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390.それは、祀られし者との邂逅

 ここ白巳島(しろみじま)は、潮が引けば地続きとなるために徒歩でやってくることができる。

 だからなのだろうか、島には案外しっかりとした道がある。もちろんこの世界でこの時代だから、舗装された道路ではなく踏み固められたものではあるが。

 だが、島の中にそういった道ができあがるほどに、この島には人がやってくるということなのだろう。聞いた話では、ここを訪れた恋人達の多くは破局を迎えるという……あまりありがたくないご利益? があるらしいのだが。


「ふふっ、楽しみですねぇ~」

「……何故に主がそこまで蛇を好いておるのか謎じゃがのぉ」


 先頭を行くアミティ王女と、彼女にしっかりとつかまれて隣をあるくヤオ。その二人……というか、ヤオがこの島に棲む者を感じてそちらへと歩いている。その方向はこの島の中央方向であり、今歩いている道なりに進んでいくことになる。

 ともかく、本当にこの島に(まつら)られている存在が白蛇なのであれば、ヤオがいれば問題はないだろう。そうお気楽に考えて、俺達は軽いピクニック気分で歩いていくのだった。




 暫く歩き、もうそろそろ山の頂上付近……という所で、先頭の二人が立ち止まる。


「主様よ、どうやらあそこにいるようじゃな」

「えっと……ああ、あの祠か」


 彼女のところに行き、言われたほうへ視線を向ける。そこには鳥居が立ち、その先に小さな祠が一つあるのが見えた。だが鳥居も祠も、海風が常に当たるこのような場所にありながら、朽ちることなく比較的綺麗な状態を保っている。一瞬地元の民が丁寧に掃除しているのか……とも思ったが、鳥居の比較的上の方まで万遍なく綺麗な感じだ。

 おそらくここに祀られている者が、本当に何らかの力を有しているのではないのか……? 等と考えながら、俺は鳥居のほうへと進んでいく。それに続いてヤオが来るが、先程まで楽しそうにしていたアミティ王女はその場でとどまったままだ。おそらくは、この先になにか不安要素がある……と感じ取ったのだろう。そのあたりの直感というか、王族ならではの判断力とでもいうべきか。

 なので俺も、それにならってGMキャラに変更しておく。よもやの不意打ちみたいな事があっても、よっぽどの事かなければ対処できるだろう。


 俺とヤオが鳥居に近づくと、祠から強い気配が膨れ上がるのを感じた。これが普通の観光客であれば何もおきなかっただろうが、いかんせん俺の隣にいるのはヤオ──八岐大蛇(ヤマタノオロチ)である。今は10歳前後の少女に姿を変えているが、わかるものにはあふれ出る力を感じてしまうのだろう。


「おでましのようじゃな……別にとって食ったりはせぬ。ちょいと主様が話したそうにしている故、姿を見せてくれんかのぉ」


 ヤオの声に反応したのか、現れた気配は光の塊となり、そして祠の前に姿を現した。それはある意味予想していた通りの、真っ白な蛇であった。普通の蛇にくらべたらあきらかに巨大蛇なのだが、いかんせん俺の中の巨大蛇=八岐大蛇となってしまっている。フローリアの白蛇(サラスヴァティ)や、アミティ王女の白蛇(ニクス)も、本当であればかなり大きいのだが、いかんせん蛇に関しての大きさ基準はちょっとおかしくなってしまっている。


「ほぉ……それが主の姿というわけじゃな」

「……で、これは普通に話ができるのか──」

「うふふっ、始めまして~」

「ちょっ! 待ってくださいお姉さまっ」


 とりあえず話しかけてみようと思っていると、先ほどまで後方で静観していたハズのアミティ王女がいつのまにか隣に。そして、その状況を察知してストッパーになってくれようとしたのか、リスティが彼女の袖を引いている。……うん、既にストッパーになってくれていた。

 その様子に少しばかり微妙な空気が流れたが、咳払いをして意識を戻す。


「とりあえず意思を伝えてみるかの。わしなら、たとえ相手が言語を介せない者とでも意思疎通は可能じゃろ」

「念話みたいなもんか。それじゃあ頼む」

「うむ」


 祠の前にある鳥居の所までヤオが歩いていく。そのまま通り抜けるのかと思ったが、潜る直前で立ち止まる。

 本来、鳥居の真ん中で立ち止まったり、そこを潜ったりすることはあまり良しとされない行為だ。なぜならそこは、神様が通る道という認識が古くから言われているから。だが今回、その鳥居に連なる祠にて祀られている白蛇に話を聞くということで、ヤオは正面から向き合っているという姿勢なのだろう。


『わしらは別段、お主やこの場所をどうにかする気はない。ただこの地に祀られておるお主に興味をもったから来ただけじゃ』


 ヤオの念話が俺達にも届く。おそらく同じ意味合いの事を、目の前にいる白蛇にも伝えているのだろう。ヤオの言葉をうけて、ほんの僅かに頭を動かしたように見える。なんとなく、視線を俺達全員に一巡させたような感じだ。


『ああ、それとじゃな──』


 視線を戻した白蛇にヤオが言葉を続ける。


『聞いた話じゃが、この島を訪れた恋人達を別れさせておるようじゃが……それは一体どういう意味があるのじゃ?』


 ヤオの言葉に俺を含めた全員がハッとする。元々現実世界(あちら)でもこういう噂橋……いわゆる“破局スポット”は聞いたことがある。とある観覧車にカップルで乗るとか、ある池のボートいカップルで乗るとか。今回の島みたいに、カップルで訪れる別れるという話も幾つかあったと思う。

 とはいえ、ここには神様とかそういう存在が祀られている場所のはず。であれば、何故にそういった後ろ向きなイメージの現象が起きてしまうのか不思議である。よもや、あまりよくない存在でも封印されているのかと思ったが、目の前にいる白蛇からはそういった感じはうけない。それに、もし相手が本当にやばい存在なら、出現と同時にヤオが問答無用でつっかかっていきそうだ。

 ……さて。目の前の白蛇は、ヤオにどんな返答をするのだろうか。そもそも、この白蛇が何かしらの意思をちゃんと伝えてくれるのか?

 そんな事を考えた、その時だった。



《あまりその子を責めないで下さい》



『!?』

「!?」


 ふいに聞こえた女性の声に、俺達に緊張が走る。白蛇の前にすーっと光が集まり、中から一人の女性が浮かび出てきた。

 その女性は記憶になく、明らかに初対面だが……何故だか俺は彼女が何者なのか、確信を持って断言できる。


「…………弁才天」


《はい、そう呼ばれております》


 目の前に現れた女性は、そう返事をしてニコリと微笑んだ。




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