表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/397

4.それは、初クエストの完了

前回までは、英数字はほぼ全角文字を使用してきましたが、今回より一部を除いて半角文字に統一致しました。

また、今後は書き溜めがある場合、予約投稿で20:00を目安に投稿するようにします。

※先程は時刻を「12:00」と記載してありましたが、都合により20:00に変更します。その為、本日の20:00にもう一話投稿させて頂きます

 抜き身の剣を手に、ミズキは前方のオーク達へ向かって行く。それに気付いたオーク達も、手に持った斧や棍棒を構えて戦闘態勢に入る。

 だが、そんな状況だというのに、俺はこの状況とはまったく関係ないこと思い出した。

 すばやくメニューを開いて……[ログアウト]。






「……っと。まだこの感覚には慣れないな」


 PCデスク前の椅子に腰掛けた体勢で、思わず呟いてしまう。続いて、PC画面に表示されている時計を見る。……やはりそうだ。どうやらログインしている間も、こちらの世界の時間は流れているようだ。

 これはアレだな。何か緊急の連絡が来た時なんかは、LoU内のUIに信号を送って知らせるようなロジックを組み込んだほうがよさそうだな。

 あ、でもこのPCはスタンドアローンだからメール受信とかは無理だな。じゃあスマホの着信音をマイクで拾って、着信の有無くらいを知らせる程度でいいか。


「後は……」


 部屋の壁際中央にある大型テレビのオンにする。サイズは38インチで購入当初はかなり大きかったが、いまやそこまで特別大きいってほどじゃないらしい。でもまあ、俺の部屋にはこれくらいが丁度いい。

 テレビの番組欄を表示して、そのまま検索。しばらくしてお目当ての番組を見つける。北海道の旬なグルメの特集番組だ。以前の同僚が北海道出身で、色々話を聞いたり物産展などに行くうちにはまってしまったのだ。……よし、録画予約完了だ。


「さてと、LoUに戻るか」


 PCに向き合って“カズキ”を選んでインする。一瞬“GM.カズキ”を選んだらどうなるのか……と思ったが、それは別の機会にしよう。今はミズキの初クエストの付き添いだからな。






「……よしっ、大分慣れてきた感じだな」


 ログインやログアウトでの感覚に、少しずつ慣れてきた感じがする。少なくとも最初の頃に感じた、脳が揺さぶられるような感覚はもう受けない。

 視界がハッキリすると、前方にオークへ接近するミズキが見えた。

 NPCとはいえ自分の妹が戦っているのに、番組録画のためログアウトするというのは、やはりゲームだという認識の線引きをしているんだろうな……と感じた。

 愛着のあるゲームだし、キャラたちだけど、一番優先すべきは俺の人生だから。

 とはいえ、この世界も悪くない。この不思議な出会い──繋がりを持った世界だが、もしかするとこれから長い付き合いになるのかもしれない。


(しかし……やっぱりミズキは強いな)


 前方で戦っている……というより、一方的にオークを叩き伏せているミズキを見た俺の感想だ。

 実はミズキはかなりのハイステータスキャラなのだ。というのも、元々はマイハウス内でしか用途のないNPC。そこに、ある意味では主人の家を守るという命を全うする“守護のエキスパート”みたいなものだという遊び心から、俺が不要に高いステータスを設定したのだ。

 実際のところゲーム内ではそのステータスの恩恵をうける場面もなく、実は無意味に高スペックなキャラであるという、いわばスタッフしか知らない遊びのようなものだった。プログラムソース内にコメントでラクガキが書いてあるのと同類だな。


 だが、今回特殊なケースでその“見えない枷”が外れてしまった。幸いにもこの世界には“マイホーム”持ち=プレイヤーは俺しかいないので、恩恵を受けたNPCはミズキしかいない。両親キャラのステータスは普通なのだ。

 ちなみに“マイホーム”というのは自宅、という意味ではなくあくまでLoUシステム下で管理制御されている“マイホーム”である。なので当然のことだが、プレイヤーキャラであるカズキ=俺しか所有していない。


 そんな事を考えてい間にも、前方での戦闘音がいつのまにか止んでいた。

 ミズキはステータスも高いが、実は単身での戦闘技術もかなり高く設定してある。武器を用いた格闘戦だけじゃなく、魔法主体での戦闘でもかなり強い状態だ。

 今はオーク数体の相手を一人でまかせたが、実際のところクエスト目的である『オークの群れ討伐』程度ならば俺の手助けなしでも問題なく完遂できるレベル。


「お兄ちゃーん、終わったよー」


 ミズキは倒したオーク達から戦利品や魔石を回収し終わったのか、歩いている俺に手をぶんぶんふっている。初戦闘が思い通りに行ったのだろう、すごく嬉しそうだ。

 ミズキの側までやってきたが、オークの死体は消えずに残っていた。当然ながらLoUでは一定時間でモンスターの死体は消滅してしまう。そうしないと別の場所にポップ=出現しないという、プログラム上の性質だ。だがこの世界ではそういったポップ制限の問題はないようで、死体はいつまでたっても死体なのだろう。となると、この場で解体か、回収か、はたまた放置するかのいずれかだろう。


「とりあえずオークは回収しておけばいいか?」

「うん。お兄ちゃんの収納なら、いくらでも入るんだよね?」

「そうだな」


 ミズキの「いくらでも入る」という言葉を肯定したが、実際には限度はある。ただ、その限度に達することはまず無いほどの拡張してあるし、万が一限度いっぱいになってもそこはアレだ。自分でプログラムを調整すればいくらでも増やせるしな。

 周囲のオークの死体をミニマップで確認。俺達の周囲に灰色のポイントが6個ほど表示されるが、おそらくこれがオークの死体だろう。

 オークの死体に近寄って手をかざすと、まるで手品のように目の前からスッと消えてしまう。6体全部そうした後メニューの[アイテム]を開いてみる。そこには[装備]とか[消耗品]という区分があるが、その中の[素材]というタブを選択。


  > [オークの死体]x 6


 ……うん、入ってるね。LoUでは存在しないアイテムだったけど、問題なさそうだ。多分これってギルドとかに持ち帰ると、防具のなめし皮とかの素材になるんだな。

 しかし解体か……。実際に目の前で見たらどんな感じなんだろう。きっとマグロの解体とかなんて、比較にならないほどグロいんだろうな。そう考えるだけで、解体技術を覚える気がない。

 ……ああ、そうか。『解体魔法』とかを実装すればいいのか。LoUにない分野だから必要なら拡張していかないとな。

 既にサービス終了したゲームの修正をするなんて、完全に趣味以外の何物でもない。と言ってもかなり贅沢な趣味なんだけど。


「よし。それじゃあこんな感じでサクッと終わらせるか」

「うん! 行こう行こう~」


 数体のオーク……おそらくは巣穴周辺の警戒部隊だろうと思うが、それらが守備していたであろう方向へ進む。マップではオークを示すマークは無いが、何かの入り口らしきマークがある。そちらの方へ進むと洞窟らしきものが見えてきた。おそらくあそこがオークが住み着いている洞窟なのだろう。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「どうする? あの中に入る? それとも何か別の方法がある?」

「うーん、そうだな……」


 どうしたものか。先ほどのオークもそうだが、この森や洞窟はLoUで設定されたものではない。見た目等は酷似しているが、恐らくは別物であの洞窟の内部構造も違っている可能性が高い。

 だがLoUのオークが住み着いている洞窟は、入り口は一箇所ではなく、最低でも二箇所以上あった。なので洞窟の中に火を放ち、入り口をふさいで窒息させるという方法は取れない。同様にいぶりだす作戦も、風の流れがどうなっているかわからないので不確定要素が多すぎる。


「まあ、でもオークだからな。普通に乗り込んで問題ないだろ」

「それもそうか」


 危険を感じない暢気な発言に、ミズキも新米冒険者らしからぬ返答を返す。この場に誰かいれば「新人の女の子になんて危険なことを!」とたしなめられたかもしれないが、幸いにもここには他に誰もいない。

 なので満場一致で俺たちは洞窟へと入っていった。




 洞窟の中は、思ったよりも明るく感じた。確かに陽光は届かないし、明かりが灯されているわけでもないのだが、天井に生えているコケがほのかな明かりを発している。ヒカリゴケか何かだと思うが、LoUでは洞窟マップは天井が無いので、ゲーム内では生えているかどうかは確認できない。ただ、なんとなく設定資料に『洞窟内は天井のヒカリゴケでほのかに明るくなっている』みたいな文章があった記憶がある。

 後は壁や道の脇にある鉱石。それらも薄くだが発光しているようで、洞窟内ではあるがぼんやりと影が見える程度には明るくなっている。


「しかし、本当にオークばかりね」

「まあ、オークの住処だからな。他にいるのはコウモリとかヤモリとか、そんなんばかりだろ」


 洞窟に入った途端、視界右側に表示されてるミニマップも切り替わる。まだ歩いてない部分までしっかりとマッピングされているので、洞窟奥まで迷うことなく進める。まあ、迷路洞窟ってわけじゃなさそうだから、そこまで複雑じゃないんだけど。

 とりあえず進行方向で襲い掛かってくるオークはミズキが一撃で倒していく。でも毎回魔石回収とかしてると面倒なので、思考停止気味に収納へ放り込んでいる。このクエが終わったら一度ログアウトして、さっき思いついた解体魔法を実装しておくことにした。


 そんな訳で、前衛のミズキがオークを討伐し、後衛の俺が即座に回収しながら進む。マップの最奥に更に下へ通じる階段があり降りていく。下の洞窟ではオークの上位種であるハイオークがいた。とはいえ、俺達にとってはオークもハイオークも変らない。先ほど同様に一撃で倒しながら進んでいく。

 そしてようやく洞窟の最終位置にさしかかろうというところで。


「ミズキ」

「……うん、ボスかな?」


 最奥の広間に、ハイオークよりも更に大きなオークがいる。大きいだけじゃなく、持ってる武器も他のオークよりも立派で、頭に王冠らしきものをかぶっている。


「あれはオークロード、だな」

「オークロード……」


 オーク種の中のボスモンスターの一つだ。オークは色々な種族があり、ボスモンスターもオークロードのほかオークヒーローやオークキングなどがいる。その中でもロードは、武器だけじゃなく魔法も併用してくるやっかいなモンスターだ。

 無論、やっかいというのは一般論であり、俺やミズキの相手としては役不足なのだが。


「どうする? アレもやっちゃっていいの?」

「そうだな。……というか、向こうはもうやる気満々みたいだぞ」


 オークロードの方も俺達に気づいており、自分の周りにいたオーク達に俺への攻撃を指示した。広間を突き進んで俺達に襲いかかろうとしたオークたち。だが、その足は広間の半ばほどで進行を止める。

 ミズキが一瞬で広間中ほどまで進み、そのまま正面から来たオークの群れを切り伏せたのだ。

 一瞬の沈黙の後、崩れ落ちるオーク達。その様子を見て、わずかに押し黙るかのような沈黙があり、そして広間内にオークロードの咆哮が響き渡る。おそらくはドラゴンの咆哮のように、相手を威嚇し畏怖させる効果があるのだが、当然俺もミズキもどこふく風。少しばかりうるさいなぁという程度のものだった。

 ……いや、それだけじゃないようだ。

 オークの咆哮に聞こえたそれは、どうやら魔法詠唱の効果もかねていたらしい。身体強化魔法のように、全身から魔力を帯びた波動が立ち上っている。オークロードが深い息を一つし、地面を蹴りミズキに向かい突進してきた。

 躱す。オークロードは即座に向きを変えて際突進。また躱す。今度は突進しながら、手にもった大きな斧を振る。突進を交わしながら斧を剣で受け流す。

 ぱっと見ではミズキの持つ片手剣では、オークロードの大斧を支えきれず折れてしまいそうだが、まともに受け止めず上手に流しているので歪み一つ起きてないだろう。ちなみにあの剣は普通の剣だ。ゲーム的な言い方をするならば、店売り品という所か。


 その後も、オークロードの攻撃をまったく寄せ付けずに回避するミズキ。さすがにオークロードの方も心身ともに疲労がたまってきたようなタイミングで。


「それじゃあ、そろそろ……ッ!」


 ずっと回避をしていたミズキが、攻撃をギリギリで回避したあとオークロードの足元で横に切り払う。すぐさま後方に飛びのき、剣を顔の横で水辺に構える。

 一方オークロードは膝に攻撃をうけ、足に力がはいらずに膝立ち状態のようになってしまう。


「これでッ!」


 剣を構えたミズキがそのまま……一閃。

 瞬きをする程の時間で、オークロードの後方へ流れぬけた。それは走るといより、まさに『流れる』ような動きだった。

 交差されたオークロードは、一瞬ビクッと痙攣した後、上半身を後方に倒して動かなくなった。

 白目をむいた表情には、戦闘時に見せた怒りの感情もなく、何が起こったのか理解できない間に死んだような雰囲気だった。ただ、額に大きく貫いたような剣痕がある。誰が見ても明確な致命傷だろう。


 オークロードの死体を確認したミズキは、ほとんど血がついてない剣を綺麗に拭いて鞘に収める。

 満足そうに俺の方を見て、掌を掲げた。その手に俺も手を合わせてハイタッチを交わす。


「これにて、私の初クエスト、完了っ!」


 ハイタッチを交わした手を握り締め、ミズキは元気良く空へその拳を掲げて宣言した。


そろそろ次あたりで、当初から書きたかった部分に少しずつふれていくと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ