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388.それは、祀られし者がいる島

「……で? どういうつもりですか、カズキ」

「カズキさんは私達の事……もう好きじゃないんですか?」

「いや、だから違うってば……」


 フローリアとミレーヌに詰め寄られた俺は、助けを求めるように視線をミズキ達に向けるのだが──


「「「………………」」」


 どこか感情を見せないような視線をじとーっと送ってくる。

 こんな状況になったそもそもの発端は、漁港にておばちゃんから聞いた島に「行ってみないか?」と聞いたところからだ。

 その場に当然全員いたのだが、そこで皆が気にしているのは


“祠に祭られた女神は嫉妬深く、恋人達が島に訪れたら破局させてしまう”


 という部分だ。

 正直なところ、俺はそういう言い伝えは気にしない。むしろ、そういった話が噂されるほどになるのなら、何かしらの原因があるんじゃないのかと興味がわく。

 だが皆はそうじゃないらしく、俺の発言に対して何か含むものがあるんじゃないのかと言い出したのだ。

 う~ん……軽い気持ちで言ったんだけど、まさかこんなにも過敏に反応されるとは思わなかった。

 同行している他の人達は、さすがにこの件に関しては口を出せないのか、生暖かい目でこっちを見ている。そんな中、ヒカリちゃんがこっちに顔を向ける。


「それなら私とカズキさんで、ちょっとだけ見てくるってのでどうかな? 私達なら恋人じゃないから、破局とかそういうの関係ないし」

「んー……そこまで噂話を気にするなら、そのほうがいいのかもなぁ」

「「「「「えっ」」」」」


 婚約者'sの声が綺麗にハモった。俺としては良い解決案だと思ったけど、彼女たちからしたら青天の霹靂レベルだったらしく、とたんに怒ったような悲しむような表情をこちらに見せてくる。

 流石に見かねたのか、ユリナさんとエリカさんがため息混じりに苦言を呈する。


「……もう、カズキくん! 大切な許婚を前にそれはダメでしょ?」

「いくら国王になっても、そういう所は全然お子様なんだから」

「うぅ、すみません……」

「謝るのは私達じゃなくて、あっち!」


 そういわれて皆の方を見るが、どこか呆れ顔を浮かべてこっちを見てる。


「えっと、その……ごめん、皆」


 女の子の感情の機微は、はっきり言って今の俺では十分理解できない。でも、さっきまでの会話で彼女たちを色々不安にさせたってのはわかる。だから素直に謝罪する。

 そんな俺を見て、ため息をついたのはミズキだ。


「でもまぁ、これがお兄ちゃんだもんねぇ……」

「……ですね。カズキらしいといいますか」

「「「うんうん」」」


 続くフローリアの言葉にミレーヌとエレリナとゆきも頷く。そして、どこか「仕方ないわねぇ」という目で全員が俺を見る。

 でも、皆を悲しませてまで強固に行きたいというわけじゃない。それに元々思いつきの行動だから、諦めよう……そう思ったのだが。


「…………ふむ。確かに少し先にある島から、結構な力を感じるのぉ。これはそうじゃなぁ……もしやすると、本当に神に仕える者が祭られてるやもしれぬ」

「えっ」


 これまで我関せずと手酌を楽しんでいたヤオが、ふと海の方を見ながらそんな事といった。元々そういった事を認知する力がヤオにはあるが、こと彩和ではその力は正確に発揮されるようだ。

 そんなヤオの言葉を聞いて驚く俺を見て、ゆきが口を尖らせる。


「もーヤオちゃんてば~! 今のでカズキがすっかり興味持っちゃったじゃない!」

「なんじゃ、わしのせいか? 話が進まんから助け舟を出したつもりじゃったのに」

「船は船でも、全力前進のモーターボートだよ」


 ヒカリちゃんが、俺とゆきにしかわからない例えをする。だがまあ、それは俺の好奇心を後押しするだけだって意味なのは皆理解できたようだ。


「……はぁ。それじゃあ準備しますか」

「そうですね。申し訳ありません、少し寄り道が増えました」

「大丈夫ですわ。道中が思いのほか速くて、全然余裕もありますもの」


 そう笑みを浮かべて返事をするのはリスティだ。……あれ? もしかして。


「えっと……ひょっとして全員で行くつもりですか?」

「当然ですよ。もしかして私達は島に行かず、お留守番させるつもりでしたか?」

「あ、いえ、それは……」


 アミティ王女がニコニコと、でもどこか有無を言わせない表情で詰め寄ってくる。この感じ……よくフローリアやミレーヌから受けるヤツと同じ、王族特有の威圧(ロイヤルプレッシャー)とでもいうべきものだ。

 それに押されている俺を見て、苦笑を浮かべているのはエルシーラとマリナーサだ。


「勿論私達も行きますよ」

「ヤオ様のおっしゃった存在も気なりますし」


 確かにヤオを除けば、精霊だとかに一番精通しているのは彼女たちだろう。もし何かあった時なんかは、頼ることになるかもしれないな。

 そんな訳で一応俺の望み通り、その島への寄り道が決定した。




 その後、もう一度おばちゃんから話を聞いてみた。

 島の名前は『白巳島(しろみじま)』と言うらしい。それがそんな漢字なのかを聞いた瞬間、俺とゆきとエレリナ、それにヒカリちゃんは「あー……」という声をあげてしまった。

 なんとなくだが、そこに祭られている存在がわかってしまった気がするのだ。

 そんな俺たちの気付きを察したフローリアにせかされ、俺はその推測を話した。おそらくこの島には──白蛇が祭られている、と。

 そして、それを聞いた瞬間ガバッと立ち上がる者がいた。ラウール王国の第一王女であるアミティ王女だ。


「行きましょう! ええ、すぐに行きましょうっ!」


 これまでの道中、どちらかと言えば清楚で大人しい感じを見せていたので、彼女とこの旅行で初めて会った人は驚いたようだ。

 アミティ王女は蛇が好きで、フローリアの召喚獣である白蛇(サラスヴァティ)をいたく気に入ったから、白蛇の召喚獣をプレゼントしたほどだ。

 そんな彼女の召喚獣である白蛇(ニクス)を愛するゆえに、他の白蛇にもこのうえない興味がわいたのだろう。


「リスティ、はやくネージュを召喚して下さい。カズキさんもホラ、早くっ」

「ちょっ、わかりましたから、ね?」


 ぐいぐいと俺のすそを引っ張るアミティ王女。つーか、この人こんなパワー系じゃないよね? なんでこんなに力強いのぉ!?

 あああぁぁ……と情けない感じにいっぱられていく俺を見ていたフローリアが、ぽつりと呟く。


「アミティ王女がああやってる時は、静観するに限りますわね……」


 何かを悟ったような、そんな声がすっと耳に届いたのだった。



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