380.それは、ちょっとした襲撃において
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夜の闇にまぎれて襲撃する影が……マップに表示されているマーカーは7つあるが、そのうち2つは距離をとっている。こっちにむかってくるのは5つだが、そのどれもが黄と赤の明滅をしている。ということは、おそらく──
──キンツ!
何かがはじかれるような音が俺のすぐ傍で鳴る。狩野の屋敷を出るとき、既にGMキャラに切り替えておいたので、これは単純な物理攻撃の無効化だ。見れば運動エネルギーを失った苦無が地面へ落ちていく。
「……わかり易いな。もう少し正体を隠す努力とかないのか」
「まぁ、そういう事なんじゃろ」
俺の呟きに、どこかヤレヤレじゃなという感じで返事をするヤオ。この夜闇でもヤオには襲撃者たちがしっかりと見えているのだろう。
飛んできた苦無を気にせず前に出て行く。あちらとしても、まさか回避もせずそのまま直進してくるとは思ってなかったのだろう。慌てて散開するのがマーカー表示でもよくわかる。
そしてその中の一人が再び向きを変えてこちらに来る。本来なら夜の暗さを利用した奇襲だったのかもしれないが、こちらは相手の位置が明確にわかってしまう。なのでタイミングを見て仕掛けてきた相手に、正面からお出迎えをする。
「相手の技量を見極めるまで、手は出さないほうが懸命だよ」
「ッ!? ぐあっ!?」
攻撃が届く直前俺が呟くと、虚を突かれたように一瞬動きが鈍る。そのタイミングで鞘に収まったままの天羽々斬で一撃入れる。攻撃を受けた相手は、十分な体勢を保てず地面へと落ちた。……大丈夫そうだな、よかった。
「「ッ!」」
その様子を見ていた襲撃者のうち、近くにいた二人が高速で近づいてきた。先ほどよりも更に早く、マップのマーカーも明滅しながらも時折点滅までしている。おそらく移動系のスキルか何かで、高速化だけじゃなく一瞬で距離をつめる座標移動を兼ねた移動手段なのだろう。
マーカーのひとつがこちらに接触するタイミングを見て、俺は地表に落ちた襲撃者のほうへ瞬間移動する。これはGMが元々もっている視認可能な場所への座標移動だ。難点は屋内では使えないので、ダンジョン内では活用できないことか。
俺が地面に倒れている襲撃者のところに現れると、こちらに駆け寄ろうとしていたもう一人が驚いた声をあげる。
「なっ……」
「よっと!」
先ほどのように驚きに硬直した瞬間、同様に鞘を打ちつけて意識を奪う。上空ではいきなり消えた俺が、眼下で仲間を昏倒させているのを見て驚いている気配がしている。
「こ、この──」
「動きが素直すぎるな」
「は? ……うぅっ!」
こちらに向かってくる相手に、すれ違いざま一撃をいれる。結果三人仲良く気絶している状態のできあがりだ。
さてヤオはどうなったのかな……と思ったのだが、襲撃者二人を両手につまんだヤオがこっちにやってくるのが見えた。あちらも気絶させたのだろう。
後は少し離れた場所にいる二人だが、迷っているのか近づくことも遠ざかることもしない。とりあえず、この五人の誰かがおきるのを待つか。
「んっ…………は!」
暫く現状待機をしていたら、最初に俺が昏倒させた相手が起き上がる。そして暫し距離をとってこちらを──正確にはまだ気絶している仲間を見ていた。
俺とヤオは顔を見合わせて、少しばかり離れてあげる。するとすぐさま仲間を起こしにかかる。こっちも別に何かしてるわけじゃないので、残りの四人もすぐに意識を取り戻す。
意識を戻した全員がこっちを見たので、俺は少し近づいて話しかけた。
「はじめまして、俺が誰なのかは知ってると思うけど……ここより海を越えた大陸にある大和という国の国王、カズキ・ウォン・ヤマトだ」
「「「「「えっ!」」」」」
「ん?」
俺の自己紹介に襲撃者たちは思いっきりビクッとなる。おいおい、まさか俺だと知らずにあんな襲撃してきたのか?
「何? まさか知らずに襲ってきたの? ここじゃあアレは日常なの?」
「い、いえ、その……貴方がカズキ殿であることは承知しておりましたが……」
「……が?」
「その、国王だとは知らされておりませんでしたので……」
「あー……」
その言葉に思わず脱力する。あと“知らされて”という事場で、自分の考えがおおよそ正解なんだろうと確信した。
「はぁ……十兵衛さんかな?」
「はい」
俺の疑問にすんなりと答えてくれる。おそらくそう聞かれたら答えていいといわれていたんだろう。
「元々殺意もなかったし、こちらへの技量試しかなにかだったのかな?」
「……そこまでわかりましたか」
自分たちの技量不足かと落ち込んでいるが、殺意が無いのはマーカーが黄と赤で明滅してたからなんだけどね。
「とりあえず離れて控えている二人も呼んでもらっていいかな?」
「なっ……それにも気付いておられましたか。失礼ですがいつからでしょうか?」
「えっと、最初から」
俺の言葉に「はぁ~……」と落ち込む様子を見せる襲撃者たち。……いや、襲撃者ではなくこの人達は。
「えっと、一応確認するけど貴方たちは狩野の者かな?」
「はい」
返事をしながら懐から出した笛を吹く。特に何も聞こえなかったが、おそらく普通の人間には聞こえない音が出るのだろう。とまっていた二つのマーカーがこちらにやってくる。道具をつかって笛の音の指示をまっていたのか。
少しするとその二人も合流し、目の前には合計七人の狩野の忍が。
技量試しか何かだったらしいけど、もう少し詳しくそのあたりの話を聞いてみようじゃないか、うん。




