387.そして、立ち寄った漁港にて
海に程近い道をすすむ俺たち。
右側を見ればすぐ目と鼻の先に広がる海。いわゆる太平洋にあたる海……とおもいきや、ここはいわゆる三河の海辺りなので内海である。えーっと、アレだ。現実世界でいうところの渥美半島による内海なのだ。
その影響なのか、俺たちから見える海にはなにやら竹が沢山つきささっている。あれは何だとエレリナに聞いてみたら「海苔を作っています」との事。へぇ、海苔の養殖ってああやってやるんだ。俺がアニメとかで見たことある茣蓙みたいなのに海苔を並べてるのは、仕上げの乾燥をしてる場面か。
そんな海辺を眺めながら延々と走り続けていたが、お腹のすき具合もほどよいかなと思っていると、ちょっとした猟師町っぽい場所へ差し掛かった。
海には漁へ出るための網などを搭載した船のほか、海辺には魚をさばいたりや道具などを手入れするための水場などがあり、人目でいわゆる漁港だとわかる。
そして市場らしく、色々な魚を扱った屋台などもずらりとならんでいる。俺だけじゃなく、皆が好奇心を目に浮かべている。
『皆、あそこに寄っていこう』
念話で召喚獣を呼んでいる者たちに話しかける。普段は念話で話しかけないリスティは、ブレスレット形態になる特殊な召喚獣であるネージュに騎乗しているので、問題なく声はとどいている。
俺の言葉を聞いて、皆はすすっとわき道へと集まり召喚獣を送還する。これだけの面子がいけばかなり目立つ上に、あんな伝説級の獣をひきつれていけば大騒ぎになるだろうからね。
降り立った皆をみて、別段体調が悪そうな人もいないのを確認する。まぁ、あの召喚獣の上ならば、この世界にある最上級の馬車よりも居心地はいいだろうけど。
「よし、それじゃあ少し寄って食事でもしていこう」
「やった! 漁港の魚介はおいしいもんね!」
「そうだね。私も地元以外はあまり知らないから楽しみ」
ゆきとヒカリちゃんが嬉しそうにはしゃぐ。ゆきの前世は小樽市民だし、ヒカリちゃんにいたっては現役の小樽っ子だ。やはり新鮮な魚介は興味あるのだろう。
「……ふむ。こちらの港町では、貝類……とくアサリとかが多いようですね」
「アサリ? それって貝の名前?」
「はい。私は、味噌汁の具でよく頂きます」
「ミソシル……ああ、彩和のスープね」
エレリナとミレーヌが、ラウール王国の王女姉妹に彩和の食説明をしている。とはいえ、両王女はミレーヌとも旧知の仲なので、彩和と交易のあるミスフェア公国にもよく訪れており、あの大陸に住んでいる人の中では結構知識があるようだ。
他の皆も色々と思惑があるのか、屋台並びに近づいていくとうっすらと笑みがこぼれはじめる。
「……どこかに良い地酒はないかのぉ」
ヤオが珍しい酒でもないかと視線をめぐらせる。その発言にエレリナもピクリと反応してヤオを見る。仲良し飲み仲間だな。
とりあえずうろうろとしながら、刺身だ佃煮だと魚介をふんだんに使用した食べ物を購入していく。買ったそばからストレージに収納して、新鮮なままで保存しておく。無論この中の幾つかはこれから食べるのだが、今後のために残す分も十分確保した。
少しだけバラけて購入した後、再度集まっていよいよ食事だ。買ったものを自由に食べる事ができる屋外テーブル席があるので、そこで皆で集まって食べ始める。
テーブルにざっと並べていくと、新鮮な数々の切り身を中心とした刺身バイキングのようだった。赤身、白身、青魚……おっ、イカもあるじゃないか。茹で上げたアサリも購入しておいたので、さっそく味噌汁に入れてみる。ごはんに関しては予めストレージにしまっておいたおにぎりを出す。この方が後片付けが楽だからね。
それじゃあ早速……と、俺はまず刺身から手をつける。やっぱりさばきたて新鮮な刺身があれば、それから行くにきまってるでしょ。
「……うん。いいね、旨い」
「うむ、良い味じゃな。酒に合う」
いつのまにか程よい酒を購入していたヤオが、イカをつまみながら酒を飲んでいた。おいおい、まだお天道様が高いのにいきなりはじめちゃうのか……という感じだが、ヤオに関しては平常運転だ。ここにいる皆も理解しているから、特に誰もなにも言わない。
「ヤオ様、どうぞ」
「おお、すまんな」
いや、むしろお酒を注いで進めてる。どこか心休まる光景を眺めていると、狩野の姉妹……というのは正確には違うけど、ゆきとヒカリがなにかわいわい話している。
「……ね? 懐かしいんじゃない?」
「そうかもね……。昔は地元だったし……」
「ゆき、ヒカリちゃん、何が?」
「あ、カズキ」
「えっとですね──」
俺の問いにヒカリちゃんが、持っていた皿をこちらに見せる。そこに乗っているものを見て傍にいたフローリアは、
「えっ……これはロブスター? でも、随分小さいし、色合いも違う……」
「んー……見た事ありませんね」
「なんかエビみたいですけど……」
同じく傍にいたユリナさんとエリカさんも不思議そうな顔をする。こちらをちらりと見たヤオとエレリナは知っているようだったが、それ以外の人は知らないようだ。
「カズキ、これ何か知ってる?」
「知ってるよ。これは……『シャコ』だろ」
「正解~♪」
そう、目の前に出されたのはシャコ……あのエビが上から平らになったようなヤツだ。寿司のネタとして知ってるけど、こうやって改めてみる事はあまりないかな。
なんでもこのシャコだが、ここ近海では非常に漁獲量が多いだとか。それを何故ゆきやヒカリちゃんがワイワイはしゃいでいたのかと言うと、彼女たちの故郷である小樽の特産がシャコなんだとか。
ただ、シャコは皮をむくのが少々手間らしい。だがその話を始めるとゆきが、
「あっ! ふっふっふ……私にまかせて!」
そう言って小刀を手にし、皿にのったシャコ均一に並び変えた。そして──
「はいっ、はいっ、はいっ!」
シュシュシュッと振りぬいていく。そして終わると皿に乗ったシャコを一匹手に取る。そして皮を指でつまんですっと引いていくと……綺麗にはがれた。
「わっ、綺麗にとれた」
ヒカリちゃんが驚く。当然彼女も皮むきは手馴れているが、こんな方法で皮を極限にむきやすくする方法が現実世界にはない。
ゆきは綺麗にむいたシャコを醤油につけ、それをヒカリちゃんの口もとへ。
「ほらヒカリ。あーん」
「えっ、えっと……」
「いいから、あーん」
「……あーむっ」
少し頬を赤くしながらも、ゆきが差し出したシャコをぱくりと食べる。その様子はどこか手馴れており、生前のゆき──雪音も陽光を溺愛していたんだと感じた。その後、すぐさまヒカリちゃんからゆきに、おかえしのあーんをしているのを見て更に心がほっこりするのだった。
こんな感じでワイワイ食事をしている間にも、珍しい団体旅行者……しかも美人の女性ばっかりということで、色々な人が話しかけてきた。
ただ、ここの猟師町は人がいいのか、変なナンパとかそういったのは一切無し。どっちかといえば、恰幅のいいおばちゃんとかが多いかんじだ。
そんな中、一人のおばちゃんの話に俺たちは興味を惹かれた。
なんでもここから少し行った先にある島には、とある女神様が祭られた祠があるとか。だがその女神様、嫉妬深いため恋人達が島に訪れでもすれば、それを破局させてしまうんだとか。
その島は陸地に近いところにあり、潮が引いたときには歩いて島まで行けるらしい。そのため、話を知らない恋人たちがつい行ってしまい破局する……という事があると。
「お兄さんはいったらダメだよ? あはははっ」
「は、ははは……」
そう言いながらバンバン背中をたたかれてしまった。
……嫉妬の女神様か。
こういう話って現実世界でも時々耳にするけど……もしかして、この世界なら本当に何かいるのかな?




