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40.それは、旅の道連れという事

「「いただきます」」

「はい、どうぞ」


 今更ながら、この『いただきます』という言葉も、製作スタッフの慣習がそのまま反映してるんだろうなと思った。グランティル王国には教会もあり、どちらかといえば食前の祈りをする方が似合ってる気もするんだけど。

 何はともあれ昼食タイム。異世界(むこう)で早々に馬車を追い越してから、手早くログアウト。そして現実(こっち)で昼食を兼ねた少し長い休憩だ。

 それでもって今回何を出したかというと、定番の組み合わせ『ハンバーグカレー』である。というのも以前それぞれをこちらに連れてきた際、フローリアはハンバーグ、ミズキはカレーを食したのだが、それをえらく気に入ったのだ。

 今回出したのはどちらも出来合いの物ではあったが、人気のある美味しいものを組み合わせて出してみたのだ。


「どうかな?」

「ふふ、美味しいです」

「うんっ、美味しいよ」


 結果は喜んでもらえたようだ。フローリアは仮にも聖王女と呼ばれるほどだから、カレーみたいなジャンクというかワイルドというか、そういうメニューは駄目かと思ったが予想外に好評だ。ミズキもハンバーグとカレーの組み合わせがお気に召したのか、幸せそうに頬張っている。

 食後にはゼリーを出した。シンプルなオレンジ果汁のみで、透明な黄色ゼリーだ。ゼリーのようなスイーツは向こうにはないらしく、ミズキは無論フローリアも見たことがないと驚いていた。そして一口食べると今度はまた驚いてくれた。これも喜んでもらえてなによりだ。


 食事の後は少しだけ休憩とした。

 なんせログアウトの前に、ちょっとばかり予定外の魔力消費があったから。MPポーションで回復すればすぐに戻せるが、とりあえず使わないに越したことはない。あと、二人には隣の部屋で少し休むように言ってある。

 食後休憩のため少しだけ眠いが、軽い仮眠を取るまえにメモをしておく。PC画面のデスクトップに貼った付箋アプリにメモを打ち込む。



 ・マイホームの拡張

 ・憩い広場の施設拡張

 ・アルンセム公爵家について(特にミレーヌ)

 ・ミズキのランク昇格



 いつも戻ってきた時などに書いたり消したりしていたが、今回はアルンセム公爵家についてと、ミズキのランク昇格の事をメモしておいた。特にミズキのランクはそろそろ上げておかないとな。

 この後、まだ少し時間があったのでミレーヌとかの資料を探してみた。だが、もともとミスフェア公国領主の設定資料はなかったのか、ミレーヌどころかアルンセムという文字すら検索にかからなかった。

 なのでアルンセム公爵家に関しては、直接確認するしかないようだな。

 ただ、フローリアと同じオッドアイならば、同様になにかしたの魔眼である可能性もある。フローリアみたいに真偽を見極める力とかだと、色々やっかいかもしれない。

 ……でもフローリアはミレーヌのことを、大人しく清楚な女の子と言ってた気がする。まあ、フローリアと仲良いみたいだし、大丈夫かな。

 おっと。そろそろ昼休憩を終わりにするかな。隣の部屋から二人を呼びもどす。


「カズキ、あの部屋の床は不思議ですね」

「……床?」

「そうそう! なんか草みたいなのが敷き詰めてあったんだけど……」

「ああ、そうか。畳だな」

「たたみ?」


 サービス終了段階のLoUは、残念ながら畳というものが存在しなかった。正確に言うと、これも実装することが出来なかった要素で、本来は『和』を基調にした国の実装も予定していた。

 実際データベース内では、和系の国のカテゴリもあるのだ。

 以前GM.カズキが使った天羽々斬(あめのはばきり)も、どこの国の系統かと言われたら和系の国だ。


「あの畳っていうのは、こっちの世界の今いる国では一般的な屋内床なんだよ」

「そうなんですか……。あの、そのタタミは私達の世界では作れませんか?」

「んー……えっとですね。おそらくですが、ずっと遠くの国には同じものがあると思いますよ」

「本当ですか!?」

「ええ、おそらく大丈夫かと……」


 向こうの世界でも畳が入手できるかもという話をすると、なぜかフローリアは嬉しそうに手をくんで破顔してしまった。そんなフローリアを若干こまった感じで見ていると、ミズキがこそっと言う。


「フローリアってホラ、王女で聖女でしょ? 床に座り込むなんてなかなかしないけど、あのタタミのさわり心地がすごく気に入ったらしく、向こうの部屋にいる間ずっと床に座ってたわよ」

「そんなにか」


 なんだろう。そのうちグランティル王国の城内部に、幾つも畳の間とかできたら不思議な感じがする。畳ならやっぱり和風の城だよなぁ。

 とりあえず畳の話は一旦置いておいて、俺達は異世界(むこう)へインした。






 インしたらすぐにスレイプニルを呼び出す。そしてせかすように二人に乗ってもらう。


「ちょっ、お兄ちゃんどうしたの?」

「忘れたのか? 向こうへ行く直前に馬車を追い越しただろ。もうじきに、追い越した馬車がおいついてくるぞ」

「あ、そっか」

「スレイプニルさんも珍しいですし、私も一応お忍びですから、目立つのは得策ではありませんわね」

「あ。フローリア、自覚あったんだ」

「まっ! ひどいですミズキ」


 笑いながら突っ込みを入れるミズキと、文句を言うフローリア。確かに馬車に追いつかれると色々気を使うというのはあるのだろうが、一番の理由はきっと別の所にある。

 おそらくこの三人でいる時が、段々特別な時間になってきてるのだろう。不覚にも、俺も多少そんな気持ちがわからんでもないってのが面白くもある。


「ほらほら。そろそろ動かないと馬車に追いつかれるぞ」

「そうだった。それじゃあ……」

「…………」

「フローリア、どうかした?」


 なぜかじっと後方を見るフローリア。とはいえ、スレイプニルからは何の反応もないから、馬車がモンスターや盗賊に襲われてるとか、そんなベタな出来事ではないようだが。


「……なんでもありません。何か……少し、嫌な感じがしましたので」


 なんでもないとの言葉だが、その表情と声には何かを感じるような雰囲気があった。


「気のせいですわ。さあ、行きましょう!」

「……うん、行こう!」


 気にはなるが、それを今問答しても仕方ないと思ったのだろう。そんなフローリアを気遣ってミズキも元気に声を出す。

 なら俺がすることは一つしかない。

 多少気にはなるものの、ミスフェア公国へ向かってスレイプニルを走らせるのだった。


今回は少し短いですが、このあたりで。

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