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53.それは、早すぎた三度目

 現在俺達は、ミスフェア公国領主のアルンセム公爵家に帰宅途中である。そして絶賛注目の的状態だ。

 確かにこの中には領主の公爵令嬢のミレーヌ様、王国王女フローリア様がいるので、それだけでも十分注目されるのだが、今回に限って一番の理由は別にあった。


「~♪ ~~♪」


 先頭を進むミレーヌ様はご機嫌で鼻歌を歌っているが、問題はその下にあった。立派な銀の毛並みをしたオオカミことホルケが、ミレーヌを背に乗せ歩いているのだ。元々ミレーヌ様は市民に愛される公爵令嬢なので、シルバーウルフに乗り闊歩しているのを見ても、きっと特別な獣だろうと思われているのかも。

 事実そんなミレーヌ様とすれ違う市民は、最初こそ驚くもすぐ笑顔で手を振ってきたりする。ミレーヌ様もそれに応えて、気付けば街の子供たちが興味津々な顔で着いてくるありさま。まあ、変に怖がられて騒ぎになるよりもいいか。


 そのまま公爵の家まで帰宅。敷地にはいる前に、ミレーヌ様が改めて子供たちに手を振る。それに対して手を振り返したり、嬉しそうに声を返したりして子供たちは帰って行った。

 そして敷地内に入ったところで、今度は召喚獣の送還についての説明をした。といっても、主が命令すれば即戻っていくというだけの事。


「それではミレーヌ、やってみて」

「はい。ホルケ、これからよろしくね」


 目を合わせて微笑みかけながら、そっとホルケの頭を撫でるミレーヌ。それに対し、優しげな声色で一声吠えると光の粒子となって送還された。

 さすがフローリアと同じ王族血筋であり、魔力の量も質も優秀な子だ。

 これでミズキ、フローリア、ミレーヌと三人に召喚獣をあげたけど、せっかく指輪があるのだから何か機能追加とかできないかな。

 あと撮影したスクリーンショットだけど、現実(あっち)のPCにはあるけど、どうにかこっちでも見ることはできないだろうか。うーん……少し検討してみるか。

 タイミング的にもひと段落して帰宅したところだ。区切りもいいと思ったので俺はログアウトをしようとする。


「あっ!」


 すると何故かフローリアが敏感に反応した。なんだろう? まさかフローリアの魔眼は、俺がUI操作してメニューをいじってるのも見えてるのか?

 そんな事を考えながらも、既にログアウト操作は無思考で実行するクセがついている。なのでメニューを開いて~という時点で、もうぱぱぱっと操作して俺はログアウトをした。






「んー……」


 戻ってきてひと伸び。少し前に戻ってきた時は、エレリナさんとの勝負中だった。彼女の予想外の強さに押され、ちょっとばかりズルだとは思ったがGMの力で押し切った。しかし忍者か……。

 彩和が日本に似た和の国だというのはわかったが、現在の文化レベルがどのあたりなのか。少なくとも着物が主流ということ、そして船による交易があることから、鎖国はしてない刀文化の時代なのだろう。

 何よりも彩和についてはLoUに設定資料は皆無に等しい。一度なんらかの手段を用いて、行ってみないとわからないんだろう。


「あの、よろしいですか?」

「ッ!?」


 以前、聞いた言葉がある。


“一度あることは二度ない、二度あることは三度ある”


 そんなのは結果論だ。同じことが三度おこった時、はじめてこの言葉は意味をもつのだから。

 でもさ、やっぱりこの言葉を思い出すくらいの出来事が三度起こるって、それはもう十分衝撃だよ。

 とりあえず深呼吸をして、そしてゆっくりと振り向く。


「えっと、なんで居るのかな?」


 そこには悪戯がばれて、いまから本気で怒られることを察した子供の様な表情の人物がいた。言わずもがな、ミレーヌである。

 ……なんでこの子達は、こちらの招待をまたずにこっちに来ちゃうかな。


「その、カズキ様が左手で何かを操作するような動作をした時、何かものすごい力の奔流を感じてそれで……」

「思わず俺の服かなにかを掴んでしまったと?」

「……はい。ごめんなさい」


 なるほど、これで合点が言った。さっきフローリアが声を上げたのは、俺がログアウト操作をしている=世界移動するというのに気付いたのだろう。もしかして、さっき何故か着いてきたときも、それに気付いてあわてて袖あたりを掴んだのかもしれない。

 いや、それよりまずはミレーヌだ。近いうちにこちらには連れてきてあげようとは思ったが、まだ顔を会わせて半日も経過してないんだよな。信頼はされてると思うけど、いきなり見ず知らずの場所にくるのは不安で仕方ないか。

 実際目の前にいるミレーヌは、いまにも怒られるのを覚悟しているかのような雰囲気だ。なによりまだ11歳の女の子。それを、どちらかというと俺のミスなのに叱るなんて無理だ。


「大丈夫だよミレーヌ。ごめんね、怖かったね」

「え……あ、いえっ、大丈夫です」


 顔を上げて俺の顔を見て、怒ってないことに安堵したのか弱々しく微笑みながらも返事をしてくれた。


「この場所については今度また説明するね。ただ、今はすぐに元の場所に戻ろう」

「戻るというと、転移魔法のようなものでしょうか?」

「それも含めて戻ってから、ね」

「はい」


 ミレーヌの返事を聞いて、すぐにキャラ選択画面を操作。


「ミレーヌ、つかまってて」

「は、はい」


 しっかりと掴んでいるのを確認して、俺はログインした。






「……っと、……カズキ。今、向こうに行きましたね?」

「えっ? そうなの?」


 戻ってきた瞬間、先ほどの続きが始まる。やはりフローリアは、俺がUI操作をする手の動きを見たからかわからないが、世界移動したことに気付いているようだ。一方ミズキはそれに気付いてないっぽい。


「え、あれ……」


 一方ミレーヌは、戻ってきた瞬間の光景に戸惑っていた。そういえば向こうに行ってる間、こちらの時間が止まることは教えてなかったな。今度改めて説明しないといけないか。


「えーっと。とりあえずフローリア、その話はあとで」

「わかりました。ミレーヌも、ですね?」

「は、はい」


 結局やろうと思っていたことをできずに戻ってきてしまった。まあ、後でしっかりと戻るか。

 それよりも、こっちで早々にやっておかないといけないことあったな。


「あのミレーヌ、それにエレリナさん」

「はい」

「はい、なんでしょうか」

「こちらミスフェア公国に転移魔法の【ワープポータル】置きたいのですが、もしよければこの近くであまり人目につかないような場所、ありませんか?」


 そう、今後移動を円滑にするために必要なことだ。一度いってその場所を登録すれば、あとは【ワープポータル】で瞬時に転移が可能になる。その事を説明し、あまり目立たないようにしたいので、良さげな場所を……という相談をしたかったのだ。


「それならば、家の敷地内とかはいかがでしょう?」

「え? こちらの敷地内にですか?」

「はい。敷地内で塀や木の影ならば、外から見られる心配もありませんし」

「……ありがとうございます。ただ、さすがに敷地内であれば、公爵に話して許可をもらわないと」

「わかりました。その際は私からも父にお願い致しますね」

「重ね重ね、ありがとうございます」

「あの、一つお聞きしてよろしいでしょうか?」


 話がひと段落ついたところで、控えて聞いていたエレリナさんが口を開いた。


「その【ワープポータル】で、彩和に行くことは可能でしょうか?」

「えっと、今は出来ません。一度その場所に行って記録しないといけませんので。ですから私が一度出向いて、そこで記録すれば後はおそらく可能です」

「そうですか。それでは、もし彩和に行ける手立てが整いましたら、一度ミレーヌ様をお連れすることはお願いできますか?」

「ミレーヌをですか? エレリナさんじゃなくて?」

「はい。私が彩和の話をいくつかしたことにより、ミレーヌ様がいつか行ってみたいと思うようになりまして……」

「エレリナ……ありがとうございます」


 気遣いにたいしてミレーヌが礼を言う。まあ、どのみち彩和には行きたかったし、絶対【ワープポータル】も設置しただろうし。

 そんな会話をしていると、離れて聞いていたミズキが思い付いたように言った。


「じゃあ今から、彩和じゃないけど王都に行ってみない?」






「……本当に、王都です……」

「まさかこんな一瞬で……」


 ミズキの提案を面白そうだをフローリアが賛成して、興味深そうにこっちを見るミレーヌに根負け。まあ、これに関しては何も苦労しないのですぐに【ワープポータル】で王都へ。

 王都内では幾つかの場所に設置してあるが、今回は城の門付近へ出た。やっぱり王都といえば城だ。

 そんな訳で一目で王都だと理解してもらった後、今度はせっかくなので憩い広場へ向かう。最後にミレーヌ様が王都へ来た時には、まだなかった施設だからね。

 道行く人がフローリア様に気付き挨拶をする。そして、一緒にいるミレーヌ様にも多くの人が気付く。二人一緒にいるところを見れて笑顔を浮かべる人も結構いる。

 そして憩い広場に到着。案の定、


「あれは、あれは何ですか!?」


 広場中央にある柵に、ウサギとレッサーパンダの振れ合い場所があり、そこを指さしてミレーヌ様は歓喜の表情を浮かべる。

 その近くには増設したドッグランもあり、愛犬家たちが犬を存分に遊ばせていた。


「ミレーヌ様、あちらで動物たちと一緒に遊びましょう」

「はい! お願いしますミズキ様!」

「私も行きますわ。エレリナ、ミレーヌのことは私とミズキさんにお任せください」

「はい、どうかお願い致します」


 ミズキとフローリア様がミレーヌ様を連れて向こうへ行った。それを見てエレリナさんは満足そうに微笑む。

 うん、これなら大丈夫だな。

 改めて周囲を確認して、俺は今度こそ本当に一人だけログアウトした。


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