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379.それは、嬉しい歓迎と嬉しくないお出迎え

追記:次回更新は4/4とさせて頂きます、申し訳ありません。

 まずは家主に挨拶……という流れになると思ったが、今十兵衛さんの前にいるのは俺だけである。ミズキたちは少し遅れてやってきたゆき達のお母さんと、別室で賑やかに歓談しているのだろう。

 それで俺はというと、庭に面した部屋で茶を飲んで腰を落ち着かせていた。ここから見える眺めが、ちょっとした日本庭園を醸し出しており風情がある。


「それでカズキ殿……っと、これは失礼した。これからは大和国王と呼ばなければいけませんかな」

「ちょ、やめて下さいよ。これまで通りでお願いします」

「はははっ、カズキ殿がそういう人だからこそ、ゆきもゆらもついていくのかもしれませんな」


 楽し気に笑う十兵衛さんに、俺は苦笑いを返す。自国の人たちから王と呼ばれることに関しては、まだ多少のむず痒さはあるけどこれからを見据えた場合必要な事だと思っている。でも彩和の……特に十兵衛さんとかには、そういうのは無しでこれからも接してほしいと思っている。なんといってもゆきとエレリナの父親なんだし。


「それにしても、カズキ殿の周りはいつも華やかだな」

「ははは……。まぁ自覚はありますので、何も言えませんけどね」


 普段いるメンバーだけでもそうなのだが、今日はギルマス姉妹にラウール王国の王女姉妹、それにエルフ二人組がいて、おまけにヒカリも加わっている。

 ……うん。はたから見れば色んなキレイどころを侍らせているハーレム野郎だ。いつものように国内を散歩しているならまだしも、見知らぬ地での闊歩となればどういう目で見られていても不思議はない。

 とはいえ、これで絡んでこられたりしても多分返り討ちにしちゃうと思う。ユリナさんとエリカさんはそこいらの冒険者より腕が立つし、アミティ王女もリスティ王女も危険になれば召喚獣が守ってくれるだろう。


「ま、まあその話はまた別の機会にということで……で、お願いしておいた件ですが」

「おお、わかってるよ。いい温泉宿と、畳職人の話だな。どっちも準備万端だ」

「はい。ありがとうございます」


 温泉宿というのは、当然これから向かう先の事だ。こういうのは、やはりその地に住んでいる人に頼るのが一番いい。そして畳職人は、ヒカリが求めた和風家具の職人である。畳のベンチが欲しいという以外にも、畳座布団や小物のほか、色々使える畳表(たたみおもて)も欲しいんだとか。なんかすげーな。

 ともかくそんな感じで、この温泉旅行では十兵衛さんに手を貸してもらっている。何かお礼をとも思ったが、


「ゆきとゆらを、よろしく頼む」


 と頭を下げられたので、それ以上は何も言わずに「はい」と力強く返事をした。この旅行が終わり帰ったらまずフローリアとの結婚をし、それが落ち着いたら皆との事もちゃんと進めていこう。そう改めて強く意識をした。


 それから幾つか他愛ない話をした後、俺たちは皆と合流。そこであらためて、十兵衛さんに初対面の人たちが挨拶を交わしたが、そこでラウールの王女二人の挨拶を聞き、おもいっきり驚いていたのは予想通りだった。むろん二人もフローリアとおなじように、身分を気にせず接してくれと言ったのだが、十兵衛さんが俺を少し恨めしそうにみているのはちょっと面白かった。


 そうしている間にも、ゆっくりと日が暮れてきた。

 元々俺たちの国とここ彩和では、10時間ほどの時差があるからしかたない。朝集まって出発しても、こちらにきたらいきなり夕方前なんだからな。

 実際のところ、気持ちとしてはこれから日中……という感じがしないでもないが、明日からの旅行での時差感覚を減らすために、今日はこの狩野家にお世話になることになっている。いつもなら現実世界(あっち)との行き来も利用するが、今回は半分ほどがそれを知らない人たちなので、普通に頑張って時差感覚を薄めるようにしよう。




 その日の夕食は、ちょっとした歓迎会的な宴会だった。無論俺たちが客として迎えられたというのもあるが、やはりゆきとゆらが久々にそろって帰ってきたことが一番のようだ。

 二人も今では自由に転移で戻れるのだが、基本的に用事がなければ彩和には頻繁に顔を出すことはない。最近だと、旅行先と畳職人の話を十兵衛さんにとエレリナに言伝を頼んだ時くらいだろう。


 楽しい食事を終え、お風呂に入りあとは寝るだけ……という事に。

 だが、やはり気分的になかなか眠気はこない。多少は無理してでも寝ておかないと、明日の日中に眠くなったりしないかと不安もある。

 なので、ちょっとだけ外出をして運動でも……そう思ったら。


『主様よ、どこへ行くのじゃ?』

『は? ヤオか?』


 いざ外へ……と思ったその時、ヤオの声が脳内に聞こえてきた。でも、あれ? どこで何をしてるかまで感じられるの? そんな疑問が湧いた時、俺の影からぬっと出てくる人影が。いわずもがな、ヤオである。


「いや、こっちへきて主様が一人じゃと寂しがっておらんかと思って、ついさっき影をつたって来たところじゃ」

「……そうか。まあ、寂しいってほどじゃないけど、来てくれてありがとうな」

「うむ」


 いい笑顔をうかべたヤオが目の前にいたので、なんとなくそのまま頭をなでる。主従関係があるたか、こうして撫でてやるとヤオが喜んでいるという感情がこっちにも伝わってくるのだ。


「して、主様は何をしておったのじゃ? 夜這いか?」

「なんでだよ。わざわざよそ様の家にきて夜這いとかしないよ。というより、そもそもしないって」

「なんじゃ。主様の許嫁たちの中には待っているのもおるというのに──」

「え、あれ? えっと、それってそういうこと? 聞いていいのかな?」


 ヤオの言葉に一瞬スキをつかれたように、つい聞き返してしまう。だがヤオは「はて、どうじゃったかのー」とはぐらかした。うぐぅ……。

 とりあえず気を取り直して、俺は先ほどの目的を説明した。寝付けないのでちょっとだけ外出してこようかという事を。


「なるほどな。ならわしも同行するぞ。よいな?」

「ああ、もちろん」


 そう返事をして、すぐさま二人で部屋を出る。特に誰かに知らせるつもりもないので、二人とも気配を完全に消して狩野の敷地の外まで出る。

 そして少し離れたところで、少しだけ緊張をやわらげた。


「……なんだか、以前もどこかで同じようなことをした気が」

「ん~……ああ、アレだ。スレイス共和国の温泉宿で、深夜に抜け出した時だ」

「おお、そうじゃったな。確かあの時は、道中に出会った盗賊団の残党が押しかけてきておって、それを退治したのじゃったな」

「そういえば、そんなこともあったなぁ」


 そんな事を言いながら、ふと目を向けたマップに幾つか近寄ってくるマーカーが見えた。これが赤ければ敵なのだが、どうにも黄と赤で明滅している。これって……。


「……ヤオ」

「わかっておる。じゃが先の件とはちいとばかり違うようじゃな」

「ああ。だがもし戦闘になったら──」

「来るぞ!」


 ヤオの声で会話が切れる。いつの間にか該当の人物たちは、すぐそばにまでやってきていた。

 それだけで十分理解できる。こいつらは以前温泉街で襲撃してきた盗賊なんかよりもはるかに強いと。




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