表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/397

52.それは、愛しく崇めるモノ

日常話が多いのでタグを「異世界日常」としました。

 先程からミズキとミレーヌとフローリアは、ペトペンの水中視界を見る遊びを楽しんでいる。最初はミレーヌ専属メイドのエレリナさんも見ていたのだが、十分楽しませてもらったと言い、今は少し離れて三人を見守っていた。

 なので丁度良い機会だと思い、俺は彩和(あやと)国について色々聞いた。


 まず場所などを聞いてみたが、どうやら彩和国は完全な島国らしい。そのため交易に関しては、完全に船で行っているとのこと。この世界に空路での運送手段がないのであれば、船で行うしか方法がないのだろう。

 そして距離だが、ここから貨物船で10日前後の距離らしい。思ったより距離があるようだなと漠然と感じたが、これは船の積荷に配慮している為、ある程度速度を抑えて運行しているとの事。なので高速船などで移動目的でならば、もっと早く到着するとの事。

 もし彩和に【ワープポータル】が使えるのなら、一度行けばその後は楽になる。なんだったら、彩和まで行ってしまうのも手かもしれん。スレイプニルなら元々浮いているから、地面と同じように海面も駆けることが可能だろう。

 その他、幾つか聞いてみて分かったことは以下の通りだ。


 ・彩和の気候はどうやら日本と良く似ている


 ・醗酵品や醸造品は全て彩和から輸入している


 ・主な輸入品は味噌や醤油の他に酒などがある


 ・衣類は着物を主としている


 ・主武器は剣ではなく(かたな)


 ・畳がある


 ・エレリナさんは独身恋人なし


 ……いや、最後のは聞いてないけど。

 とりあえずざっと聞いたところ、こんな感じだった。大雑把に聞いただけだが、今あわてて細かく聞く必要もないだろう。

 こっちの話がひと段落ついたくらいで、丁度向こうもおちついたようだ。ミズキたちがこっちを見て手を振っている。

 ミレーヌも少し興奮気味に手をぶんぶん振って、喜びがあふれてるのが一目瞭然だ。


「すごかったです! 海の中ってあんなふうなんですね!」

「私も初めてみました。不思議な感じでした」

「私は川とかで少し見たけど、海だと全然違ってすごいね」


 ミレーヌだけじゃなく、フローリアもミズキもはしゃぐように騒ぎ立てる。こっちの世界では水族館もなければ、水中映像もない。そこでこんなものを見れば驚いてあたりまえか。心底喜んでいるミレーヌを見て、エレリナさんもどこか嬉しそうだ。


「でも凄いですミズキさん。ペトペンさんみたいな凄くて可愛いペットがいて」

「ありがとう。でも、フローリアのペットも可愛いよね」

「え! フローリア姉さまもペトペンさんを!?」

「ううん、私はペトペンではないけれど……」


 そう言ってフローリアは白いセキセイインコのアルテミスを呼び出す。呼び出されたアルテミスは、軽く俺達の周囲を一周して、フローリアが伸ばした指の上にちょこんと着地。


「かわいい……それにとても真っ白で綺麗……」

「この子はアルテミス。ペトペンさんと同じように、大空を飛んでいるアルテミスの視界を、私達が見る事もできるわ」

「すごい……」


 先程の体験をそのまま大空にしたらどうなるか、それを想像して感動するミレーヌ。まあ、空撮映像とかを見慣れてる俺でも、あんなVR顔負けの映像みたら感動するわな。

 そんなアルテミスとペトペンを見ながら、ミレーヌは何か言いたそうな表情を浮かべる。といってもなんとなくわかる。この状況で二人のペット召喚獣を見せてもらったのだ。もし可能であれば自分も……と思っても不思議はない。


「ミレーヌ」

「は、はい!」


 ただ名前を呼んだだけだが、ものすごい反応をされた。賢いこの子のことだ、自分の考えがこちらも気付いてることを理解しているのだろう。少し顔を赤くして心持ち俯いてしまう。


「よかったらミレーヌも、何かペット召喚獣欲しいかい?」

「よろしいのですか!?」


 素直に聞いたら、素直な返事が返ってきた。


「いいよ。だから聞いたんだ。ミレーヌは何か好きな動物とか、憧れの生き物ってある?」

「好きな動物……好きな……」


 俺の言葉に、真剣に悩み始めるミレーヌ。俺が何かを決めてもよかったのだが、ミズキやフローリアほどの付き合い期間もなく、どんな感じを好むのかもわからないので、ミレーヌ自身で決めてもらう事にした。幸いにもペンギンやセキセイインコを実装した後、未実装データも含め結構色々とデータを登録したので、ある程度なら希望に添えると思う。

 とはいえ、少し話が急だったかな? 別に俺達は今すぐに帰るわけでもないし、少し考える時間を設けてもいいか……と思った時、


「そうです! オオカミさん!」

「え! オオカミですか? その……こっちではウルフと呼ばれてる獣ですよね?」

「はい! オオカミとの呼び名は彩和での呼び方だそうです」


 ミレーヌ曰く、彩和に詳しいエレリナさんから聞いた話がある。彩和ではウルフをオオカミと呼ぶが、元々は彩和の文字=漢字にて『大神』と書かれていた。それは、大=偉大なる、神=人智を超えた存在、という意味を掛け合わせた、気高き獣だと。

 それを覚えており、是非ともオオカミが欲しいとの事だった。

 ……そうきたかー。随分ワイルドな動物をご所望されたな。


「……ダメ、でしょうか?」


 希望を聞かされた俺が、少し逡巡していたのを見て不安そうに聞くミレーヌ。

 うーん……まあ、いいか。逆にこれを渡すとなれば、ミレーヌの身辺はより安全になるだろう。


「いや、大丈夫だよ。それじゃあ……」


 ストレージの装備品を格納しているあたりから、一つの指輪を取り出す。以前二人にあげた指輪と同じ、召喚獣を込めた指輪だ。


「これで召喚獣を呼び出せます。指にはめて魔力をこめて下さい」

「はい。指に……」


 指輪を受け取るとフローリアの手を見て、同じように右手の中指に着ける。一瞬、以前フローリアがやった“左手薬指にはめようとする”というのをやるかと思ったがそんなことはなかった。

 指輪をした右手を前に出し、手のひらをひらいて魔力を込める。

 すぐに魔力が形になっていき、大人ほどの光が獣の像を結んでいく。そして──


「これがオオカミさん……」


 目の前に全身が銀色の毛に覆われたオオカミが姿を現した。一見すると犬のようにもみえるが、その特徴的な耳はあきらかにオオカミのもの。

 右手を突き出したまま、そっとふれるミレーヌ。その様子を見ていたエレリナが、あわてて近づこうとする。


「大丈夫ですよ。あのオオカミはミレーヌに召喚されました。なので存在がミレーヌの魔力であり、分身も同じです。絶対にミレーヌを傷つけるようなことはしません」

「……わかりました。すみません、少し取り乱しました」


 そんなやり取りには気付かず、ミレーヌはオオカミの毛を撫でながら目を輝かせていた。


「凄いです……。こんなに鋭くて輝いてるのに、手触りが上質な布をも凌ぐ滑らかさ……」


 段々触れながら手を埋もれさせるようにしていき、しまいには両手でぎゅっと抱きしめる。それでもオオカミはおとなしく、ミレーヌのしたいようにさせている。

 そんなミレーヌを見ていたフローリアが、優しく声をかける。


「ミレーヌ、この子に名前を付けてあげて」

「この子の名前……」


 抱きしめたまま顔をあげると、首だけこちらに向けたオオカミとミレーヌの目が合う。しばし見つめ合っていたが、ぽつりとミレーヌが言葉を漏らす。


「ホルケ……」


 唐突に、だがはっきりと名前を告げる。


「この子の名前はホルケにします。よろしくねホルケ」


 そう言ったミレーヌに、オオカミ──ホルケは、初めてやさしく吠える。それは主への返事のように、力強くでも優しく。

 さて。

 なぜオオカミ……しかも、全身銀色のオオカミという特殊な召喚獣が入っていたのか。

 実はこれ、ただのオオカミではない。どちらかといえば、スレイプニルとか神話級の存在に近いものなのだ。正式な名称はフェンリル。北欧神話に出てくる巨大なオオカミの姿をした怪物だ。神話に出てくる動物はスレイプニルを登録したときに、いくつか一緒に登録した。このフェンリルもその一体だ。

 まさかここで譲ることになるとは思わなかったが、これを渡しておけばよほどのことが無い限りミレーヌやその家族たちが、危害を受けることもないだろう。何よりいざ危険になったら、本来(・・)の姿でミレーヌたちを守ってくれるだろう。

 ミレーヌの許可をもらって、ミズキとフローリアもその立派な毛に触れて驚いていた。

 そんな様子を見ているとミレーヌと目が合う。そしてこちらに来てお礼を述べる。


「ありがとうございます、カズキさん」

「いいえ、こちらこそホルケをよろしくお願いします」

「はい!」


 元気よく返事をして、ミレーヌは優しく指輪をしている右手中指を左手で包み込む。

 その様子をいつのまにかこちらにきていたミズキたちが見て、


「でも私、てっきり指輪を左手の薬指にはめようとするって思ってた」

「私もそうするのではと思っていましたわ」

「……そんなわけ無いじゃないですか」


 予想が外れて意外だとミズキとフローリアが呟く。だが、それに対してきっぱりとミレーヌは否定をする。どうもこの三人では、一番年下なのにしっかりしてる気がする。

 そんなミレーヌは俺の方を向き、満面の笑顔で──


「左手の薬指は、本番までちゃんととっておきますからね!」


 ……訂正。彼女も王族(フローリア)の血縁だった。血は争えないものだ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ