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51.そして、親しき仲での礼儀なし

 エレリナさんとの勝負を終え、その後とある理由でログアウトした俺だったが、なぜかフローリアがしっかりと着いてきてしまった。


「えっと、フローリア?」

「何ですかカズキ。あと何が怖いのですか?」

「いやその……何で?」

「何でとは、どういう意味ですか。あと何が怖いのですか?」

「あー、えっと、その」

「落ち着いてください。あと何が怖いのですか?」

「…………ごめんなさい」


 負けました。なんかこの子も、ミレーヌ様とは違った意味で年相応に思えないんだよな。

 とりあえず、現実(こちら)にいるとミズキたちとの時間感覚がずれるので戻りましょう、という話でなんとか戻ることに。

 結局なんか怒られたけど、エレリナさんの前でお叱りを受けるよりは良かったと考えよう。

 ああ、そうだった。確かエレリナさんの使ってた武器、あれは──






「改めて、ミレーヌ様を宜しくお願い致します」


 異世界(むこう)へ戻って早々、エレリナさんは丁寧なお辞儀をしながら言った。そのメイド服でのお辞儀を見て、何も違和感を感じなかった事であることを確信した。


「エレリナさん。先程の短剣、一瞬ダガーかと思いましたが……あれ、苦無(くない)ですよね」

「!? ……ご存知でしたか。では……」

「はい。貴女は……彩和(あやと)国の忍者ですか?」

「…………はい」

「カズキ様、ニンジャとは何でしょうか?」

「忍者というのはですね……」


 フローリア様に忍者の説明をしながら、俺はエレリナさんの正体と彩和国について考えていた。あの動きをみて只者ではないとは思ったが、使っている武器が苦無だったのを見てなんとなく想像はついた。

 LoUにおいてのクラスにて、シーフを基礎とする上位クラスにアサシンが実装されていたが、和系国を実装するにあたって忍者もクラスとして追加するという話だけはあった。ただ話だけでクラス名も、忍者なのかシノビなのか、はたまた別になるのかも決まってなかった。

 そもそもLoU製作資料には、彩和という国名は存在しない。しかしここに来るまでに聞いた話を総合すると、彩和はどう考えても和の国……つまり、日本としか思えないほど酷似していた。ならば忍者文化があるとしたら、彩和国しかあるまいと考えたわけだ。


「カズキ様。もしよろしければ、私がミレーヌ様をこうして護衛している事は内緒としていただければ……」

「ええ、かまいません。元々話すつもりもありませんので」

「ありがとうございます」


 そう言って、もう一度先程と同じようにお辞儀をした。それを見て思わず「やっぱり」と漏らすと、何がやっぱりなのかと聞かれた。


「エレリナさんのお辞儀は和式ですよね」

「はい。やはり育った場所の慣習はなかなか抜けないものです。それに私の心情でも、こちらのお辞儀は自然に行えるので、本当に心から感謝した時はどうしてもそうなってしまいます」


 そんな会話をしながら、さらに俺はあることに気付き安堵した。和風の国の名前が『彩和』だったおかげか、今発した『和式』という言葉に疑問を持たれなかったこと。つまりこちらでも和式とか和風という言い回しで意味が通じるのだ。これは俺のような日本人には大変ありがたい状況だ。


「では、私はこれで失礼します。後はカズキ様、よろしくお願い……」

「あ、ちょっとまって下さい」


 約束通り立ち去ろうとするエレリナさんを呼び止める。そしてフローリア様に視線を向けると、無言で肯いてくれた。


「もしよろしければ、エレリナさんも一緒にいてくれませんか。元々エレリナさんを外すつもりもありませんでしたし」

「……よろしいのですか?」


 本当にいいのだろうか、という疑問が素直に顔に出たエレリナさんは、俺とフローリア様をじっと見つめる。暫しの沈黙の後、もう一度丁寧な和式のお辞儀をする。


「ありがとうございます。今後ともミレーヌ様と共によろしくお願い致します」

「うん、よろしく」

「エレリナ、改めてよろしくお願い致しますね」

「はい」




「あ、お兄ちゃん、フローリア様。お話終わりましたか?」

「ああ、終わったよ」

「ふふふ、ミレーヌったら。すごく楽しそう」

「はい! 楽しいです! 可愛いです!」


 俺達が手合せしたあと色々話している間、ミレーヌ様はミズキの召喚したペトペンと遊んでいた。当然だがミネーヌ様はペンギンを見えるのは初めてだそうだ。だが、まったく物怖じせずすぐに仲良くなったというのは流石だといえる。

 ちなみにペトペンはミズキと同じ虹色の光を、表面にうすらと纏っているらしい。これは召喚獣特有の傾向で、召喚者と同じ系統の光になるとのこと。


「こちらは……ミズキ様の召喚獣でしょうか?」

「そう、名前はペトペン。よろしくね」

「初めましてペトペン様。アルンセム公爵令嬢ミレーヌ様専属メイドのエレリナです。以後よろしくお願い致します」


 あれ。もしかして今までで一番丁寧な自己紹介挨拶しなかったか? まあいいや。

 挨拶をされたペトペンも頷くように頭をあげて一声鳴く。たぶんミズキから、目の前に居る人が挨拶をした的な情報が伝達されて返事をしたのだろう。総じて召喚獣は、普通の動物よりも知性が高くなる。


「さて、本題にはいる前に……先程の話の続きです」

「先程……ですか?」

「はい。(わたくし)、カズキ様、ミズキ様の三人。そしてそこにミレーヌを足した四人の時は、身分立場関係ない友人として振る舞う、という話です。そしてエレリナも、そこに加わることになりました」

「え! エレリナもですか!?」


 嬉しそうに自分の専属メイドを見るミレーヌ。それだけで余程信頼していることが見て取れる。


「はい。先程そのように便宜を図って頂きました。あ、でも私は基本ミレーヌ様の側にて控えているだけですので」

「そうですか。それでも嬉しいです」

「そういう訳なのでミレーヌ。これからは、いまここに居る人だけの時は、肩ひじ張らず気軽に接するようにします。いいですね」

「はい! 改めてフローリア姉さま、それにカズキさん、ミズキさん。よろしくお願いします」

「ああ。こちらもよろしく、ミレーヌ」

「うん! よろしくね、ミレーヌちゃん!」


 ミズキががばり、という感じでミレーヌに抱き付く。ついでにペトペンも逆の側面にぺたりと抱き付く。なんか俺とエレリナさんが勝負してる間に、随分と仲良くなったみたいだ。


「エレリナも、これからもよろしくね」

「はい、お嬢様。こちらこそ、よろしくお願い致します」




「さてさて、ようやく本題に入れますわ」


 ぱんぱん、と手をならして皆の注目をあつめるフローリア。なんか王女さまというより先生っぽい。


「今回ミスフェアにはお忍びで来た理由に一つは、先の通り公爵への親書です。でも、本来は遊びに来たというのが一番の理由なのです」


 王様の親書がいわゆるついで扱いとは、関係者各位が聞いたら血の気が引くんだろうな。


「その中でも一つ試したい事がありまして……ミズキ、あなたからどうぞ」

「うん。えっと、私とペトペンは魔力パイプでつながっているんだけど、そのおかげでペトペンが見ているものを見ることができます。なのでせっかくなら海の中を見てみたい……という事になりました」

「つまり海に入ったペトペンさんが見てる物を、私達も見れるということですか?」

「そうです。それでまあ、折角なのでちょっとした旅行もかねて本格的な海に来てみよう……という、まあなんとも軽い理由でやってきました」


 元々の発端は、水中で活動できるペトペンの見る世界を見てみたい、という単純な希望からだった。そこへちょうど思惑を乗せたフローリアが話を広げ、あとは交易国の彩和が和風の国だと知ったり、なぜか俺が領主になるならないという訳のわからない展開になったりしたのだ。


 ミズキが防波堤にある階段を下りて、水面のすぐ近くまで行く。そして丁度水面に埋もれている階段の上にペトペンを降ろす。


「それじゃあ今日は様子見だから、ちょっとだけお願いね」


 ミズキの声に一声きゅっと鳴くと、ざぷんと滑らかに水の中へもぐるペトペン。普段陸上でよちよち歩きをする愛らしい生き物だが、水の中での勇猛さは圧倒的だ。

 階段を昇り戻ってきたミズキがミレーヌに手をのばす。


「ミレーヌちゃん、いまからペトペンの見てる世界を一緒に見よう?」

「はい、お願いします」


 そっとミズキの手をにぎる。ミズキはもう片方の空いた手を見て、


「エレリナさん! エレリナさんも一緒に見よう!」

「え、私ですか? 私は……」


 少し困った様子でフローリアを見るエレリナさん。だけどフローリアは軽く頭を振るだけ。


「エレリナさんも、今からミレーヌちゃんが見る世界を一緒にみましょう?」

「エレリナ、一緒に見ましょう」

「…………はい、お願いします」


 伸ばされた手をそっと両手で包み込む。そしてミズキ、ミレーヌと順番に目を合わせて微笑む。

 柄にもないけど、心洗われるいい光景だと思った。

 なんか……ここに来て良かったな。


「カズキ。エレリナにまで手を出したらダメですよ」


 ……何故か、ちょいちょいぶち壊しだけど。


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