374.それは、お久しぶりの訪れ
フローリアの両親──国王様と女王様に、改めての報告をした翌日。俺は皆と一緒に現実世界へ行った。
というのも、一応の報告も兼ねてゆきの前世の妹──陽光ちゃんにも報告しておくためだ。
これに関しては急ぎの用件ではないが、領地が改めて建国し、それに付随して色々と変化するので知らせておいたほうがいいと思って。なんせ彼女は、俺以外で唯一異世界に来ることが出来るのだから。
それでまあ、連絡要因としてゆきと一緒にログアウトしようと思ったのだが、
「ヒカリちゃんに会うの!? 私も行く!」
「いや、直接会うんじゃなくて電話で話すだけで……」
「カズキさん! 私も行きたいです!」
という感じになり、結局いつも通り全員で……という事になった。
そんな訳で久々に皆で俺の部屋へ。窓の外は明るく、時刻はまだお昼前という頃合。それならばと早速陽光ちゃんのスマホへ連絡をする。せっかくなのでスピーカーホンにしたみたが、すぐに応答があり元気な声が聞こえてくる。
『もしもし、カズキさんですか? お久しぶりです!』
「お久しぶり。えっと、今通話をスピーカーにしてるけどいいかな?」
『え! そこに皆いるんですか? お姉ちゃんも?』
「いるわよー」
『あははっ! 全然オッケーですよー!』
スピーカー越しでも笑顔が想像できるほどの声が返ってくる。それを聞いて俺たちも、楽しい感じが顔に浮かんでしまう。
「ええと、それでね陽光ちゃん。ちょっとお話してても大丈夫かな?」
『はい、大丈夫ですよー。っと、今って以前お邪魔させてもらったあの部屋にいるんですか?』
「ああ、そうだよ」
『わかりました! それじゃあ、ちょっと待っててくださいね』
「へ? それはどういう──」
陽光ちゃんの言葉に意味がわからず、聞き返そうとするもどうやら保留状態になっているようだ。
「カズキ、ヒカリさんはどうされたのですか?」
「いや俺もよくわかんないんだ。急にちょっと待っててといわれて……」
「はぁ……すみません。陽光は昔っからあんな感じで……」
色々あったけどやはり陽光ちゃんは自分の妹なので、この展開については素直に申し訳ないと頭をさげるゆき。でもまあ、別に何か実害があるわけじゃないからいいけど。……動向に困ってるけど。
そんな訳で、さてどうすれば……と思っていた時だった。
《ピンポーン》
突如限界の訪問チャイムが音を鳴らす。正直な所、ここのチャイムを鳴らす人なんて滅多に居ないのでひどく驚いた。
そして、俺以上に驚いたのはゆき以外の皆だった。
「え!? 何なにナニ!?」
「ちょ、落ち着いて下さい」
「カズキさん、今のは一体……」
「あー……今のはここに誰かが訪問してきたよって合図だから」
「まぁ、いわゆるドアノッカーの役目をする機械よ」
俺とゆきの説明に皆が「ほぉー」と感心の声を漏らす。そんな返答をしながら、俺は玄関向かう。そして、その後ろにゆきもついてくる。
「……なあ。もしかして……って思うんだけど」
「うん、私ももしかしたらって思ってる」
何となく想像がつくが、玄関ドアの内ロックをはずしてあける。そこにいたのは──
「お久しぶりです、カズキさん! あっ、お姉ちゃんも!」
「「やっぱり……」」
案の定、これ以上無いという笑みを浮かべた陽光ちゃんがそこにいた。
「──で? これは一体どういう事なの?」
あの後、陽光ちゃんを家に上がらせてとりあえずリビングへ。そしてまだ俺の部屋に待機していた皆を呼ぶと、まず驚きがあり続いて楽しげな再会の挨拶を。それがひとまず落ち着いて、皆がテーブルについたところでゆきが切り出した。
「どういう事って?」
「わかるでしょ? なんで陽光がこっちにいるのよ!? しかも電話してすぐ来た──って、えっ……もしかして!?」
言及していたゆきの言葉が詰まる。だが俺もまったく同じ事を考えてた。もしかして……
「えへっ! この春からこっちの大学に通うから、引っ越してきましたー! ちなみにお部屋は隣だよっ」
「「ええーッ!?」」
俺とゆきの驚き声がハモる。そして他の人たちは──
「えっと……もしかしてヒカリちゃん、こっちに引っ越してきたってこと?」
「ふっふっふ……この部屋のお隣さんです」
「ということは、これからはまたご一緒する機会が……」
「はいっ! ですのでよろしくお願い致します」
「「「「おおーっ!」」」」
陽光ちゃんの言葉に皆歓声をあげる。俺としても心境してきにはそっち寄りだが、一人だけその波に乗れない人物がいた。……ゆきである。
「もうっ! なんで教えてくれなかったの? というか、お父さんとお母さんはちゃんと認めてくれたのよね? よく許してもらえたわね」
「教えなかったのは、驚かそうと思った……とかならまあ、面白いんだけどね」
「あれ? そういうのじゃないの?」
てっきりサプライズ系の理由だと思っていたけど、どうやらそうじゃないらしい。
「内緒にしてたのは、東京の大学に落ちてたら恥ずかしいからだよ。あらかじめこっちに引っ越してくるよーって言いながら、いざ受験して落ちてたらっていうのは恥ずかしいでしょ?」
「ちょっ、陽光ってばそんなギリの受験したの?」
「いや、一応大丈夫だろうなーってトコ行ったけど、それでもやっぱ怖いじゃない」
タハハと恥ずかしそうにする陽光ちゃん。確かに前もって宣言しておいて、結果落ちました行けませんではバツが悪すぎる。
「でも、ちゃんと合格できましたので、皆さんこれからよろしくお願いします」
とにかく嬉しいという感じで、終始ニコニコ笑顔の陽光ちゃん。こうなってしまうと、さすがにゆきも、何かを言及することは出来ない。
もとより、ゆきは本当の家族ではない。……まぁ、陽光ちゃんからしてみれば、やっぱりお姉ちゃんなんだろうけど。
「……皆、今後とも陽光の事よろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げるのだった。
そして暫く楽しく話していたのだが、ふと陽光ちゃんが何かに気づいたように話しかけてきた。
「カズキさん、ちょっといいですか?」
「うん、どうかしたの?」
「その……カズキさん、何かお話があったんじゃないんですか?」
「………………あ」
「「「「…………」」」」
しばしの沈黙の後、ぽろっともれた俺の声に皆の視線が集まる。
「いや、だってホラ、陽光ちゃんがこっちに引っ越してくるってエピソードで驚いちゃったから……ねえ?」
あわてて言い訳するも、皆──特にフローリアからはジト目がきつい。とりあえずフローリアに強く謝ってから、陽光に今回こちらに来た件を話した。
「──つまり、あのヤマト領が大和国となり、カズキさんが領主から国王になったと。そして、いよいよフローリアさんとの結婚に至る……と。おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます」
「もしかして、フローリアさんと結婚するために、領地を国にして国王になったんですか?」
「あー……まぁ、そういう事だ」
「ほほぉ~……そりゃまた、なんとも豪気ですねぇ」
楽しげに、そしてニマニマとした笑みを向ける陽光。うっ、ゆき曰く中々手ごわいと言っていたけど、こういう感じなのか。
「こぉーら。カズキは一応あっちじゃ国王なんだからね。こっちではいいけど、あっちに行ったら失礼な事はダメだよ?」
「わかってるわかってる」
「いや、出来ればこっちでもお手柔らかにして欲しいんだが……」
楽しいやり取りをしている中、皆のお茶と菓子を補充して席についたエレリナが、そういえば……と話を切り出した。
「ヒカリさんは、これからの予定は何かありますか?」
「ん? 予定?」
「はい。折角ですので、またご一緒できたらと思ったのですが……いかがでしょう?」
「うん、全然大丈夫だよ。それに大学が始まるのはまだまだ先だからね。なんだったら、今からでもいいよ」
楽しそうに言うところを見るに、こうなるかもしれないと想定していたな。
「えっと、ダイガクって……?」
「大学ってのは陽光ちゃんが今度通う学校の事だ。始まるのは──」
「まだ2週間以上あるよー」
「そうですか。それなら決まりですね」
「それじゃあ私ちょっと準備してくるね。場合によっては異世界に数日いるってことでしょ? 自分の部屋の電気とかみてくる!」
そうしてパタパタと出て行く。その姿を見て、俺はようやくひとつ大きな息を吐き出して思い至った。
また、賑やかしくなるんだろうなぁ……と。




