386.そして、大切な白馬(かぞく)を想う
朝食を終えた俺たちは、狩野一族がお奨めする温泉地へと向かうことに。その際の移動手段に関してだが、予めこちらで用意すると伝えておいた。
というのもここ彩和は、言ってしまえば文明が日本でいう江戸の初期辺り。そうなると移動手段の基本は“徒歩”である。それを踏まえ、あえてなにか乗り物を……となると“駕籠”になってしまう。そんな事になれば一人につき最低二人の余剰人員が付与されるし、なにより効率が悪い。
ということで、俺たちは自前の召喚獣で移動することにした。
いつものように俺がスレイプニルを呼び出し、騎乗できる召喚獣を持っているは同じように呼び出す。
この場にいつもの銀狼、麒麟、二頭のペガサスに加え、今回はヒカリのペガサスに、リスティの白狼もいる。合計するとざっと七頭もの召喚獣だ。
「「「「………………」」」」
その光景に、見送りに来た十兵衛さんや狩野の方たちは、言葉が出ない口を大きくあけて驚いているばかりだ。まぁ……ちょっとした幻想生物園って感じだもんな。
とはいえ、驚いてはいるけど俺たちが召喚しているのを見ているため、怖いとか恐れという感情を向ける者は皆無だ。どちからといえば羨望に近いかな。
そして今回、この召喚獣たちで移動をしようと思った理由の一つが──
「あ、本当だ。ヒカリちゃんとリスティ王女もいるから、人数ぴったりだね!」
嬉しそうに言うミズキの声に、皆もうんうんと頷く。俺たちの人数はヤオを含めて14人であり、召喚獣に二人ずつ騎乗するとピッタリなのだ。
もちろん召喚獣は皆力強く、三人……スレイプニルあたりは四人乗ることも可能だが、それよりもバランスよく騎乗できればそれに越した事はない。
ちなみにアミティ王女の召喚獣である白蛇は、『ニクス』という名前になったとか。毎日自室で可愛がっていると笑顔で報告してくれた。……その報告をしている時のリスティ王女の顔が、どことなく苦笑いだったのは見なかったことにしよう。
「それでは皆さん、行って来ます」
「あ、ああ。いってらっしゃい」
なんとか気持ちを持ち直した十兵衛さんが返事を返してくれた。
こうして俺たちの温泉旅行は、いよいよ始まったのだ。
とはいえまずは召喚獣にのっての移動である。道については海の方へ向かい、海沿いの街道を走っていけばイヤでも着くとの事。……ああ、もちろん言葉のあやでありまったくもってイヤではないよ?
元々この辺りが海に近い場所なので、走り出してすぐさま潮の香りが漂い、そして海が見える街道へと出る。元々この地へ初めて来たときも、スレイプニルに乗って海から来たのだったな。
俺の前に座っているフローリアが、顔をこちらに向けて聞いてくる。
「海辺で出ましたので、ここからは東へ向けて街道をひた走る……ですね?」
「ああ、そうだね」
『……という訳で皆さん、ここから東へ向けて走りましょう』
進行方向を確認したのち、念話で皆に声を伝える。これはヤオと召喚の指輪をつけている者だけに伝わるので、同乗者がそれに該当しないものには伝えてくれるようにともお願いしてある。
ちなみに騎乗している状態は、
スレイプニル:俺、フローリア
ホルケ :ミレーヌ、ユリナさん
キーク :ミズキ、エリカさん
ダイアナ :エレリナ、マリナーサ
ルーナ :ゆき、エルシーラ
セレーネ :ヒカリちゃん、ヤオ
ネージュ :リスティ王女、アミティ王女
となっている。ヤオは別に出てきてなくても大丈夫ではあるが、折角人数がピッタリになるからという理由で呼び出している。
そんなヤオが乗っているのは、ヒカリちゃんのペガサスだ。多分この中で一番新米の召喚獣持ちだと思うが、信頼しているのかその騎乗ぶりは中々に堂々としている。それに左右にそれぞれエレリナとゆきがいるので、ペガサス三頭が並んで走行──正確には低空飛行をしている。……うんうん、やっぱりペガサスは三頭並んでる図が一番いいよね! トライアングルでアタックなのがクリティカルだよ。
そんな事を考えて笑みを浮かべていると、それを見たフローリアが不思議そうな目を向けてくる。
「……カズキ、なんだか楽しそうですね」
「あ、うん……そうだね。楽しいよ」
そう返事をした俺を、もう一度じーっと見てから「……みたいですね」と小さく息を吐く。どうしたのってたずねてみると、
「なんだか熱心……というのとは少し違いますわね……。ヒカリさんを見る目が、なんだかあまり見ない感じの楽しげな雰囲気でしたので」
「あー……えっと、正確にはヒカリちゃんというよりも、三頭のペガサスを見てって感じなんだよね」
「まぁ、そうだったんですか?」
俺の言葉になるほどという感じを見せるフローリア。
「うん。なんかさ、俺がいた現実世界だとペガサスって完全に空想の世界の生き物なんだよね。それで、あんな感じで集って走ってる姿は、なんだか煌いて見えるといつか……そういう事だよ」
「なるほど……確かにそうですね」
そう言って笑みを浮かべる。ただその様子を見て、俺はあることを思い出す。
「でもさ、一番最初にこの世界で煌いて見えた白馬は、あそこのペガサスじゃないよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだよ。…………わかる?」
「私がですか──あっ」
俺の問いかけに不思議そうな顔を浮かべるも、すぐに何か思い当たったように驚いて目を見開く。
「もしかして、プリマヴェーラですかっ?」
「うん、正解」
当たりだと返事をすると、嬉しそうに手を合わせて笑顔を浮かべる。プリマヴェーラはフローリアが10歳の誕生日に、父である国王様よりプレゼントされた白馬で、彼女の大切な家族だ。
俺たちと一緒に住むようになっても、皆実家へは転移できるようになっているので、フローリアも以前と変わらずプリマヴェーラの元へと足を運んでいる。さすがにこの旅行中は少しだけ期間が開くが、賢い馬なのでそういう事も理解できるそうだ。
俺が皆に召喚獣をあげて結構無茶な移動をする前は、何度かプリマヴェーラとも行動を共にしたこともあった。そう思うと、俺もなんだか久々にプリマヴェーラとも遊びたいような気になってきた。
「……目的地に付いたら、プリマヴェーラも呼んでみるか」
「まぁ、よろしいんですか!?」
「うん。ここ彩和もいい所だからね」
「そうですね、是非に!」
喜びの笑みに更に笑みを重ねるフローリア。
よしよし、旅の楽しみは多いに越した事はないもんな。
先日投稿できなかったので、不規則更新をしました。




