声の方を振り向くと、フレームを構えたフローリアと目が合った。


「……えーっと?」

「ふふふ。上手に撮れましたわっ」


 微笑みながら今撮影した写真を呼び出すフローリア。そこには振り向いた俺の少し照れたような顔が映し出されていた。……今撮られたのか?


「お兄ちゃん。何してるの?」

「あ、いや、これは……」

「……なるほど、こうか」


 そう言って同じように構えたミズキのフレーム内には少し焦ったような俺の顔。いかん、なんか今俺がいろいろ撮られてる。この流れだと多分……


「あ、あの、カズキさん……」

「……なんでしょうかミレーヌ様」

「うう……なぜこっちを見て下さらないのですか。それに呼び方が……」

「あ、いえ、それはですね……」


 背後から今にも泣きそうなミレーヌの声。いやいや、絶対ミレーヌも写真撮影を構えてるよね?

 別に撮られるのはイヤではないけど、こうやってあらたまって構えられるとはずかしい。


「カズキさん、ダメ……ですか?」

「……はぁ。わかりました……」


 観念して振り向く。そんな鳴きそうな声で言われて、無下にできるほど俺の神経ずぶとくないし。

 諦めて弱々しく笑顔で振り向くと、


「はい、撮りました!」


 すっごい元気よく撮った宣言された。

 ──忘れてた。さっきも薬指の件で、この子も王族の血縁者だって再認識したばかりじゃないか。

 三人は今撮った写真を見せあいながら、あーだこーだと話しはじめる。そのうち、まだ教えてもない写真の複製や配布機能を使いこなしはじめる。なんだよその順応性は。


「いやお前ら……自分たちのペットも撮影してやれよ」


 言っても無駄かなーと思いながらも、ささやかな抵抗をする。だが以外にも俺の言葉を聞いて、三人とも素直に自分のペットの方を向く。


「ペトペン」

「アルテミス」

「ホルケ」


 三人が自分のペットを呼ぶ。何をするつもりなのか……と見ていると、呼んだ主の横を通りぬけこっちへくる。


「お? な、なんだ?」


 まず頭の上にアルテミスが降りて、続いてホルケが身体をこすりつけるように腰に接してくる。最後に正面にきたペトペンが両手を斜め前に差し出して『だっこして!』という意思表示。

 何がおきてるんだと思いながらも、抱き上げてやると……ああ、そういうことか。

 離れてこっちを見ていた三人が、無言になってこちらを撮影している。


 要するにアレだ。俺の「ペットを撮影しなさい」という言葉を守り、あくまでペットを撮影している、という事なのだろう。

 それを三人が瞬時に意思疎通して実行したと。


 ……なんだろう。“仲良きことは美しきかな”と言ったのは誰だっけ。武者小路実篤むしゃのこうじさねあつか。あー……でも確か本当の読みは「むしゃこうじ」だったっけなー。

 などと軽く意識をとばしたまま、俺はペット召喚獣三匹としばらく撮影モデルを全うすることになった。

 昔の人は言った──『写真に写ると魂が抜かれる』──と。

 こういうことかなー……なんて思ったり。


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